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教科書について考えてみませんか-第7回 「プロフィシェンシー」で、教師力アップ!2

 

2011年4月から『月刊日本語』(アルク)で「教科書について考えてみませんか」という連載を掲載してから10年。2021年10月に「日本語教育の参照枠」が出て以来、現場では、コミュニケーションを重視した実践への関心が高まり、さまざまな現場で使用教科書の見直しが始まっています。「参照枠」を見ると、言語教育観に関して、「学習者を社会的存在として捉える/「できること」に注目する/多様な日本語使用を尊重する」という3つの柱が掲げられています。これは、2011年4月から『月刊日本語』で連載した中で述べていることに重なります。そこで、今回もう一度皆さまに当時の記事をご紹介して、ご一緒に考えていきたいと思います。教育現場では、今まさに<教科書を見る目、使う力>が求められています。教科書を軸に「対話」の輪を広げていきませんか。(嶋田和子/アクラス日本語研究所)

文型導入のための場面探し?

 1あそこに山田さんがいます。

 2机の上に本とノートがあります。

 3兄さんはソウルにいます。

 4山下公園は横浜にあります。

ある教科書では、上の4つの文が、一度に提示されています。ここに、場面・状況の提示は全くありません。1と2は存在文、34は所在文で「います/あります」の両方の例文が出ています。

さて、これらの例文は、どんな場面・状況で導入し、練習し、応用練習に持っていけばいいでしょうか。2だったら、教室の中で実際に机の上にあるものを使って学習することになるのでしょうか。

以前、こんな話(苦情?)を聞いたことがあります。「どうして『机の上に何がありますか』を何度も何度も質問するようなやり方をするんですか。目が見えるんだから、見ればわかるのに!」

これは、まず学習すべき文型があり、そこから場面を考えることから起こってくる問題です。実は、まず学習者が遭遇する場面があり、「その場面で求められる文型」を考えることが大切なのです。

友達の家に行く途中で道に迷った時、道行く人に「あのう、すみません。交番はどこですか(どこにありますか)」と聞くことはよくあります。また、ある人は友達に電話をするかもしれませんね。そんな場面では、友達とどんなやり取りがあるでしょうか。

ここで、「友達の家へ行く途中で道に迷って友達の家に電話している」場面を取り上げてみます。そして、「迷子になったとき、行きたい場所がどこにあるか質問したり、自分がどこにいるか言ったりすることができる」を行動目標として挙げ、「そこで実際にどんなやり取りが行われるのだろうか」と考えてみました。その結果、次のようなドリルが生まれました。

初級7課

このやり取りでは、自然な形で存在文と所在文がうまく埋め込まれています。文型を導入するために場面・状況があるのではありません。まず場面・状況があり、そこで「タスクを達成する」ために、必然性のある文型を学ぶのです。

そのためには、学習者の言語行動を注意深く観察し、分析し、整理していく力が求められます。それが「プロフィシェンシー」重視の教育実践の基本であり、そのことが教師力のアップにつながっていくのです。

その場面でどんな文型が使われているのか

以前、『ロールプレイ玉手箱』(ひつじ書房)という本を出しました。これは、学習者が出会う場面に強く関心を持った教師達の話し合いから生まれました。教科書に書かれている日本語に満足するのではなく、「実際の場面でどんなコミュニケーションが行われているのだろう」と、実践研究を始めたのです。そして、「そうだ!学習者自身に語ってもらおう。中級以上の学習者に、自分の体験からロールプレイを2つずつ作ってきてもらおう。大切なのは、『こんなとき、どう言うか』だ」という結論になりました。

出てきたロールプレイは350件、さまざまな場面、やり取りがありました。学習者からのロールプレイを整理していく中で、場面や状況、人間関係などによる表現の変化も、明確になっていきました。これこそ、「日本語を使って、何が、どのようにできるか」というプロフィシェンシー重視の日本部教育の基本です。

「私はもちろん、ちゃんと場面を考えて教えています」とおっしゃる方も、ちょっと立ち止まって振り返ってみていただけませんか。「この文型はいつ使うか」ではなく、「こんな場面ではどんな文型が使われるんだろうか」という発想で、教育実践をやっているでしょうか。

嶋田和子

アクラス日本語教育研究所代表理事。著書に『できる日本語』シリーズ(アルク、凡人社)、『OPI による会話能力の評価(共著)』(2020 年、凡人社)、『人とつながる 介護の日本語』(2022、アルク)など多数。趣味:人つなぎ、俳句  目指していること:生涯現役

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