「学習者の自律的な学び」と教師の役割
「自律的な学びが大切だ」とよくいわれます。一方で現場教師からこんな疑問を投げ掛けられることもあります。
〇自律学習って本当に必要なんですか。大学受験にはもっと効率が……。
〇自律学習が大切なのはわかってるけど、どう進めていいかわからなくて……。
〇努力してるんですが、どうしても時間がかかって、非効率的で……。
実は、こうした疑問は、自律学習をよく理解していないことから生じているのです。教科書を考えるこの連載で、こんな疑問を取り上げたのは、どんなに良い教科書を手にしたとしても、教師自身の意識が変わらなければ、教育実践のやり方にあまり変化は現れないからです。そこで、「教科書を考えてみませんか」シリーズの残り3回は、できるだけ皆さんが自分自身を振り返り、学習者の視点に立って教育実践を考え直し、新たな一歩を踏み出すために役立つものにしたいと思います。
では、「自律的な学び」とは何でしょうか。『日本語教育重要用語1000』(バベル・プレス)では、「自律的な学び」について、「学習者自身が自己の学習に主体的に関わり学習を孤立化せず、教授者や教材や教育機関などといったリソースを利用して行う学習」と説明しています。つまり、学習者自身が目的を定めて、主体的に能動的に学ぶことなのです。少し例を挙げて説明しましょう。
『できる日本語 初中級 本冊』4課の行動目標は、「日本の生活を楽しむために住んでいる町の情報を教え合って、その情報をもとに行動することができる」です。そこで、相手から情報をもらう場面で使う文型として「~んですが」「~たらいいですか」などを学習します。
ここで、文型を自律的に学ぶということは、どういうことでしょうか。それは、教師が提示した文型をただ単に覚え、使えるように練習するのではなく、「こんなとき、何て言うんだろう?」と、まずは考え、チャレンジしながら、自ら発見し、気付いていくことです。タ形を導入したから「~たらいいですか」を練習したり、アドバイスを求めるときには「~たらいいですか」を使うという知識を得た上で練習したりするのではありません。
また、課の最後には行動目標に即した総合的な活動「できる!」がありますが、4課はこのような内容になっています。
「できる!」
今住んでいる町や学校がある町について、知っていることを教え合い、実際に行ってみましょう。
①お勧めの店や地域のサークル、イベントなどの情報を、紹介しましょう。
②聞いた情報の中で、もっと知りたいことについて、紹介してくれた人に質問しましょう。
③興味がある所へ行ってみましょう。
『初中級』で学ぶ学習者で、国分寺に住むチョウさんは、比較的近くに住むクラスメイトを誘って、近所の喫茶店に行きました。そこで、マスターと話をし、店の常連のこと、店をやっている思いを聞き、雰囲気にもすっかり魅せられてしまいました。そんな自分の体験・思いを、今度はポスターを使って、クラスで発表しました。まだ日本に来て3カ月余りというチョウさんたちには、十分な日本語力はありません。しかし、マスターや友達との対話を通して、日本語はどんどん広がっていきました。
最後に、学習者の自律的な学びを支える教師側が忘れてはならないことを、5つ挙げることにします。
①「なぜ」という問いを持ち続ける。
②「学習目標」を明確にし、共有する。
③学習者に「気付き」が起こるように仕掛けをする。
④学習者の持っている力を引き出す。
⑤「選択権は学習者にあり」ということを忘れない。
常に「自律的な学び」を大切にした教育実践を心掛けていきたいものです。
嶋田和子
アクラス日本語教育研究所代表理事。著書に『できる日本語』シリーズ(アルク、凡人社)、『OPI による会話能力の評価(共著)』(2020 年、凡人社)、『人とつながる 介護の日本語』(2022、アルク)など多数。趣味:人つなぎ、俳句 目指していること:生涯現役
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