「学習者が話したくなる教科書」を探すヒント
教科書についていろいろ考えてきましたが、今回は「学習者が話したくなる教科書」というテーマで進めましょう。これまでの話と重なる部分もありますが、いくつか例を挙げて説明します。
〇場面・状況が明確であること
教科書に「イさんはどんな人ですか」「面白くて、親切な人です」という会話が出ていても、学習者がそれを使って話したくなるとは思えません。しかし、喫茶店でお茶を飲みながら、デジカメを友達に見せて、「これ、イさん」と説明している場面だとしたら、「そうか、これが友達のイさん!どんな人かな?」と聞きたくなってきます。こうした場面・状況設定が教科書にしっかり出されていることが大切です。
〇その会話に必然性があること
よく教室で、「毎日、何時から何時まで勉強しますか」という質問が投げ掛けられます。でも、こうした質問は何のためにするのでしょうか。
次の絵の例2を見てください。テストで100点を取ってニコニコしているクラスメイトを見て、「わあ、すごい!自分と全然違う。いつもどれぐらい勉強しているんだろう?」と、日頃の勉強時間を聞いてみたくなります。これだったら、「質問のための質問」ではなく、必然性のある質問となります。
〇「なりきり仕掛け」があること
よく教科書の中で、写真やイラストが提示され、「この人は、何をしていますか」「△△さんはどの人ですか」という練習があります。これは、やはり「練習のための練習」になってしまいます。しかし、「ペアで話しましょう。イラストの中の人物になりきって、話しましょう」というスタンスで教科書が書かれていれば、話は変わってきます。私たちは、これを「なりきり仕掛け」と呼んでいます。
どんな教科書も教師の使い方次第!
さて、どんなに学習者が話したくなる仕掛けがいっぱい詰まった教科書を使っても、教師が「教え込む」という姿勢では、意味がありません。どんな教科書でも、教師の使い方次第、土壌によってアジサイが青くなったり、赤くなったりするのと同じです。OPI(口頭能力インタビュー試験)のマニュアルに、こんな言葉があります。
「学習者が言語運用能力を向上させたいのであれば、教師の取るべき役割は、自分自身を『舞台に上がった賢人』に見立てるような伝統的なものではなく、むしろ、『側に付き添う案内人』といったようなものになるはずである。すなわち、教師側からの話を最小限に抑え、学習者が会話に参加する機会を最大限に増やすという役割である」
ここで、もう一度、自分自身を振り返ってみませんか。また、仲間に授業を見てもらい、コメントしてもらってはいかがでしょうか。自分では気が付かない「自分のクセ」が見えてくることでしょう。
そうです!「学習者が話したくなる教科書とは」の答えは、「どんな教科書/何という教科書」ではなく、「教師の姿勢次第」なのです。
嶋田和子
アクラス日本語教育研究所代表理事。著書に『できる日本語』シリーズ(アルク、凡人社)、『OPI による会話能力の評価(共著)』(2020 年、凡人社)、『人とつながる 介護の日本語』(2022、アルク)など多数。趣味:人つなぎ、俳句 目指していること:生涯現役
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