初級から「固まりで話す」ことを大切にしよう!
対話教育という視点で今の日本語教育を考えると、「初級レベルにおける『固まりで話す』ことの軽視」を問題点として挙げることができます。「固まりで話す」というのは、幾つかの文からなる、ある長さをもった発話、を意味します。皆さんは普段「固まりで話す」ことをどれだけ意識して授業を行っているでしょうか。
まず、初級教科書を見てみましょう。
A:暑いですね。
B:そうですね。窓を開けましょうか。
A:はい、お願いします。
といった、二人の間でのやり取りが中心になっていることがわかります。しかも、長くてもせいぜい一人の発話が1文か2文程度で終わっています。こうしたやり取りを学ぶことも大切ですが、それと同時に、初級スタート時から、「固まりで話す」ことも重視したいものです。
もちろん、初級レベルの読解教材や書き教材には「固まりで書かれた文」が出てきますが、残念ながら、話すことに関してはあまり多く見られません。
しかし、自分の考えや感じたことなどを伝える、伝え合うためには、ある長さをもった発話が求められます。そして、それが対話の基本にもなるのですが、往々にして「それは中級になってから」と、初級では忘れられがちです。初級では1文か2文程度のやり取りが中心、中級になると急に「段落で話せるようにしなければ!」と力を入れはじめるのが現状です。初級レベルから「固まりで話すこと」を意識し、対話力アップを目指した日本語教育を行っていきたいものです。
ここで、対話力アップを目指した初級教科書を、覗いてみることにします。
これは『できる日本語 初級』4課にある「話読聞書」というコーナーです。まだ日本語学習を始めたばかりの4課で、これだけの長さで話せるようになることを目指しています(最終的には、書く・読むといった他技能も視野に入れていますが)。
学びはじめた段階でも、学習者は、知っている話彙・文型を駆使して、いろいろなことを言おうと一生懸命です。「自分の国」「自分の好きなこと」「日本でびっくりしたこと」など……。実は、みんな語りたいことがいっぱいあり、日本語で伝え合うことを楽しみたいのです。
「まだ初級スタートしたばかりだから……」「これしか言葉を知らないのに、長くしゃべれるはずがない」などというのは、教師の勝手な思い込み。もっと柔軟に言語活動を捉え、学習者が日本の海の中でチャレンジしていることを、大切にしたいものです。
次の作文は、2週間前に日本語学習を始めたばかりの留学生ビリクトさんが書いたものです。まず教室で自分の国のことを発表し、クラスメートの話を聞いた後で、4課の「まとめ」として「自分の町」の紹介を書き記しました。
学習者は、こうして、自分自身の頭の中に、日本語のさまざまな「引き出し」を溜め込んでいきます。それがどんどん積み重なって、「対話」のタネが増え、対話力がアップしてきます。
チタは ちいさい まちですが きれいです。チタに こうえんが あります。まいばん こうえんで さんぽします。てんきがいいひ、こうえんで バーベキューをします。私の国は1月、とてもさむいです。チタでさむい日、ブーズをたべます。
このように、初級の最初の段階から対話を意識し、その基礎力を付けていきたいものです。そのためには、「自分のことを語る」「自分の周りのことを説明する」「自分の考えを伝える」ことを大切にした日本語教育を、行っていくことが求められるのです。
嶋田和子
アクラス日本語教育研究所代表理事。著書に『できる日本語』シリーズ(アルク、凡人社)、『OPI による会話能力の評価(共著)』(2020 年、凡人社)、『人とつながる 介護の日本語』(2022、アルク)など多数。趣味:人つなぎ、俳句 目指していること:生涯現役
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