8月28日に「在留支援のためのやさしい日本語ガイドライン」が公表されました。このガイドラインは出入国在留管理庁と文化庁が、やさしい日本語の活用促進のために、多文化共生や日本語の有識者、外国人を支援する団体の関係者などの協力を得て、また地方公共団体や外国人の意見を聞いて作成したものです。今後、日本語教育の専門家として日本語教師も関わる場面も出てくるかと思われますので、ご一読をお勧めします。(編集部)
やさしい日本語が生まれた背景
「在留支援のためのやさしい日本語ガイドライン(以下、ガイドライン)」は以下からダウンロードできます。概要版と別冊のやさしい日本語書き換え例もありますので、参考にしてください。
http://www.moj.go.jp/nyuukokukanri/kouhou/nyuukokukanri15_00026.html
ガイドラインではまず、やさしい日本語を「難しい言葉を言い換えるなど、相手に配慮したわかりやすい日本語のこと」と定義した上で、生まれた背景について説明しています。それによれば、
- 日本に住む外国人は、この30年で約3倍に増え、日本に住む外国人の国籍が多様化した。
- 外国人が日本で安全に安心して生活するためには、国や地方公共団体からのお知らせなどを正しく理解することが必要である。
- 多言語化を進めているが、これまでの日本語に関する調査によると、「日本語」を「日常生活に困らない言語」とした外国人は約63%、 「希望する情報発信言語」として「やさしい日本語」を選んだ外国人は76%にのぼる。
とのことです。このため、やさしい日本語による情報提供・発信を進めることが有効であり、この取組を進めるため、出入国在留管理庁と文化庁がガイドラインを作成したとしています。
上記の1~3の中で、特に一般の日本人の中で誤解が多いのは3だと思います。「外国人は英語が話せる」と思われがちですが、実際のところは外国人の多様化が進んでおり、英語を母語としていない人もたくさんいます。その人たちに多言語で情報発信することも必要ですが、並行して外国人が理解できる「やさしい日本語」での情報発信、特に法律、行政手続き、災害・避難情報などについてわかりやすく発信していくことが必要です。そもそも、やさしい日本語のはじまりは今から25年前の阪神・淡路大震災にさかのぼります。
やさしい日本語作成の3ステップ
ガイドラインでは、やさしい日本語を作るためのステップを以下の3つに分けています。
【ステップ1】日本人にわかりやすい文章
【ステップ2】外国人にもわかりやすい文章
【ステップ3】わかりやすさの確認
ステップ1では、情報を整理して取捨選択する、3つ以上のことを言うときは箇条書きにする、外来語(カタカナ語)はできるだけ使わない、などのポイントを挙げています。この中でも、一般の日本人の中には、「外来語(カタカナ語)なら外国人はわかる」のように誤解している人も多いように思われます。外来語は、「バス」「ガス」「テレビ」など、外来語以外に適切な日本語がない場合のみ使用することを推奨しています。その上で、外来語には、原語と意味や発音の異なるものが多いとして注意を促しています。
ステップ2では、受身形や使役表現をできる限り使わない、文末は「です」「ます」で統一する、漢字の量が多くなり過ぎないよう注意して漢字にはふりがなをつけるなど、言葉や文字に注意するようにとしています。またステップ3では、日本語教師や外国人に、わかりやすいかどうか、伝わるかどうかをチェックしてもらうとしています。
このステップ2と3は日本語教師が活躍できるところです。どういう構文・語彙・漢字がどのぐらい難しいのか(易しいのか)を判断し、必要に応じて日本語の難易度をコントロールすることは、まさに毎日の日本語の授業の中で日本語教師が実践していることです。これまで蓄積した日本語に関する知識や日本語教師としての経験を生かせるところだと思います。
やさしい日本語にしてみよう
ガイドラインでは、無料で公開されている言語情報処理や日本語教育の専門家によって開発された日本語の難易度を調べるツールも紹介されています。これらは自分で文章をやさしい日本語にする際に役立つと思います。
また、以下のような「やさしい日本語に変換するための例題」も準備されています。ぜひ、どのように変えたらいいかチャレンジしてみてください。
【例題1】
必ず印鑑をご持参ください。
【例題2】
4月は引っ越しする方が増えるため、窓口が混雑し、問合せの電話もつながりにくくなりますので、お手続きはお早めにお願いします。
例題と答えはこちらの15、16ページにあります。
https://www.moj.go.jp/isa/support/portal/plainjapanese_guideline.html
やさしい日本語でやさしい日本社会に
誰もが等しく不利益を被らず、自由に参画できる日本社会になっていくために重要な考え方がユニバーサルデザインです。やさしい日本語も、その一つと言えるでしょう。日本語が理解できないばかりに行政手続きができなかったり、災害時の避難が遅れたりするような外国人を、やさしい日本語は助けられるかもしれません。そしてそれは外国人だけではなく、同じような問題に悩んでいる日本語母語話者にも利益をもたらします。
電車やバスの車内でお年寄りや体の不自由な方などに席を譲る光景を見掛けます。そしてそんな光景を見て、周りの人はちょっと心が温かくなります。願わくば、声を掛けてくれる人が一部の心優しい人たちだけではなく、できるだけ多くの人が困っている人に気軽に声を掛けてくれるような社会になればと思います。同じことがやさしい日本語にも言えます。やさしい日本語を使えるのが、一部の人たちだけではなく、誰もがやさしい日本語を使いこなせるような日本社会になればと思います。そんな社会へのきっかけづくりを日本語教師の皆さんには担っていただければと思います。
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