JNTO(日本政府観光局)の発表によれば、2024年春はコロナ禍前を上回る外国人旅行客が日本を訪れていたことがわかりました。特に3月、4月は、観光地や町中で外国人の姿を見かける機会が増えたのではないでしょうか。初めて日本にやってきた旅行客の目に、日本社会や日本語はどのように映るのでしょうか。
コロナ禍前と比較してみると
訪日外客統計(https://www.jnto.go.jp/statistics/data/visitors-statistics/)で、まずはコロナ禍前の2019年と2024年の外国人旅行客総数を比較してみましょう。
月:2019年:2024年
1月:269万人:269万人
2月:260万人:279万人
3月:276万人:308万人
4月:293万人:304万人
1月は2019年と2024年の数字がほぼ同じでしたが、2024年は2月から数字が伸び、3月4月は単月で300万人を超えました。
国・地域別ランキングを同じ4月で比較してみると、以下のような順位になっています。
順位:2019年:2024年
1位:中国(73万人):韓国(66万人)
2位:韓国(57万人):中国(53万人)
3位:台湾(40万人):台湾(46万人)
4位:香港(19万人):米国(23万人)
5位:米国(17万人):香港(18万人)
中国、香港からの訪日客は減少していますが、それ以外の国・地域からの訪日客は、軒並み増えています。特に、韓国、台湾、そして米国からの訪日客は急増しています。また、東南アジアや中東、ヨーロッパなど、まさに世界各地からの訪日客が増えていることが、統計から見てとれます。
訪日客が使うサバイバル日本語
訪日客の中には、日本語にトライする人もたくさんいます。日本人も海外に行ったときに、現地語であいさつしてみようと思うことがありますが、それと同じです。
初めて日本に来た人が使うのは、「ありがとう」「おはよう」「こんにちは」といったサバイバル日本語が多いですが、それでも多くの場合(日本人が海外に行った場合も同様ですが)、「日本語がお上手ですね」などと褒められるので、積極的に使っているうちに、日本から帰る頃にはサバイバル日本語をマスターしてしまうような人も少なくありません。
また、「『おはよう』と『おはようございます』は、どう違うのか?」といったことを疑問に思って、日本人に聞いてくる人もいます。自分が「おはよう」と言ったら、ホテルのスタッフから「おはようございます」と返されたような場合です。こんなことから、普通体と丁寧体の違いを自然と身につける人もいます。
特にご家族でいらっしゃる訪日客の場合は、お子さんが学校で日本語を勉強している(勉強した)というケースが多いように思います。お子さんの中には、日本人同様に、積極的に日本語を使ってみようというお子さんもいれば、恥ずかしがり屋のお子さんもいます。積極的なお子さんはどんどん日本語で日本人に話しかけてきますし、そうでないお子さんは英語などでひとしきり会話した後、最後に日本語でお礼を言ってくれたりします(その日本語がとても丁寧ですばらしい)。コミュニケーションスタイルは、人それぞれであっていいと思います。
日本人も同様ですが、1~2週間程度の海外旅行に行くからと言って、旅行前にその国の言葉を本格的に勉強するという人は多くはありません。ですので、訪日客の増加が日本語学習者の増加に直結するわけではありません。しかしながら、「自分の学んだ外国語でコミュニケーションできた」「ネイティブから褒めてもらった」という経験は、何物にも代えがたい強い学習の動機づけになります。特に、子供たちにとってはそうだと思います。
「日本に来て楽しかった」「日本に良い印象を持った」「また、日本に来たい」――そういった日本ファンが増えることは、間接的ではありますが、
日本事情について聞かれること
日本に来た多くの訪日客は、目に入るものが皆珍しく、日本人にあれこれ質問してきます。
「日本の町はきれいだ。ところで、ごみ箱はどこにあるんだ?」
「電車はいつも時刻表通りに来るのか?」
「(視覚障害者向けの黄色い点字ブロックについて)これは何だ?」
「電車の中で皆黙っているのはどうしてだ?」
「どうしてどこにでも自動販売機があるんだ?」
日本で生活していれば、町中にゴミ箱がないことや、電車が時間通りに来ることは当たり前で不便とも便利とも思わないことも多いのですが、改めて外国人旅行客から聞かれると、そういう社会に住んでいるのだということを改めて感じます。
視覚障害者向けの黄色い点字ブロックは実は日本発祥のようです。そのため、海外の人にとっては珍しいのと、その目的を伝えると感心する訪日客がほとんどです。合わせて、転落防止用の駅のホームドアも非常に好評です。
電車の中で大きな声を出さないのは、日本ではエチケットの一つだと思いますが、海外では必ずしもそうではないのかもしれません。満員電車の中で、誰も一言もしゃべらずに、
こういったやりとりが、訪日外国人にとっても、また訪日外国人を受け入れる日本人にとっても、自分の文化や、相手の文化との違いに気づかされる、とても貴重な異文化間コミュニケーションの機会になっていると思います。
執筆:新城宏治
株式会社エンガワ代表取締役。日本語教育に関する情報発信、日本語教材やコンテンツの開発・編集制作などを通して、日本語を含めた日本の魅力を世界に伝えたいと思っている。
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