文化庁から、令和3年度「国語に関する世論調査」の結果が発表になりました。日本語やコミュニケーション、ローマ字表記に関する意識、気になる言葉や日本語の変化などについて、今の日本人が日本語についてどのように考え、使っているか、興味深い調査結果が出ています。
「国語に関する世論調査」とは?
「国語に関する世論調査」とは、文化庁が日本人の国語に関する意識や理解の現状について調査し、国語施策の立案に役立てるとともに、国民の国語に関する興味・関心を喚起するものとして、平成7年度から毎年実施しているものです。毎秋に発表される調査結果は、年々変化する日本語や言葉・コミュニケーションに対する日本人の考え方が反映されており、大変興味深いものがあります。今回の調査は全国の16歳以上の男女3,579人から回答を得ました。
「国語に対する認識」「生活の変化とコミュニケーションに関する意識」「ローマ字表記に関する意識」「言葉遣いに対する印象や、慣用句等の認識と使用」の4章に分けて調査結果が出ています。
言葉や言葉の使い方の課題~改まった場での言葉遣いや敬語に課題あり
最初の質問項目は、「国語に関心があるか」「関心がある点」でした。
国語に関心がある人は81.8%と非常に多く、また関心がある人の割合は年々高まっています(平成30年度の調査では76.4%でした)。また、関心がある点として多かったのは、「日常の言葉遣いや話し方(79.4%)」「敬語の使い方(48.8%)」「文字や表記の仕方あるいは文章の書き方(38.4%)」などでした。
次に「言葉や言葉の使い方について社会全般で課題があると思うか」「言葉や言葉の使い方について自分自身に課題があると思うか」を尋ねています。
「社会全般で課題がある」と答えた人は84.6%、「自分自身に課題がある」と答えた人は67.6%でした。「社会全般で課題がある」と答えた人の割合は年齢が高くなるほど多く、「自分自身に課題がある」と答えた人の割合は年齢が低くなるほど多くなっています。年齢が高くなるにつれて社会的な課題として、年齢が低くなるほど自分自身の課題として捉えていることが分かります。
社会全般・自分自身の課題として共通して最も多く挙がっていたのは、「改まった場で、ふさわしい言葉遣いができていないことが多い」でした。また、社会全般の課題としては「インターネットでの炎上のように、中傷や感情的な発言が集中」、自分自身の課題としては「敬語を適切に使えない」も課題として多く挙がっていました。特に「敬語を適切に使えない」は年齢が低くなるほど大きな課題として捉えられていました。
情報機器の普及・コロナの影響~手書きの機会が減って漢字が書けない
パソコンやスマートフォンなどの情報機器の普及は、社会における言葉や言葉の使い方にどのような影響を与えているのでしょうか。
まず、「情報機器の普及が言葉や言葉の使い方に影響を与えるか」という質問に対しては、実に90.6%の人が影響を受けると思うと答えています。具体的にどのような影響があるかに対して多かった回答は、「手で字を書くことが減る(89.4%)」、「漢字を手で正確に書く力が衰える(89.0%)」などでした。いざ、文章やメモを手書きしようとした時に「漢字が思い出せない」「漢字が書けない」という経験は、多くの方々がお持ちなのではないでしょうか。
ここ3年ほど社会に大きな影響を与え続けている新型コロナウイルスの影響については、新しく使われるようになった言葉について、このまま使い続けた方がいいか、説明を付けた方がいい・ほかの言い方にした方がいいかを尋ねています。
このまま使い続けた方がいいという回答が多かったのは、「おうち時間」「黙食」「人流」などの言葉でした。一方、説明を付けた方がいい・ほかの言い方にした方がいいという回答が多かったのは「エアロゾル」「ブースター接種」「ブレークスルー感染」「ニューノーマル」などの言葉でした。概して、カタカナ語の評判はあまり良くないようです。
ローマ字表記に関する意識~目にはするが自分で書く機会は少ない
次はローマ字表記についてです。
「日本語がローマ字で書き表されているのを見ることがあるか」という質問に対しては、「ある(82.7%)」という回答が多数を占めました。ローマ字を見掛ける場所としては、「駅や道路の表示などにある日本の駅名・地名(95.8%)」「クレジットカードや名刺などに示された氏名(61.4%)」などが多数を占めました。
その一方、「ふだん、日本語をローマ字で書き表すこと(情報機器におけるローマ字入力を除く)があるか」という質問に対しては、「ある」と答えた人の割合は20.4%に留まりました。ローマ字を書く機会として圧倒的に多かったのは、「氏名をローマ字で書くように求められたとき」でした。
在日外国人やインバウンド旅行者の増加などを背景にして街中で見かけるローマ字表記は増えていますが、自分でローマ字を書く機会は意外と少ないようです。
気になる言葉~「ちがくて」「すごい」「みたく」「なにげに」
最近よく耳にするようになった新しい言葉について「気になるか」「気にならないか」を聞いています。題材としては、以下の7つの言葉が挙がっています。
(1)「そうではなくて」ということを、「ちがくて」と言う
(2)「あの人は走るのがすごく速い」ということを、「あの人は走るのがすごい速い」と言う
(3)「あの人みたいになりたい」ということを、「あの人みたくなりたい」と言う
(4)「なにげなくそうした」ということを、「なにげにそうした」と言う
(5)「中途半端でない」ということを、「半端ない」と言う
(6)「正直なところまずい」ということを、「ぶっちゃけまずい」と言う
(7)「実態などを分かりやすく示すこと」を、「見える化」と言う
気になる人の割合が多い順に並べると、「ちがくて(60.5%)」「みたく(43.2%)」「見える化(43.2%)」「ぶっちゃけ(40.9%)」「半端ない(36.4%)」「なにげに(32.2%)」「すごい(17.3%)」となりました。
「ちがくて」は本来は動詞である「ちがう」を、イ形容詞のように使っています。「ちがくない」「ちがかった」なども同様です。日本語教師の皆さんも、教室での指導で苦労されているところではないでしょうか。
令和4年度「国語に関する世論調査」の結果について
https://www.bunka.go.jp/koho_hodo_oshirase/hodohappyo/93767401.html
執筆:新城宏治
株式会社エンガワ代表取締役。日本語教育に関する情報発信、日本語教材やコンテンツの開発・編集制作などを通して、日本語を含めた日本の良さを世界に伝えたいと思っている。
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