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共生への第一歩、地域の外国人住民とのトークフォークダンス

2023年9月2日、福岡市で、地域の日本人住民と外国人住民のつながりをつくる試みとして、トークフォークダンスが開催されました。これまでコミュニティづくりの観点から地域の子どもと大人のしゃべり場であるトークフォークダンスが実施されてきました。本コラムでは、地方公共団体が主催した ものとしては過去に例を見ない、外国人住民とのトークフォークダンスについて紹介します。(深江新太郎/NPO多文化共生プロジェクト)

トークフォークダンスとは

トークフォークダンスは、2重の円になって子どもと大人が分かれて着席し、フォークダンスのように相手を替えながら、お題にそって1分間ずつ自分の考えや思いを語り合うものです。京都市の京都御池中学において、しゃべり場という名前で、開催されたのが始まりです*1

このトークフォークダンスは、世代を超えた住民同士の信頼関係を構築するコミュニティ形成の手法として着目されています。例えば、岩手県岩手町は2020年度よりトークフォークダンスを開催しています。その目的を次の通りに記しています。

トークフォークダンスの目的

年代・立場・価値観を超えた相手と「対話」を行える場を創出し、住民同士の信頼関係を構築し、人口減少社会に対応した持続可能なまちをつくっていくため*2

このように広がりを見せ始めたトークフォークダンスですが、中でも福岡県福津市の福間中学では2011年に初めて開催されてから名物行事となり、現在にいたるまで続いています。

外国人住民とのトークフォークダンス

さて、私たちのメンバーにその福津市在住の女性がいて、次のような提案を持って来ました。

「トークフォークダンスは子どもと大人という世代の隔たりをなくすだけでなく、外国人と日本人という国籍の隔たりもなくすのではないか」

彼女は、まず勤務している日本語学校で、外国人同士のトークフォークダンスを実施しました。外国人の場合、「日本語で話せるのか」という不安がついてくるのですが、十分に実施可能で、みなが楽しんでいることが分かったため、私は福岡市に外国人住民と日本人住民のトークフォークダンスを提案しました。現在、地域日本語教育の体制整備進める福岡市は、日本語教室の立ち上げにつながっていく住民同士の交流の場として本企画を採用しました。そして日本語教室が少ない福岡市南区において、2023年9月2日に日本人住民15名、外国人住民19名のトークフォークダンスが開催されました。

トークフォークダンスの肝は、問いかけ

それでは、当日のトークフォークダンスでは、どのようなお題で語り合ったのか、見ていきましょう。今回は、「違いを認め合い、多様な価値観に触れる」ことを軸に15の問いかけを準備しました*3。参加者は、司会が提示した問いかけについて話します。問いかけは、最初はすぐに答えられるものから始まり、少しずつ深まっていく構成です。最初の問いかけは次です。

問いかけ例

質問①

日本人に対して:福岡のいいところを教えてください。

外国人に対して:あなたはどこから来ましたか。あなたのまちはどんなところですか。

まず日本人が話し、次に外国人が話した後、相手が変わり、問いかけが変わります。当日はこの問いかけから始まり、8つの問いかけが終わった段階で休憩を入れました。そして後半、7つの問いかけを行いました。後半の例をいくつか見てみましょう。

問いかけ例

質問⑩

日本人・外国人に対して:今もしも、10万円、もらったら何に使いたいですか。

質問⑫

日本人に対して:「ごめんなさい」を言いたい人はだれですか。

外国人に対して:「ありがとう」を言いたい人はだれですか。

このような問いかけを行い、最後の問いかけは次でした。

問いかけ例

質問⑮

日本人・外国人に対して:幸せな人生はどんな人生だと思いますか。

参加者はみな、うーん、と考えた後、楽しく真剣に話し始めました。

参加した人の声ーコミュニティ形成へとつながる日本語教室

最後に、参加者の感想を紹介します。まず日本人住民からです。満足度については、「満足」が46%で、「やや満足」が54%でした。「外国人と日本語でコミュニケーションをとることに関心がありますか」という問いかけについては、「とても関心がある」が54%で、「関心がある」が46%でした。「今後、ボランティアとしての日本語教室を開催する企画がある場合、案内してもよいですか」という問いかけについては、「案内してもよい」が92%でした。ここから、今回のトークフォークダンスは、ボランティア日本語教室の開設に向けた人材発掘として有効に機能したと言えるでしょう。

次に外国人住民の感想です。満足度については、「満足」が81%で、「やや満足」が13%でした(1人未回答)。次は、実際の声の一例です(原文のまま)。

・日本人とはなしながら自分の伝えたいことをおしえながら、日本人のつたえたいことをきいてとてもうれしかったです。またこんなイベントに参加したいです。

・日本人と話して、日本人のいけんをしりました。たのしかったです。

・I was always trying to talk with Japanese people.日本人とよくはなしたい。でもすることができなかった。今日はとてもたのしくなりました。今からよくはなします。

地域日本語教育の本質的な課題に、たんに日本語を教える場所としてではなく、コミュニティ形成へとつながる日本語教室をどうつくるかがあります。コミュニティ形成とは、日本人住民と外国人住民のつながりを生んでいくことです。外国人住民とのトークフォークダンスは、そのつながりを創出する場であり、そこから立ち上がっていく日本語教室の種になる可能性も秘めています。

執筆/深江 新太郎(ふかえ・しんたろう)

「在住外国人が自分らしく生活できるような小さな支援を行う」をミッションとしたNPO多文化共生プロジェクト代表。ほかに福岡県と福岡市が取り組む「地域日本語教育の総合的な体制づくり推進事業」のアドバイザー、コーディネータ―。文化庁委嘱・地域日本語教育アドバイザーなど。著書に『生活者としての外国人向け 私らしく暮らすための日本語ワークブック』(アルク)がある。

*1:ベネッセ教育総合研究所HPより https://berd.benesse.jp/special/manabi/manabi_17.php

*2:きこえるいわてHPより https://iwatetown-sdgs.jp/news/talk_dance/

*3:問いかけを作成するにあたり、のおがた未来カフェが2018年に発行した「大人としゃべり場 トーク・フォークダンスで語ろう」を参考にしました。https://www.facebook.com/NFCafe/

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