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学習者の出身国について知ろう!-⑦中国

皆さんが日本語を教えている学習者はどこから来ていますか。学習者の出身国、出身地域についてどれぐらい知っていますか。日本語や日本文化を教えるだけでなく、学習者の国や文化にも関心を持ち、少しでも知っておくと、思いがけない会話のきっかけになったり、学習者の考え方を知る手掛かりになったりすることもあるかもしれません。最終回となる第7回は、日本語学習者の出身国と言ったらやっぱりこの国、中国です。(編集部)

中国の基本情報

国名 中華人民共和国

首都 北京

人口 約14億人

民族 漢民族(総人口の約92%)と55の少数民族

宗教 仏教、キリスト教、イスラム教など

言語 中国語

日本語教師として働いていて、中国人学習者と接する機会がまったくないという人はかなり少ないでしょう。今や日本語教師でもなく、大都市に住んでいるわけでなくても、職場、近所、学校などさまざまな場で私たちは日常的に中国の人と関わるようになっています。首都の名前や「ニーハオ」といったあいさつ程度の中国語は教えられるまでもなく昔から誰でも知っていますし、東西南北に広がる国土と日本の十倍以上の人口をまとめて「中国」として語るのは無理があります。そこで、シリーズ最終となる今回は、中国南北の二大都市「北京」と「上海」、さらに古くから日本と深いつながりのある東北地方に少しずつスポットをあてながら、中国人学習者の一面をご紹介したいと思います。

音読と暗記が命 中国人学習者

中国は学歴社会、資格が大切な社会です。大学生は大学構内にある寮(2~6人部屋)に住むことが多く、とにかく勉強が中心の学生生活を送ります。朝早く起きて勉強、休み時間に勉強、授業の後で勉強、食事の後で勉強、寝る前に勉強、週末に勉強…そして勉強のスタイルは教科書の音読と暗記。特に語学学習には音読と暗記は欠かせないものなので、日本語の授業が始まる前には、全員着席してぶつぶつぶつぶつと教科書を読み上げる声がしています。

情報社会、インターネット社会と言われて久しい現在では中国人学習者の勉強法も少しずつ変化しているのかもしれませんが、4年間ひたすら音読と暗記を続けて、かなりの学習者がそれなりに会話もできるようになっていくので、こうした伝統的な学習法もある程度の効果は見込めるのではないかという気がしてきます。

中国人の日本語学習最大のアドバンテージは何と言っても漢字。特に来日して非漢字圏の学習者と同じクラスで学ぶようになると、その強みは「読解」の授業でいかんなく発揮されます。しかし、漢字を知っているが故に直りにくい間違いやクセがあり、本人以上に日本語教師を悩ませます。

・少しだけ違う漢字の書き方がなかなか直らない

・同じ漢字の言葉で発音も似ているといつまでも中国語のような発音をしてしまう

・作文に見慣れない語彙(中国語の語彙)を使う

発音でも漢字の形でも全く違うものはむしろ覚えやすく、微妙に違うもののほうが厄介です。ある程度の日本語を身につけて来日する学習者が多いので日本にいる人はそれほどでもないと思いますが、中国で初級の学習者に教えていると、作文に「きれいな酒店(ホテル)があります」「水果(果物)がおいしいです」と漢字と文脈で意味はわかるものの見慣れない語彙が登場します。そのうち教師の方が慣れてしまって、うっかりスルーしてしまいそうになることも。つい漢字に頼ってしまうという点で、「レベルの低い学習者の作文ほど漢字が多用されている」という傾向は非漢字圏とは逆の現象です。作文と言えば、中国語の語彙をそのまま日本語に直訳して「サンタクロース」を「クリスマス老人」と書いてきた学生がいたそうです。

「清濁の区別がつきにくい」というのは中国人学習者の特徴としてよく挙げられます。人によりますが、苦労する人が多いようです。知り合いの中国人女性はN1合格者でしたが、しょっちゅう「てんてんある?」と聞いてきました。てんてんとはもちろん濁音の点々のことで、「か」なのか「が」なのか尋ねていたわけです。学習過程で身につけたストラテジーなのか、あるいは日本語学校の先生が「点々ありますよ」と教えていたのかもしれません。

首都のプライド 北京

それでは、中国の3つの地域に注目してみましょう。まず世界有数の大都市北京は、中国の首都であり、中国北部の代表でもあります。万里の長城、天安門広場など中国と言えばこれ、という観光地もたくさんあり、世界中の留学生が集まる北京大学もあります。中国全土の中でも教育レベルの高い都市だと言えるでしょう。

中国は面子を重んじる社会ですが、とりわけ北京は「首都のプライド」を持っている人が多いそうです。北京留学経験のある編集部員によれば中国語ができない外国人はもちろん、その地域それぞれのなまりがある地方出身者も「その中国語おかしい」と指摘されてしまうそうです。しかし、外国語を学び始めると今度は自分が「その日本語おかしい」と言われてしまう立場になります。よく言われることですが、指導の際には面子を傷つけないよう気を配る必要がありそうです。

クールな国際都市 上海

日本に「東京VS大阪」があるように、北京の最大のライバル都市と言えるのはやはり国際都市上海でしょう。一般に中国は北部の方が気性が荒く、庶民的、南部はどちらかというとおだやかで都会的というイメージがあるようです。

上海で長く生活してきた人の話では上海人同士が集まる場では中国語方言の一つである上海語を話すことが多いそうです。しかし、そこに他の地域の中国人が入ると自然に標準語(普通話)に切り替え、さらに日本人が入るとつたなくても全員日本語で会話をしてくれるとのこと。沿岸部にあり、昔から国内外からさまざまな人が出入りしたことがこうした感覚に残っているのでしょうか。他地域の人や外国人が上海語を話すととても喜んでくれるそうです。

北京も上海も外国人が多く慣れているためか、外国語を話すことに積極的な人が多いそうです。日本語学習者も日本人を見つけると「話さないと損!」という勢いで話してくれるのだとか。地方へ行くともう少しシャイな人が多い印象です。

日本語学習者が多い 東北地方

国内の日本語学校に在籍する中国人の中でも出身者が多い地方、都市があることはご存知だと思いますが、中国東北地方三省もその一つです。東北地方とは、遼寧省(瀋陽)、吉林省(長春)、黒竜江省(ハルビン)を指します。ロシアに接する黒竜江省をはじめ、三省とも冬の寒さがとても厳しい地域です。

東北地方は昔から日本語学習者が多い地方として知られています。特に吉林省は歴史的に日本との関わりが深く、文法体系的に日本語に近い朝鮮語を民族語とする朝鮮族も多く住んでいることから日本語学習に熱心です。同じ中国人でも、朝鮮族の学習者には漢民族にはあまり見られない「おはようごじゃいます」などの発音のクセが出る人もいます。

同じ中国と言ってもこの3つの地域だけでも「外国」と思っていいくらい、性格も、方言も、(取り上げませんでしたが)料理も相当違うようです。「中国人はたくさん教えてきたし、もうよく知っている」と思わずに地域ごとに関心を掘り下げてみてもおもしろいかもしれません。

7回に渡って取り上げてきた「学習者の出身国を知ろう!」シリーズ、いかがでしたか。海外に出ると日本人は「生真面目」「ハードワーカー」「秩序を守る」「集団社会」「英語ができない」などと言われます。しかし、そのイメージに合う「日本人らしい」日本人もいれば、「日本人らしくない」日本人もいます。同じように「中国人はこう」「インドネシア人だから」「ベトナム人なのに」と言っても、学習者は一人一人異なる人間で、あまりにも「〇〇人」という枠で囲って見るのは正しい見方とは言えません。

とは言え、生まれ育った土地の言葉、料理、景色、考え方などはその人と切り離しては考えられないものであることも事実です。学習者がどんなところからやってきたのか、ほんの少しでも知っておくことが、学習者をより深く理解したり、コミュニケーションのきっかけになったりすることがあるかもしれません。

旅行程度では見えてこないその国の毎日の生活も、その国の出身者から教えてもらって「へえ、そうだったんだ」と驚いたり、感心したり、まだまだ世界は広いなと感じたり。それも、日本語教師という職業の魅力の一つなのではないでしょうか。

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