まずは「プロフィシェンシー」を理解しよう!
「プロフィシェンシー」という言葉は、聞きなれない人が多いかもしれません。しかし、学習者のコミュニケーションカを付ける授業を考える際には、とても大切な言葉です。『プロフィシェンシーを育てる』(2008、凡人社)にある「用語集」には、「プロフィシェンシー」を次のように説明しています。
予め定められた学習範囲をどれほど達成したかをみる「アチーブメント」(達成度測定)と対立的に用いられ、特定の学習カリキュラムなどとは独立した能力(実力)を意味する。
ですから、よく使われる「アチーブメント・テスト」は到達度(達成度)テスト、「プロフィシェンシー・テスト」は熟達度テスト・実力テストということになります。「用語集」ではさらに、「言語の運用能力促進を目的にする語学教育においては、実際生活上の言語活動において、どのようなことがどれほどできるか、を問う、いわゆる、can-do-statementsの核になる概念である」とあります。つまり、「プロフィシェンシー」とは、「その言語で、どんなことがどのようにできるかを考えるときに、『できること』を束で捉え、それを示す熟達度」だといえます。
この「プロフィシェンシー」を明確に記述しているものに、OPI(Oral Proficiency Interview =口頭能力インタビュ一試験)があります。これは、アメリカにあるACTFL(全米外国語教育協会)が開発した汎言語的な(どの言語にも使える)会話試験です。初級、中級、上級、超級の4つのレベルが設定され、各レベルでできることを明確に記述しています。ここで、ごく一部ですが、上級と超級の特徴を紹介します。
上級:主な時制の枠組みの中で、叙述したり、描写したりすることができ、予期していなかった複雑な状況に効果的に対応できる。
超級:いろいろな話題について広範囲に議論したり、意見を裏付けたり、仮説を立てたり、言語的に不慣れな状況に対応したりすることができる。
学習者の言語能力を「タテ軸」で捉える
では、プロフィシェンシー重視の教科書を使うことで、教師力はどうアップするのでしょうか。一つには、学習者の言語能力を「タテ軸」で捉えることができるようになります。
「タテ軸」で言語能力を捉えるとは、日本語の力を全体として見ることですが、この力をしっかり身に付けている教師はそう多くありません。現実には「初級のこの課で学ぶ項目はこれ。次の課ではこれを……」「初級では文をしっかり。中級になったら段落の勉強を……」などと、平面的に考える教師が多いようです。
特に「はじめに文型ありき」で授業実践をしている場合は、どうしても「文型がしっかり定着したか」にばかり目が行ってしまいます。ぜひ、軸を「文型」から「プロフィシェンシー」に切り替え、言語能力を「タテ軸」で捉えながら、タスク重視の授業を行ってください。
最も望ましい形としては、教科書自体が「プロフィシェンシー重視」になっていることですが、どんな教科書でも、教師自身の意識を変えるだけで、授業は大きく変わってきます。例えば、「自己紹介」というタスクを考えてみましょう。
初級スタート時にできるのは、限られた人との間での自己紹介であり、名前・国・趣味などが言えるにとどまります。
しかし、初級後半になると、より詳しく、趣味や自分の生活について話すことで、人との関係づくりを目指した自己紹介をすることができます。
さらに中級では、人の輪も広がり、日本語を使って多様な人々との交流を深めることを目指します。そこで、「自己紹介」というタスクも、将来の目標を述べたり、自分自身の性格について語ったりすることができると、難易度も上がってきます。
このように「タテ軸」でタスクを考え、教育実践を行うことで、言語能力について、包括性、一貫性、明示性のある捉え方ができるようになり、それが教師力アップにつながります。「プロフィシェンシー」重視で、しっかりタテ軸で考えられる教師を目指していきたいものです。
嶋田和子
アクラス日本語教育研究所代表理事。著書に『できる日本語』シリーズ(アルク、凡人社)、『OPI による会話能力の評価(共著)』(2020 年、凡人社)、『人とつながる 介護の日本語』(2022、アルク)など多数。趣味:人つなぎ、俳句 目指していること:生涯現役
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