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今後の日本語教育を見据えたカリキュラムのつくり方①-「日本語教育の参照枠」を手がかりに</strong>
現在、認定日本語教育機関の申請を控え、「日本語教育の参照枠」に沿ったカリキュラム編成と言われても、どこからどう手をつければよいのか不安に感じていらっしゃる先生方も多いのではないでしょうか。教務主任や専任教員としての経験はあっても、これまで、前任者から受け継いだカリキュラムを、若干の手直しだけでほぼ踏襲してきたという場合や、新規校の主任を引き受けることになった場合など、自分で一から新たなカリキュラムを立てた経験がなく、途方に暮れている方もあるかもしれません。そんな先生方の心が少しでも軽くなるように、どこから始めればいいのか手がかりがつかめるように、いくつかの点から考えてみたいと思います。  (竹田悦子・内田さつき/コミュニカ学院)

カリキュラムを見直す好機と捉えて

 一口にカリキュラム編成といっても、既存校(法務省告示日本語教育機関)と新規校では違うのでは? という考え方もあります。しかし、その違いが絶対的なものかと言うと、そうとも言えません。皆さんは、勤務校の今のカリキュラムが完璧で、自分の考える理想の教育を体現しているという確信をお持ちですか? もし、そうなら、それを認定の様式に落とし込み、日本語教育の参照枠(以下、参照枠)に沿って到達目標のレベルやCandoを書き加えるだけで事足ります。けれども、そういうケースは稀ではないでしょうか。

既存校であれ新規校であれ、「参照枠」に沿った教育課程の編成という作業を通じて、自分たちはそもそもどのような教育を目指すのかを改めて問い直し、その構想を形にすることを迫られているという点は同じです。それをただの業務負担増と見るか、実践改善のチャンスと見るかは、大きな違いです。待ったなしの現実を前に、やらねばならないことなら、それを一つの好機と捉えて前向きに取り組みたいですよね。日本語教師として、カリキュラムの抜本的な見直し、あるいは新規編成に携わることほど、やりがいのある仕事があるでしょうか。  

最初から構想するのが結局は近道?

カリキュラム編成にあたって、大筋で今あるものをベースに改変するか、一から組み直すか、どちらがいいか、というご質問をよくいただきます。私たちのお薦めは一旦初心に還って最初から構想してみることです。それは一見、非効率に思えても結局はゴールへの近道だと思います。今あるものを全部捨てろということではありません。今のカリキュラムの良いところは取り入れるにしても、それは一旦横に置いて、まったく新しいコースをつくるつもりで、教育の理念や目的から書き起こしてみるという方法です。

そもそも、どうしてこの教育課程を設置するのか、主な対象とする学習者層はどのような背景、ニーズ、レディネスを持った人たちなのか、どのくらいの期間で、何ができるようになってもらいたいのか、ということを考えて決め、書いていくのです。そのような本質的な問いから目を背けて小手先の改変を行っても、良いカリキュラムにはならないし、認定申請も突破できません。たとえば、今ある家をリフォームする場合、今ある家の構造や間取りという制約があるので、できることに限界があります。せっかくリフォームをしたのに、かつての間取りに縛られて暮らしにくい家になり、結局、数年で建て替えというリスクもあります。家づくりが、どんな暮らしをしたいかという価値観の具現化ならば、カリキュラム編成とは、どんな教育をしたいかという理念を言語化し、形にすることです。 

「今あるものを使う」でよいのか

……とここまで読んで、「はいはい、要するに、そういう整理をしたうえで、今あるものを使えばいいのね」と思われた方、ちょっと待ってください。「一からつくる」という意識で始めた場合は、「今あるもの」の中身を棚卸ししてみて、そこから理念や目的に照らして使えそうなものを選び出す、というプロセスを通りますが、「今あるものを使う」が前提だと、本質的な検討を経ないまま「大枠はいじらない」「メイン教材は変えない」などの「結論」が先に立ち、それを所与のものとして進めるという転倒が起こりかねません。メイン教材を変えるかどうかといった決定は、教育の目的・目標、対象や方法などを検討したうえで、判断されるべきことではないでしょうか。 

今あるものを生かそうとするなら、最低限、そもそも、従来の自校のカリキュラムの拠って立つ言語教育観が、参照枠のそれ(三本柱)と馴染むものなのかどうなのか、もしも、そこに乖離があるなら、どう埋めるのか、という検討が不可欠です。その検討なくして、今あるものを適当に様式に当てはめてお茶を濁しただけで、参照枠に沿ったカリキュラムができるでしょうか。それがどのような意味で参照枠に沿っているのか、自信をもって説明できるでしょうか。コースの掲げる理念や目的、到達目標、活動、評価に一本の筋が通っており、そこに齟齬がないことをきちんと自分の言葉で整合的に語れるでしょうか。逆に、その整合性を確保できるならば、一からつくったか何かをベースにしたかは問題でなくなります。 

では、カリキュラムを一から構想するとき、具体的にどこから手をつければいいでしょうか。考え方はわかったけれども、作業手順がわからない、という向きもあるでしょう。そういう場合にぴったりの方法があります。「令和45年度 文化庁委託「日本語教育の参照枠」を活用した教育モデル開発事業【留学分野】」で日本語教育振興協会チームによって開発された「コースフレームワーク」と「モジュールボックス」**というツールを利用する方法です。次回②では、具体的なコースフレームワークとモジュールボックスの利用法を見ていきましょう。

「コースフレームワーク」とは、最長2年間の学習課程(コース)を横長の帯で示したもので、ここに学習期間、学期、レベルを当てはめることによって、機関独自のコースの大枠を設定できるようになっています。

**「モジュールボックス」とは、「日本語教育の参照枠」にある一般的・汎用的な各種Can doそのものを、留学分野の学習者が行う言語活動をイメージし、大まかな10のモジュール(大項目)を立てて整理したものです。一部に誤解がありますが、「モジュールボックス」は、いわゆる「留学Can do」(留学分野に特化して具体的・個別的Can doを記述したもの)ではありません。

【セミナーのご案内】

「日本語教育の参照枠」に沿ったカリキュラム編成① ~モジュールボックスを使って構想する教育の理想~(概要編)

日時:2024年11月29日(金)20:00-21:30
対象:国内の日本語学校の教師・関係者でカリキュラム作成に携わる方
講師:竹田悦子(コミュニカ学院顧問)、内田さつき(コミュニカ学院校長)
形式:オンライン(ZOOM)
参加費:無料
詳細・申込:https://20241129-alcnihongo.peatix.com

※②実践編は満席につき締め切らせていただきました。

プロフィール

内田さつき
コミュニカ学院校長。2001年よりコミュニカ学院勤務。教員養成や『読む力』シリーズの出版に関わる。文部科学省委託主任教員研修実施委員、日本語教育学会支部活動委員、ビジネス日本語教育研究会幹事。外部の多様な機関と連携しながら、学生が社会に主体的に発信できる力を養うための授業実践を行っている。四人の男子の母として育児と仕事の両立に奮闘中♪

竹田悦子
コミュニカ学院顧問。高校英語教諭を経て、1990年よりコミュニカ学院勤務。カリキュラム改訂や『読む力』シリーズの出版に関わる。『「日本語教育の参照枠」活用のための手引き』協力者として留学分野の事例を執筆。「『日本語教育の参照枠』を活用した教育モデル開発・普及事業〈留学〉」に参加。ノンフィクション出版翻訳にも携わる。奥田純子基金*の運営に奮闘中♪

*奥田純子基金 https://sites.google.com/communicainstitute.com/yumekikin

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