毎年7月と12月に日本国内を含む世界各地で実施されている日本語能力試験。2023年6月の応募者数が発表されましたが、その受験者総数はコロナ禍前の数字まで回復していました。その一方、応募者の内訳はコロナ禍前と大きく異なっていました。公表されているデータから日本語能力試験の応募者の動向を考えます。
2019年と2023年の6月データを比較
日本語能力試験の応募者数は毎年発表されています。コロナ禍前までの応募者数はほぼ毎年のように増加していましたが、コロナ禍の影響を受けた2020年、2021年、2022年は実施回数・実施国・会場などの減少もあり、応募者数が大きく減少しました。
ここでは、コロナ禍の影響を受ける前の2019年6月と2023年の6月の応募者数のデータを比較してみましょう。以下、前の数値が2019年、後ろの数値が2023年です。↑は数値の増加を表します。
全応募者数:644,104/698,062(108%)↑
日本国内応募者数:220,500/213,876(97%)
海外応募者数:423,604/484,186(114%)↑
日本国内の応募者が微減している分を海外の応募者数がカバーし、全体では応募者数が伸びていることがわかります。次に、レベル別の応募者数を見ていきます。
N1応募者数:135,998/141,392(104%)↑
N2応募者数:188,527/166,348(88%)
N3応募者数:157,745/156,773(99%)
N4応募者数:94,985/168,750(178%)↑
N5応募者数:66,849/64,799(97%)
N4だけが異常に伸びていることがわかります。N1が微増している以外、他のレベルは減少しています。次に、日本を除いて国・地域別に2023年の応募者数でランキングにしてみました。
【1位】中国:172,759/167,272(97%)
【2位】ミャンマー:29,469/102,752(348%)↑
【3位】韓国:55,447/47,742(86%)
【4位】台湾:42,456/38,773(91%)
【5位】ベトナム:42,756/29,825(70%)
【6位】インド:16,604/18,330(110%)↑
【7位】インドネシア:12,787/15,826(124%)↑
【8位】タイ:15,096/15,235(101%)↑
【9位】スリランカ:2,406/13,108(544%)↑
【10位】フィリピン:9,744/6,584(68%)
ミャンマー、スリランカが飛びぬけて大きな伸びを示していることがわかります。また、インドネシアも大きく伸びています。この3カ国についてレベル別に詳細を見て見ると、やはりN4レベルの応募者が大きく伸びていることがわかりました。
ミャンマーN4応募者数:10,768/67,745(629%)↑
インドネシアN4応募者数:4,097/5,215(127%)↑
スリランカN4応募者数:540/5,661(1048%)↑
N4の応募者数はなぜ伸びているか
ここで改めて、日本語能力試験のN4に合格するということの意味合いを確認しておきましょう。
N4に合格するということは、もちろん以下のような日本語力があることの証明になります(日本語能力試験認定の目安より)。
基本的な日本語を理解することができる。
【読む】基本的な語彙や漢字で書かれた日常生活の中でも身近な話題の文章を、読んで理解することができる。
【聞く】日常的な場面で、ややゆっくりと話される会話であれば、内容がほぼ理解できる。
同時に、N4レベルの日本語力があるということは、特定技能1号の在留資格を得るための条件の一つにもなります。特定技能1号を取得するためには、日本語力と取得分野の技能試験に合格する必要がありますが、日本語力の証明には日本語能力試験N4または国際交流基金日本語基礎テストのどちらかに合格している必要があります。
それでは、国際交流基金日本語基礎テストの実施結果も見てみましょう。本稿を執筆している時点での公開されている最新の結果は2023年12月-2024年1月の結果でした。申込者の多い順に海外5カ国のランキングを見て見ると、日本語能力試験N4レベルの応募者と同様の傾向を示していました。
【1位】インドネシア:8,581(人)
【2位】ミャンマー:4,397
【3位】ネパール:2,200
【4位】スリランカ:1,322
【5位】フィリピン:1,255
たった2カ月の間に、インドネシアだけで約8,600人もの人が申し込んでいるのは驚きです。
外国人労働者受け入れの動きを背景に
2023年6月末現在、特定技能の在留資格では173,089人もの人が在留しています。ちなみに特定技能制度は2019年4月から始まりましたので、コロナ禍前の2019年6月時点では、特定技能の在留資格を持った人はほとんどいませんでした。
政府は特定技能1号の対象分野を増やし、技能実習に代わり育成就労という新しい在留資格を作る方向で検討を進めています。育成就労は特定技能の前段階的な位置づけになります。そして、「技能実習制度及び特定技能制度の在り方に関する有識者会議」の最終報告書によれば、育成就労では、就労開始前にA1相当以上(日本語能力試験N5合格等)または認定日本語教育機関等における相当講習を受講すること、育成就労から特定技能1号移行時にはA2相当以上(日本語能力試験N4合格等)の日本語力が必要とされています。また、転籍の条件としても日本語力が重視されることになりそうです。
日本は外国人労働者を積極的に受け入れる動きを加速しており、そのことが日本語能力試験の応募者にも少なからず影響を与えていることがデータから読み取れます。
執筆:新城宏治
株式会社エンガワ代表取締役。日本語教育に関する情報発信、日本語教材やコンテンツの開発・編集制作などを通して、日本語を含めた日本の魅力を世界に伝えたいと思っている。
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