アルクの電話による日本語会話テストJSST(Japanese Standard Speaking Test)は、2008年に開発されて以来、多くの企業や日本語教育機関で利用されています。今回はその一例として、Akira Online Japanese School TOKYOでの活用法をご紹介します。スピーキングテストやその活用法にご興味のある方は、ぜひご覧ください。
電話による日本語会話テストJSST
JSST(Japanese Standard Speaking Test)は、電話で受験できる日本語会話力測定テストです。「その時」「その場」で瞬時に考えて話すという実践的な日本語会話力を、24時間、国内外を問わず15分で測定できる手軽さが評価され、多くの企業や日本語教育機関で利用されています。
JSSTの特長やレベル概要などについては、「スピーキングテストを知ろう! アルクの日本語会話力測定テスト『JSST』」でご紹介していますが、今回はAkira Online Japanese School TOKYOの事例を掘り下げてご紹介していきます。代表の藤崎さんと講師の榎戸さんに、JSST利用の経緯や具体的な活用法などについてお話を伺いました。
<Akira Online Japanese School TOKYOの概要>
英語圏のアッパー層(経営者、医師、弁護士など)を主な対象として、2019年にオンラインで日本語プライベートレッスンを開始。オーダーメイドの個別カリキュラムや外部テストの活用によって学習のゴールを明確化することで、投資対効果の高い学習を提供している。
■Akira Online Japanese School TOKYOウェブサイト:https://akiraojs.tokyo/
レッスンの投資対効果を最大化したい―なぜJSSTを採用したのか
ーーJSSTを知ったきっかけを教えてください。
藤崎:最初にアルクさんに問い合わせたのは2020年12月です。スクールの立ち上げに苦労していたので、レッスンの投資対効果を最大化するための強みを開発したいと思っていた時でした。PDCAという、数字を見ながら計画を立ててやってみて、チェックをしてまたアクションにつなげるビジネスの発想がありますが、スピーキング力の強化を希望される受講生が多い中で、スピーキングのレッスンの効果も客観的に測る必要があるという問題意識を持っていました。そういった中「日本語スピーキングテスト」でネット検索したところ、JSSTが一番上に出てきたというのが、JSSTを知ったきっかけです。
ーーJSSTのどのようなところに魅力を感じて、利用することにしたのでしょうか。
藤崎:日本語のスピーキング力を測るテストにメジャーなものがない中で、JSSTはアルクさんという誰もが知っている企業が10年以上運用しているテストであることを知り、信頼できると思いました。また、JSSTのサイトで紹介されている採用企業・団体に大手企業の名前があったのも安心材料になりました。
テストとしての魅力は、効率がよいところです。スクールの中でスピーキングテストを実施するとなると人材が必要になりますが、スピーキングテストがしっかりできる人材を採用するのは容易ではありません。人材を育成するのにも時間がかかります。
でもJSSTを利用すれば、そういった人材の確保や育成が不要なので、効率的だと感じました。アルクさんというテスターが外部パートナーにいるイメージですね。それに、電話で約15分で受験できるというのも、受験する受講生の負担が少なくてよいと思いました。受験料についても、リーズナブルな印象を受けました。
ーースクールのカリキュラムの中で、JSSTはどのように活用されているのでしょうか。
藤崎:2パターンあります。日本語能力試験N3レベル以上の受講生は、個別カリキュラムの最初と最後、概ね半年~1年後にJSSTを受験しています。1回目の受験は問題点の把握と目標設定、2回目の受験は到達度の測定を主な目的としています。初級の受講生は、基本的には『みんなの日本語』(スリーエーネットワーク)を使っていて、『みんなの日本語』の学習が終わったタイミングでJSSTを受験しています。現在のスピーキング力を測定することと、スピーキング力をさらに伸ばしていく上での課題を明らかにすることを目的としています。
ーー実際にJSSTを利用してみて、どのようなことを感じましたか。
藤崎:JSSTを利用することのメリットはいろいろあります。まず、受講生は現在の自分のスピーキング力を10段階のレベルで客観的に把握することができます。また、スコアレポートの2枚目に記載されているコメントやアドバイスを見ると、具体的に何が足りないのか、問題点が明確になります。それらを講師と共有することによって、日本語学習のマイルストーンが設定しやすくなったり、PDCAが回しやすくなったりしていると思います。
次に、講師にとって、JSSTは自身の知識とスキルを向上させていくためのよいツールになっていると感じます。スコアレポートのコメントやアドバイスを参考に、受講生の問題点を1つずつ解決していくという経験をすることで、スピーキング力を伸ばすために必要な観点がわかるようになります。また、受講生の2回目の受験結果は、講師がそれまでやってきたことの評価にもなります。その繰り返しによって講師自身にノウハウが蓄積されていくことは、講師のスキルアップにも繋がっています。
ーースクール全体では、何か変化がありましたか。
藤崎:最近、講師の評価の仕組みを整えました。これは一部ですが、例えば、受講生のJSSTのレベルが上がったら担当講師にポイントを与え、それが一定以上に達したら講師の報酬単価が上がるようにしました。その結果「講師の知識やスキルが上がり、経験が蓄積される→受講生の日本語力が上がる→受講生のJSSTのレベルが上がる→講師の報酬が上がる」という、よいサイクルが生まれています。
また、どういった属性・ニーズ・モチベーション・学習習慣の受講生が、どういうカリキュラムでトレーニングをして、どんな結果になったのかというデータをスクール全体で溜めていて、そこでもJSSTのデータが役に立っています。スクールとしてこういったノウハウやデータが蓄積できると、講師が壁にぶつかった時、同じような講師の事例を参考にしてスクール側から講師に助言・提案することができますし、さらに講師が受講生に助言・提案するという体制も作れるようになります。これはまだ途上ではありますが、今後力を入れていきたいと思っています。
JSSTのスコアレポートで問題点を明確化。一段高いスピーキング力を意識させる
ーー次にレッスンを担当されている榎戸さんに伺います。実際のレッスンでは、JSSTの結果やスコアレポートはどのように活用されているのでしょうか。
榎戸:実はJSSTを受験することが決まったら、いきなり受験していただくのではなく、まず目標レベルを受講生と話し合って決めます。それから2~4コマ(1コマ50分)程度をJSST対策に充てています。その目的ですが、受講生の今のスピーキング力をJSSTの問題形式にカスタムして、より実力を発揮していただくため、また、事前に受講生の問題点を浮かび上がらせて、一定の対策を取りたいというのもあります。例えば、単語や単文だけで話す受講生には、「複文を使って詳しく説明しましょう」「接続詞を使って話す量を増やしましょう」などとフィードバックします。
とは言っても、受講生はすぐできるようになるわけではないので、事前にフィードバックしたことが、そのままスコアレポートで指摘されることもよくあります。スコアレポートは受講生と一緒に読んで、「単語や単文で話したり、話す量が足りなかったりするのが問題点だから、改めてレッスンの中で意識していきましょう」などと、目線を揃えるためのコミュニケーションをします。その後、レッスンでは一層、それらの問題点へのフィードバックを心掛けるようにしています。
ーースコアレポートの内容をレッスン時のフィードバックに利用しているんですね。
榎戸:例えば、初級者とのフリートークでは、講師の質問に対して受講生が単語で答えても、つい助けを出して話を進めてしまうことがあります。また、受講生の中には、単語や単文だけで話したとしても通じれば問題ないだろうという考えの人もいて、通常のレッスンではフィードバックがしにくいこともあります。
ですが、JSSTのレポートで指摘されたり、レベルを上げるという目標があったりすると、目標達成のために「複文で話しましょうね」などとフィードバックしやすくなるので、つい単語や単文だけで話してしまう受講生も気をつけるようになります。一段高いレベルのスピーキング力がどのようなものであるのか意識させること、そこからレッスンや予復習でのトレーニングを動機付けていくこと、これらが大事だと思います。
ーー受講生はJSSTをどのように捉えているようですか。
榎戸:受容スキル(読む・聞く)を測るテストはたくさんありますが、JSSTは産出スキル(話す)を測るテストということで、興味を示す受講生が多いです。「いろいろなトピックについて話して、自分の話す力を測れるのはすごく楽しそう」と言っていた受講生もいます。
また、特にN3レベル以上の方の場合、カリキュラム開始時と半年~1年後の最低2回、JSSTを組み込んでいますので、「よく構成されているね(Structured!)」という反応をくださる方も多いです。投資対効果の“効果”が可視化されるという点は、やはり刺さっているようです。
受験後は「すごく緊張した」とか「すごく疲れた」と言う人が半分、「楽しかった」と言う人が半分です。前者では「練習の時のように聞き取ったり、話したりできなくて悔しかった」「本当はもっと話せたのに」という感想を持つ人も多いです。
ーーテスト結果は受講生にとってどのような意味があると思いますか。
榎戸:やはり、現状のレベルを客観的に把握できること、問題点や課題が明確化されること、次のレベルに向けて、具体的に何をすればよいかが分かることだと思います。スピーキングテストを実施する場合としない場合とでは、レッスンのやり方も、受講生とのコミュニケーションの仕方も変わると思いますし、受講生、講師の双方にとって、レッスンの効率を上げられる点に意味があると思います。
必ずしも受験や結果に前向きな受講生ばかりではありませんが、粘り強くレポートで指摘された問題点に向き合うこと、その結果、レベルが上がる、客観的にスピーキング力が上がる体験をすることが大事だと思います。実際に結果が出るとモチベーションにも繋がりますし、次の問題点と課題、目標も見えてきますから。これは私たち講師にとっても同じことが言えます。
まとめ
今回はJSSTを活用する事例として、Akira Online Japanese School TOKYOを取り上げましたが、JSSTの活用事例は他にもたくさんあります。「ビジネス日本語」「内定者教育」「就職対策」などの言葉が気になる企業や日本語教育機関の方は、ぜひ一度JSSTの利用を検討してみてはいかがでしょうか?
★電話による日本語スピーキングテストJSST|アルク
※現在JSSTは個人受験の受付を停止しています。受験を希望する場合は、法人受験として企業や日本語教育機関からお申込みください(受験人数は1名から可)。
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