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日本語教師の国家資格化の議論の整理――大きく変わりそうな資格要件

多くの日本語教師にとって関心の高いトピックと思われる「日本語教師の国家資格化の動き」について、2021年3月現在の状況をまとめておきます。なお、今後の法制化の動きの中でいろいろな変更が生じる可能性もあります。最新の状況は随時、こちらの日本語ジャーナルでご紹介していきます。

最終章「教育機関の類型化と公認日本語教師」の「公的日本語教師」を「公認日本語教師」に修正しました。(4月7日)

日本語教師の資格に関する調査研究協力者会議の議論

令和元年度(2020年3月)に文化審議会国語分科会日本語教育小委員会が取りまとめた「日本語教師の資格の在り方について(報告)」では、日本語教師の質・量・多様性を確保するとともに、日本語教師の資質・能力を証明するために国家資格「公認日本語教師」を創設することが提言されました。これを受けて、資格制度の詳細を検討するために令和2年度に「日本語教師の資格に関する調査研究協力者会議」が設置され、2020年7月に第1回会議が開催されました。

その後、第2回会議が開かれたのは、年が明けた2021年1月でした。ここでは資格制度創設に向けたロードマップ(案)が示されました。それによれば、

・2021年:協力者会議での検討、法案の検討

・2022年:法案国会提出、(法律が成立した場合は)政令・省令の検討と措置

・2023年:試験実施機関・登録機関の指定

・2024年以降:全面施行?

といったスケジュールが示されました。このロードマップによれば、新しい試験の実施スケジュールは早くても今から3年後になります。

その後、2月に第3回、3月に第4回の「日本語教師の資格に関する調査研究協力者会議」がオンラインによる公開形式で開かれ、そこで資格制度について議論がなされましたが、特に資格要件などについての方向性は、前年度までに文化審議会国語分科会日本語教育小委員会が取りまとめた「日本語教師の資格の在り方について(報告)」から大きく変化してきています。

日本語教育小委員会の報告からの大きな変更点

日本語教育小委員会の報告からの大きな変更点と思われるところを整理すると、以下のようになります。

小委員会=文化審議会国語分科会日本語教育小委員会
協力者会議=日本語教師の資格に関する調査研究協力者会議

小委員会(令和元年度)

協力者会議(令和2年度)

学位

学士以上

不問

資格取得の要件

試験合格+教育実習の履修

試験合格+教育実習の修了

試験

合格を要件とする。内容・方法は今後検討

試験①と②に分ける

教育実習

履修を要件とする

文部科学大臣の指定機関での教育実習を含む養成コース修了で充当

試験免除措置

将来的な検討課題

文部科学大臣の指定機関修了をもって試験①免除

更新講習

資格取得後10年以内に更新講習の受講必須

文化庁が予算事業等を通じて研修を充実・強化

経過措置

告示基準の有資格者は公認日本語教師として登録できるようにする

経過措置を設け、告示基準による有資格者が排除されないようにする

変わった大きな理由は法制化の壁

委員のメンバーの一部が変わったとは言え、ここまで大きな変更が生じた大きな理由は、今後、国家資格化していくにあたっての法制的な観点からの大きな壁があったように思われます。日本語教育関係者の議論では、現在や将来の日本語教育を取り巻く環境を踏まえた上で、理想的な日本語教師のあるべき姿が追求されました。しかし、それを法律に落とし込んでいくには、他の国家資格の要件との整合性や前例、規定の合理性などに加え、実際に運用するにあたっての実現性など、さまざまな観点からの再検討が必要になりました。国家資格化することを最優先に考えた場合、諦めなければならないこともいろいろと出てきました。

変更の理由について、資料では以下のように説明されています。

学位:
日本語教師が必要とする幅広い教養と問題解決能力は必ずしも大学・大学院のみで培われるものではない。閣法(内閣提出法案)で成立した他の名称独占国家資格の例を見ても、学士以上の学位を必須の資格取得要件にしているものは存在しない。法律上、学士以上の学位を資格取得要件とする必要性はあるか。学士以上の学位を要件とすることを希望する教員採用機関が採用時の要件として課せばよく、国家資格の取得の時点で門戸を狭める必要はあるのか。

試験および試験免除措置:
文部科学大臣が指定する日本語教師養成機関では、教育課程を通じて公認日本語教師に必要な知識・技能を修得することができる。日本語教育に必要な知識及び技能を有していることが確認できる者については、改めて当該知識及び技能に関する試験を行う必要性は乏しい。文部科学大臣が定める日本語教師養成機関を修了した者については一部の試験を免除することによって、履修者の負担のみならず試験実施機関の負担も減少することができる。キャリアコンサルタントや社会福祉士等他の名称独占国家資格における前例が存在する。

更新講習:
「日本語教育人材の養成・研修の在り方(報告)」に基づき、文化庁では大学等に委託して養成・研修カリキュラムの開発実施・普及するための事業を実施しており、今後全国的な普及を目指す。一律の更新講習をせずとも、これらの研修の普及を図ることにより、日本語教師がより各人に必要な資質・能力の伸長を図ることが可能になる。また、公認日本語教師に対して一定期間毎の更新講習を必須としても、講習の受講対象者が現職教師でない場合、更新対象者や有効期限の捕捉が難しい。

教育機関の類型化と公認日本語教師

公認日本語教師の資格要件と併せて、教育機関の類型化についても第2回、第3回の日本語教師の資格に関する調査研究協力者会議で議論されました。そもそも教育機関の類型化とは何でしょうか。

今回の国家資格化の目的は、日本語教師の資質・能力を証明するために国家資格「公認日本語教師」を創設し、日本語教師の社会的地位を向上させることです。そのためには、公認日本語教師が働く場(日本語教育機関)を定義し、そこに公認日本語教師を配置することを法律で定めることが必要になります。つまり、公認日本語教師が働く場と公認日本語教師の資格内容を一緒に考える必要があり、それによって公認日本語教師の現実的な地位の安定性も生まれます。

今後は、法務省の日本語教育機関の告示基準の中の「日本語教育機関の教員」に公認日本語教師をどのように位置づけるか、日本語ボランティアが大きな役割を果たしている地域の日本語教室において公認日本語教師をどのように位置づけるか、増加している日本で働きたい人向けの教育機関で公認日本語教師をどのように位置づけるかなど、日本語教育機関の類型化と公認日本語教師をセットにした議論が深化・整理されていくものと思われ、大いに注目されます。

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