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自己主張が強めなオーストラリアの中学生に鍛えられる日々

今年6月上旬に着任し、7月中旬からは8年生から12年生(中学2年生から高校3年生)までの授業を単独で指導している黒沢 毅先生は、3月まで公立高校の英語教員でした。英語で日本語を教えることの難しさ、そしてオーストラリアの中高生をひとりで教えることの難しさを痛感しつつ、日々、喜びと充実感も味わっておられます。

担当されている、日本での中学2年生である8年生は、どのような生徒たちでどのような授業を行なっているのでしょうか。

公立高校教諭を退職→AUSの姉妹校でフルタイム採用へ

昨年度まで埼玉の公立高校で英語教師として18年間働き、9年間の前任校勤務で海外研修事業の生徒引率で6回生徒引率したことから、日本語教師として働かないかというありがたいオファーをいただきました。そのため、僕はオーストラリアの学校でフルタイム教員として勤務する資格は持っていません。もちろん、日本語教師として働くための資格さえ持っていません。あくまでも、クイーンズランドのカソリックエデュケーション本部より、本校に限って勤務できるよう特別許可をいただいた上で就労ビザを発給してもらい、フルタイム教員として勤務できています。人生を大きく変えてくれた今回のオファーに心から感謝しています。

ほぼ毎日70分4コマの授業はなかなかしんどい

そんな中、10週間4学期制の3学期を何とか単独で乗り切り、現在は12月上旬の学期末に向けての授業が続いています。

さて、勤務するシャロームカレッジは、「カレッジ」という名前ですが、7年生から12年生までの生徒が通うカソリック系の中高一貫校です。僕は8年生(26人)を2クラス、9年生(19人)、10年生(24人)、11年生(8人)、そして12年生(6人)を担当しています。授業は70分が1日4コマで、ほぼ毎日4コマの授業が入っているため、実はかなりシンドイです。しかし、部活や放課後の会議はほとんどありません。そのため、ほぼ毎日、授業が終わる3時過ぎには帰宅できるのが救いです。

学んでも忘れてしまう10週間のみの必修日本語に…

本校では7年生と8年生は、日本語が1学期10週間のみの必修となっています。僕が担当している8年生も7年生の時に4学期のうちのどこかで日本語の勉強をしていますが、あいにく、3分の2くらい生徒は学習したことをほぼ忘れてしまっています。そこは改善の余地があるように思いますが、カリキュラムが大きく絡んでいるため、簡単には変えられそうもありません。その為、基本的なあいさつ表現から始まり、ひらがな、家族、年齢や月日などを含めた数字、ボディパーツ、簡単な文構造の表現などを学習するだけで10週間は終わってしまいます。

しかし、そんな8年生はこれまで日本人に指導されたことがないようで、お互いに言語バリアを感じながらも、日本語ネイティブの強みを活かしつつ指導できるよう試行錯誤しています。また、これまで英語教師として学んできたICT機器を用いての授業や生徒たちが主体的に取り組めるよう、アクティブラーニングの手法なども取り入れながらの授業も進めています。さらに、日本で英語教師をしていた時にお世話になった、日本各地の中学校の英語の先生方にお願いして実施している、中学生との文通プロジェクトなどを通して、生徒たちがより日本文化に興味を持ち、同世代の日本人と生きたコミュニケーションを通して日本語学習により興味を持ってもらうためのきっかけづくりにも務めています。

本校の8年生vs日本の中学2年生

そんな8年生ですが、全員が10週間の必修科目ですので、中にはもちろん日本語を勉強することに意義を見出せない生徒や、そもそも学校での学習に前向きになれない生徒もいます。また家庭や人間関係での様々な問題や障害を抱えている生徒も多くいるようです。さらに、簡単には一般化できないことなのかもしれませんが、やはり日本人とオーストラリア人の違いももちろんあるように思います。

僕は中学校での指導経験がないので「日本の中学生もこんな感じなんだろうな〜」と思いつつ、なかなか授業に注力できない生徒や結果が伴わない生徒たちの指導に悪戦苦闘する毎日です。また、いい意味でも悪い意味でも自己顕示欲が強い生徒たちが多く、常に「センセイ!センセイ!」と言っては自分に注目して欲しいと言わんばかりの生徒から、自分がずっと話をしていないといられない生徒、隙あらばiPadで関係ないゲームをする生徒、逆にクラスメイトとあまり関わろうとしない生徒まで本当に多種多様です。生徒の個性や能力などの違いを受け入れながらも、日本語の授業を成立させるためのクラスルームマネージメント、タイムマネージメントをする必要があります。さらに、それらを英語でやっていくことの難しさを痛感しています。日本の中学校の先生方には、日々、頭がさがる思いです。

生徒、保護者、同僚とのコミュニケーション

長年、英語教師をしていたとはいえ、英語を第2言語とする僕が彼らをひとりで指導することは簡単ではありません。当然のように、欠席が多い生徒や、授業態度が芳しくない生徒、課題を出さない生徒、学業不審の生徒への対応は、本校のカウンセラーやハウスコーディネーター(日本でいう学年主任のようなポジション)、管理職、そしてもちろん保護者とのやりとりが生じてきます。正直、難しいなあと頭を悩ませることも少なくありません。

生徒個人個人の授業中の声かけだけでなく、必要であれば昼休みに呼び出しての個別対応、そして保護者や同僚へのサポートの依頼や生徒の状況報告など、日本で英語教師としてやっていたことを、オーストラリアの学校で当然のように英語でやらなくてはなりません。ただ、こうした経験が自分自身のこれからの教師人生で必ず役に立つと信じて必死で食らいつきながらも、日本の学校との対応の違いや考え方の違いなど、日々、多くを学ばせて頂いています。

実は数日前にも8年生数人の生徒の保護者と何度かやり取りしたり、ある9年生の母親とも面談して家庭での様子、学校での様子、そして保護者の要望などについて、意見交換したりしたばかりです。

先ほども述べた通り、日本人の生徒と異なり、本校の生徒たちは良くも悪くも自己主張をはっきりする生徒たちが多いということかもしれません。「自分の意見や考えをきちんと表現すること」や「解らなければ聞く」ことがこれまで家庭や学校での指導で身についているのでしょう。「クロサワセンセイ、クロサワセンセイ!」といった調子で、2分前に説明したことを質問して来る生徒も少なくありません。授業とは全く関係ないことを質問されることもよくありますが、それでも、日本の教室でよくあるように先生が何か質問を投げかけても40人いるはずの生徒が誰も答えずに「いやな沈黙の時間」が流れることは、あまりありません。また、教室の外で見かけると「クロサワセンセイ、コニチワ(オハヨ)」と気さくに声をかけてくれたり、昼休みの校庭での立ち番の時に、実は授業ではあまり良いイメージを持っていなかったラグビー大好きな男子生徒数人と一緒に、アメリカンフットボールをやって遊んだりする中で、徐々に彼らとも人間関係が築けてきたように思います。

僕の課題としては、こうした生徒たちの「コミュニケーションを図りたい」「自分の方を向いてほしい」と言ったポジティブな気持ち、そして彼らが興味のあることや得意なことをどうやって、より日本語&日本文化への興味とつなげながら、日本語力アップに結びつけられるかです。日本の高校でできていたことが必ずしもできていない状況ではありますが、教師として改めて言語の学習法や指導法、教室での教師の役割などについて色々と考え直す良いきっかけとなっています。

黒沢 毅(くろさわ・たけし)

黒沢 毅(くろさわ・たけし)

神田外語大学外国語学部英米語学科卒業後、米国ミズーリ州カンザスシティ・グランドビュー高校にて日本語教師として勤務。帰国後複数の高校に勤務。埼玉県の公立高校で英語教師をしているときに姉妹校でもあるオーストラリアのシャロームカレッジに20名の生徒を6回引率。その縁から、日本の高校教師を辞め、2019年から日本語教師としてシャロームカレッジで勤務している。

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