【20%OFF】「NAFL対策セット」ラストセール開催中! 【20%OFF】「NAFL対策セット」ラストセール開催中!

検索関連結果

全ての検索結果 (0)
「フィードバック」を見つめ直し、学習者の表現を広げよう

学習者が規範的な使用からずれた日本語を使ったとき、それは「誤用」と呼ばれます。教師はそれを正すためのフィードバックを行います。しかしフィードバックの方法によっては、学習者は「正しい表現でなければ表現してはいけない」と考えてしまい、自分の伝えたいことを自由に表現できなくなります。では逆に、学習者の伝えたいことが浮かび出でくるようなフィードバックとはどんなものでしょうか。NPO多文化共生プロジェクト代表の深江先生によるコラムです。

学習者の「不十分な日本語」には2種類ある

学習者の伝えたいことが不十分にしか表現されないとき、その日本語は規範的な使い方からずれているという意味で誤用と呼ばれます。ただその不十分な日本語は、規範的な日本語の使い方からずれているだけでなく、学習者の本当に伝えたいことからずれている可能性があります。これを図1でまとめました。

42図1

これまで日本語教育では、誤用については研究が行われ、効果的な誤用訂正の方法が提案されてきました。しかし、学習者の不十分な日本語が学習者の本当に伝えたいことからずれていることを指すことばはまだなく、そのずれをなくしていく方法は、ほとんど研究がされていません。学習者の不十分な日本語に対し、私たちはどのようなフィードバックを行えばよいのでしょうか。

具体的なやりとりを見てみよう

例として、教師歴25年の田中先生の教室活動を見てみましょう。2019年2月、田中先生は初級レベルの学習者(ディプさん)に対し、「話題:休みの日・特別な日にすること、学習文型:~たり~たり」という課題で約20分間の教室活動を行いました。

田中先生の教室活動は、ディプさん自身のことを尋ねる問いかけから始まり、その問いかけに対するディプさんのことばを十分に聞く中で進んでいきました(前々回前回のコラムをご参照ください)。その後で、田中先生はそのやりとりを振り返る問いかけをディプさんに行い、ホワイトボードに整理します。田中先生とディプさんのやりとりを見てみましょう。

資料

田中 :休みの日は何をしましたか。そしたら、何て言ったっけ。シャワーをしました。
ディプ:はい。
田中 :シャワーをしました(「シャワーをしました」とホワイトボードに書きながら)。
ディプ:せんたくをしました。
田中 :うん(「せんたくをしました」とホワイトボードに書きながら)、うん。
・・・
田中 :うんうん。じゃあ、こことここは(カレンダーの2月10日(日)と2月11日(祝日)を指す)?
ディプ:ここはあにいさんの、
田中 :うん、あにいさん(「あにいさんの」とホワイトボードに書きながら)。
ディプ:はい、ネパールの料理をつくりました。
田中 :うん(「ネパールのりょうりをつくりました」とホワイトボードに書きながら)。うんそれから、
ディプ:母と話しました。
田中 :あ、そうそう(「ははとはなしました」とホワイトボードに書きながら)。うんうん。じゃあ、楽しかったですか?
ディプ:はい、楽しかったです。

42画像1

田中先生は、ディプさんと行ったやりとりをホワイボードに再現し、「シャワーをしました」「あにいさんのネパールの料理をつくりました」という不十分な表現もそのまま、板書しました。私は田中先生に、「なぜ不十分な日本語もそのまま書くのか?」と聞いてみました。田中先生の答えは次でした。「学習者のことばをそのまま書いているのは、教師が誤りを訂正して書いてしまうと学習者は何が誤っていたのか分からなくなるし、学習者が自分で考える機会が奪われてしまうから。」

このやりとりの続きを見てみましょう。

資料

田中 :休みに何をしましたか?て私が言ったら、ディプさん、シャワーをしました、せんたくをしました。シャワーをしました。シャワーを、
ディプ:(考える)
田中 :シャワーをあびました(「あびました」とホワイトボードに書きながら)、シャワーをあびました。
ディプ:あびました。
田中 :シャワーをします、じゃなくて、シャワーをあびます(シャワーを浴びる動作をしながら)。
ディプ:はい。わかりました。

42画像2

田中先生は、ホワイトボードに書いた「シャワーをしました」というディプさんの不十分な日本語に対しフィードバックを行うとき、一度、「シャワーを」で区切り、ディプさんが考える時間をつくっています。ディプさんが答えられないのが分かると、田中先生は「シャワーをあびました」と正確な日本語を伝え、ディプさんは理解を示しています。

さらにやりとりの続きを見てみましょう。

資料

田中 :(ホワイトボードの「あにいさんのネパールの料理をつくりました」を見ながら)あにいさん。
ディプ:(考える)
田中 :あに。
ディプ:あに、あに、あに。
田中 :じゃあ、あにのネパールの料理をつくりました?
ディプ:あにの部屋で、
田中 :あにの部屋で、部屋で(「へやで」とホワイトボードに書き加えながら)、
ディプ:ネパールの料理をつくりました。
田中 :だれが? あにが?
ディプ:あに。
田中 :じゃあ、えっと、あにの部屋で、あにが料理をつくりました。(「あにが」とホワイトボードに書き加えながら)
ディプ:はい。

42画像3

田中先生は、ホワイトボードに書いた「あにいさんのネパールの料理をつくりました」の中で「あにいさん」と、まずディプさんに問いかけました。ディプさんが答えられないのが分かると、田中先生は「あに」と正確な日本語を伝え、ディプさんは理解を示しています。続いて田中先生は、「あにのネパールの料理をつくりました」という不十分な日本語に対しフィードバックを行います。田中先生が「あにのネパールの料理をつくりました」と注意を促すように言うと、ディプさんは、「あにの部屋で」とことばを足しました。また田中先生が「だれが」と問いかけることで、「あにの部屋であにが料理をつくりました」とディプさんが伝えようとすることが明確になりました。

伝えたいことを十分伝えられるようなフィードバックを

ディプさんのここまでの不十分な日本語を種別により整理したものが表1です。

42表1

ディプさんの不十分な日本語には、まず、「シャワーをあびます」「あに」と言わないといけないところを「シャワーをします」「あにいさん」と言ったものがあります。これは、ディプさんの言いたいことは明確ですが、言い方を誤った誤用です。次に、「あにのネパールの料理をつくりました」というディプさんの言おうとすることが十分に伝わらないものがあります。これは誤用とは異なる不十分さです。

そして、ディプさんのこれらの不十分な日本語に対する田中先生のフィードバックの方法を整理すると次になります。

①教師と学習者のやりとりをホワイトボードに再現する。
そのとき、学習者の不十分な日本語はそのまま書く。

②学習者の不十分な日本語の中で、まず誤用に対し、フィードバックを行う。
そのとき、まずは学習者が自分で考えられるように、誤用の前で発話を止めたり、誤用を繰り返したりする。

③学習者の不十分な日本語の中で、十分に伝えられていないことに対し、フィードバックを行う。そのとき、学習者が伝えたいことを表現できるように、不十分な文を繰り返したり、意味内容を明確にしたりする問いかけを行ったりする。

教師は、学習者の不十分な日本語の中で、誤用だけでなく、学習者が自分の伝えようとすることが十分に伝えられていない表現に対し、フィードバックを行う必要があります。そのとき私たちは、学習者ができるだけ自分の伝えたいことを忠実に表現できる協力が求められます。正しい日本語使用を守ろうとする正確さだけでなく、学習者の伝えたいことができるだけ忠実に表現されるという忠実さを意識することが大切です。

→次回はこちらから

執筆/深江 新太郎(ふかえ・しんたろう)

「在住外国人が自分らしく生活できるような小さな支援を行う」をミッションとしたNPO多文化共生プロジェクト代表。大学で歴史学と経済学、大学院で感性学を学ぶ。珈琲屋で働きながら独学で日本語教育能力検定試験に合格し日本語教師に。学校法人愛和学園 愛和外語学院 教務長。

関連記事


「日本語教育の参照枠」から見直そう!ー文型中心と行動中心はどう違う?

「日本語教育の参照枠」から見直そう!ー文型中心と行動中心はどう違う?
皆さんはもう「日本語教育の参照枠」を見たり、聞いたりしたことがあると思います。でも、イマイチピンと来ないな…と思う方も多いのではないでしょうか。「で、何をどうすればいいの?」など、授業のイメージがつかめないといった声をよく耳にします。それもそのはず、「日本語教育の参照枠」は教育または学習についての考え方、そのあり方を述べたもので、カリキュラムや授業の方法を示したものではないのです。そこで、今回のコラムでは「日本語教育の参照枠」を教室での実践につなげてとらえてみようと思います。(亀田美保/大阪YMCA日本語教育センター センター長)

日本語学校へビジターセッションに伺いました!-『できる日本語』の「できる!」の活動例

日本語学校へビジターセッションに伺いました!-『できる日本語』の「できる!」の活動例
7月某日、『できる日本語』の著者陣が勤務する学校でもあるイーストウエスト日本語学校の授業で、日本語話者を招いてインタビューをするビジターセッションが行われました。今回、アルクのメンバーがビジターとして招かれて授業に参加することになったので、その様子を取材してきました。

日本語教師プロファイル岡宮美樹さん―「日本語」にこだわりすぎない日本語教師でいたい

日本語教師プロファイル岡宮美樹さん―「日本語」にこだわりすぎない日本語教師でいたい
今回「日本語教師プロファイル」でご紹介するのは長野県にお住いの岡宮美樹さんです。岡宮さんは長野工業高等専門学校の留学生に教えながら、長野県地域日本語教育コーディネーターや「にほんごプラス」の主催者としてもご活躍です。最近、草鞋を履き過ぎて忙しいとおっしゃる岡宮さんにこれまでのキャリアやこれからやりたいことについて伺いました。

募集中! 海外日本語教師派遣プログラム

募集中! 海外日本語教師派遣プログラム
コロナ禍も落ち着き、海外と日本の人の行き来が戻ってきました。日本国内の日本語学習者は順調に増加していますが、来日せずとも海外で日本語を学んでいる学習者は約379万人もいます。そのような海外の日本語教育の現場に入って、現地の日本語教育を支援する日本語教師の派遣プログラムをご紹介します。

教科書について考えてみませんか-第5回 漢字学習も「できること」重視!

教科書について考えてみませんか-第5回 漢字学習も「できること」重視!
2011年4月から『月刊日本語』(アルク)で「教科書について考えてみませんか」という連載を掲載してから10年。2021年10月に「日本語教育の参照枠」が出て以来、現場では、コミュニケーションを重視した実践への関心が高まり、さまざまな現場で使用教科書の見直しが始まっています。「参照枠」を見ると、言語教育観に関して、「学習者を社会的存在として捉える/「できること」に注目する/多様な日本語使用を尊重する」という3つの柱が掲げられています。これは、2011年4月から『月刊日本語』で連載した中で述べていることに重なります。