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日本語学校へビジターセッションに伺いました!-『できる日本語』の「できる!」の活動例

 

7月某日、『できる日本語』の著者陣が勤務する学校でもあるイーストウエスト日本語学校の授業で、日本語話者を招いてインタビューをするビジターセッションが行われました。今回、アルクのメンバーがビジターとして招かれて授業に参加することになったので、その様子を取材してきました。

『できる日本語』の各課のゴールである「できる!」の活動に参加

『できる日本語』の課の最後、「できる!」では課のゴールとなる活動を行うことになっています。イーストウエスト日本語学校では、外部から人を招いて「できる!」に関連したインタビューをしたり、意見交換をしたり、お互いの文化や生活などを紹介したりする活動をよく行っています。このような活動をビジターセッションと呼んでいます。

イーストウエスト日本語学校にはビジターセッションの教務担当者がいて、ビジターセッションを希望するクラスは、申請書を担当者に提出します。その際、ビジターセッションの目的やどのような団体と交流したいかなどを担当者に伝えます。交流先と日時が決まったら、クラス担任はビジターセッション計画書を作成することになっています。実施後は教師、学習者の振り返りも記入します。過去のビジターセッション計画書は教員室内に置いてあり、教員間で共有されているそうです。

これまでアルクにも時々ビジターセッションの依頼があり、毎回、社内で希望者を募って数名で参加させてもらっています。

今回は『できる日本語 中級 本冊』の17課「働くということ」の「できる!」の活動として、仕事についての話を聞きたいという希望があり、中級後半のクラスの45分のビジターセッションに4人で参加してきました。メンバーはアルクの営業部から2人(うち1人は中国出身)、編集部から2人です。ビジターセッション当日までに、学習者は17課を学習し、インタビューの準備を行っています。

担任の先生によると、今回のクラスは話すことが苦手でおとなしいタイプの学習者が多いクラスで、積極的に話してくれるか不安、ということでした。だからこそ、こういう機会に社会人と交流してほしいということですが、さてどうなるか……?

まずはアイスブレイクから

 

 

授業の10分ほど前に学校に到着し、少し涼んでから教室に案内されました。教室には10人の学習者が、2、3人ずつの4つのグループに分かれて座っています。4人のビジターが1人ずつ1つのグループに着席して、簡単に自己紹介をしてスタートです。

今回は課の「できる!」についてのインタビューに入る前に、アイスブレイクとして、お互いを知って仲良くなるためのゲームを2つ行うということで、一つ目は「共通点を探せ!」。10分間で、メンバー全員に共通することを探していきます。「眼鏡をかけている」のような、見た目やすぐ分かることはだめ、というルールです。各グループとも、なかなか共通点が見つからない中、10分間が終了。それぞれのグループから発表します。「夜が好き、朝は嫌い。眠いから」「海外に住んでもホームシックにならなかった」「ドラえもんが面白い」「好きな季節は秋」、などなかなか見つからないながらも面白い共通点が探せた様子です。

二つ目のゲームは10分間で「無人島に3つのものしか持っていけないとしたら、何を持って行ったら生き延びられるか」を話し合って決めるというものです。各グループとも話し合いをスタート、少し場も温まってきて顔を寄せ合って話す様子が見られてきました。時間になったら各グループから発表。どのグループもナイフは必要という意見が出て、他にはライター、パン、お酒、テント、釣り竿なども出てきました。「毛布をライターで燃やして煙で助けを求める」などという意見も出ていました。本当は各々、理由まで聞きたいところでしたが時間の関係で理由は後で共有することになりました。

今回は本題の前にゲームを2つ行いましたが、学習者のキャラクターや学習状況によって適宜、調整しているようで、これまでにはアイスブレイクは特になく、各グループに日本語話者が1人入り、始めから課の「できる!」の内容について話し、時間が来たら日本語話者が移動して回り、全てのグループと話すというスタイルのビジターセッションもありました。今回はとにかく「話す」ことに慣れてもらおうという意図でこのような授業構成になったようです。

「仕事」についての意見をやりとり

 

 

ゲーム終了後、そのまま席も移動せず、同じメンバーで本題「仕事についての意見交換」に入っていきます。まずは学習者のほうから、この日までに仕事について自分の意見をまとめてきたので、それを日本語話者に伝えて意見を聞きます。そしてその後、ビジターに聞いてみたかったことを聞いていきます。先生は、指示を与えたらあとは各グループの様子を見て回っています。

学習者からは「通勤する場所が大事」「時間やお金も大事」などという意見が出てきます。ビジターはそれに対して「通勤する場所は確かに大事、自分も勤務場所に合わせて引っ越した」という経験談や、「お金も大事だけど、モチベーションが続く好きな仕事を選ぶのも大事、やりがいがないと続けられない」「人間関係もとても大事」などという実感のこもったアドバイスをする様子が見られました。また、中国出身のアルクのメンバーに、日本で働くためのVISAについて、具体的な質問をしたい! という学習者も。よく話す学習者、そこまで口を開かない学習者の差はありましたが、全体的に活発なやりとりのうちに終了時間が来て、話し足りない様子の学習者もいるようでした。

 

 

最初にあった「あまり話さないかも」という心配は杞憂に終わり、先生によるといつもの授業よりもよくしゃべっていた、ということでした。アルクのメンバーからは「話している内容がよく分からないというときも、自分も学習者もお互いに伝えたいという気持ちがあったから、学習者同士でサポートしながら言葉を探ったりして伝え合うことができた。その気持ちが大事だと思った」という感想がありました。学習者からも「色々な情報をもらえたし、話すこと自体がとても楽しかった、本当によかった」という声があったそうで、ビジターセッションが日本語で伝えようと思うきっかけ、いい刺激、になったように見受けられました。

『できる日本語』ではこのように課の最後の「できる!」で、外部の人を招いたり、イベントに参加したり、などという活動を組み込むことができます。イーストウエスト日本語学校では大学生や地域の方を招くほか、「中野区や杉並区の交流会やイベントに参加する」「中野区や杉並区の小、中学校へ行ってボランティア講師として文化紹介をする」「子ども食堂に行って地域の人と一緒に配膳したりふるさとの料理を作って振舞ったり文化紹介したりする」というような活動の例があるそうです。

社会につながるような活動を通じて、日本語を実際に運用する機会を得ることは、これから進学したり社会に出たりする学習者の未来に役立つでしょう。どの教科書を使うとしても、このような機会を作れるようなカリキュラムの設計が大事なのではないかと思いました。

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