検索関連結果

全ての検索結果 (0)
おにぎりを食べながら旅行談義に花を咲かす台湾の日本語学習者

親日家が多いことで有名な台湾は、世界有数の日本語教育の盛んなところです。台湾の大学のコミュニティカレッジで、社会人向けに日々楽しく日本語を教える澤田尚美さんを通して、台湾人の日本語学習ニーズや日本観、台湾で日本語を教える際に必要な資質・能力などについてご紹介します。(地球人K)

クラスの最終日は皆でおにぎりパーティー

「日本語のクラスに通ってくる学習者は、本当に日本のことが好きな人が多いですね。昨日は教室に日本のお米を炊いて持ち込んで、おにぎりパーティーをしました。皆、日本のお米はおいしいと、喜んでくれましたよ」。澤田さんがまず紹介してくれたのは、こんなほっとするエピソードでした。日本でも話題になった「おにぎりアクション」プロジェクト(注1)への参加を兼ねてのパーティーでしたが、主婦の皆さんが多かったクラスということもあり、日本のお米や海苔の銘柄にまで話題が広がり、大好評だったそうです。

台湾の社会人学習者の中には日本旅行が動機になっている人もたくさんいます。特に、最近は団体旅行ではなく個人旅行が多いことから、習った日本語を使って日本で買い物をしたり、日本料理を楽しんだりしている人も多いそうです。澤田さんのクラスには、日本から帰ってきた人の土産話を聞いて、同じ観光地やレストランを訪問したり、趣味を絡めて日本を訪れたりする人もいます。

最近、金沢や高山を回ったご夫婦のエピソード:

「旅先でざるそばを注文したのですが、食べ方がよくわかりませんでした。そんな時に周りの日本人が親切に食べ方を教えてくれて、それから日本語で会話が弾みました」

日本で開催されるマラソンに参加するのを趣味にしている人のエピソード:

「台湾でもマラソン大会はあるのですが、日本では沿道で声援を送ってくれる人がいるのがうれしいです。今では、日本人のランナー仲間も随分と増えました」

毎年、北海道の美瑛の民宿に行く人のエピソード:

「民宿では毎晩、オーナーと宿泊客とで宴会があるのですが、ちょっと前までは英語でコミュニケーションしていたのが、日本語を勉強したお陰で、今では日本語で会話できるようになりました」

皆で握ったおにぎりを食べながら、日本の旅行談議に花を咲かす、楽しそうなクラスの風景が目に浮かびますね。

テキストは台湾で大人気の『できる日本語』

澤田さんはもともと、東京のイーストウエスト日本語学校で日本語を教えていましたが、台湾の方とのご結婚を機に7年前から台湾に住んでいます。今は、週4日、中国文化大学のコミュニティカレッジで日本語を教えています。教科書は『できる日本語』の初級、初中級、中級を使っています。これは台湾の人たちの学習ニーズに応えるためでもあるそうです。他にも、商業高校や中学校の放課後クラスなどでも日本語を教えているということです。

「コミュニティカレッジでは、韓国語、ドイツ語、フランス語、スペイン語など、さまざまな外国語クラスがあるのですが、日本語が一番人気があり、受講人数も最も多いようです」

台湾で『できる日本語』を使っている日本語教師のネットワークも広がっています。中国文化大学の同僚頼素綢さんは、澤田さんが以前に在籍したイーストウエスト日本語学校の実に20年以上前の卒業生とのこと。このように国を超えて長く関係がつながるのも日本語教育ならではですね。また、台中で同じく『できる日本語』を使って教える王秀雯さんは、3年前に一念発起して大学に通い、日本語学校の受付から日本語教師に転身したそうです。また、『できる日本語』の中で紹介されている奥多摩に興味を持ち、仕事で来日した際に一人で奥多摩を訪れたニコルさんのような学習者もいるそうです。

「『できる日本語』は話せるようになりたい、日本に行った時に日本人と日本語で会話したい」という目的を持っている方にぴったりな教科書だと思います。文型中心のテキストよりもコミュニケーション力を伸ばせると言って、継続して学習してくださる方が多いです」と、澤田さんが、台湾で『できる日本語』がよく使われている背景を説明してくれました。授業では学習者のニーズにしっかりと応えながら、それに加え努力家の澤田さんは東呉大学(注2)の修士課程を修了し、今は自分のキャリアの可能性を広げるために、教職課程にもチャレンジしています。

台湾で日本語を教えたいと思ったら

これから台湾で日本語を教えてみたいと思った人に、澤田さんからアドバイスをもらいました。

「台湾で日本語を教えたいと思ったら、中国語(普通話)はある程度できたほうがいいと思います。今、私がコミュニティカレッジで教える際には、日本語だけではなく、中国語を媒介語にして教えています。ある機関では、直接法で教えることを求められることもあると聞いていますが、中国語ができると、学習者とのコミュニケーションも取りやすいし、台湾人の先生とのネットワークも広がると思います。台湾で生活するためのいろいろな情報も入手しやすくなります」

「それから、どこで教える場合も同じだと思いますが、台湾の文化的・歴史的・社会的背景に対する理解も必須です。日本との関係や中国大陸との関係にも注意を払う意識が大切だと思います。それらの事柄に自分から触れる必要はあまりないと思いますが、教師自身の中で持っておくことは必要だと思います。また、海外にいると日本のニュースに疎くなってしまいがちですが、台湾の人のニュース入手速度はとても速いので、情報入手に努めることも大事かと思います」

「こちらでは学習者の年齢幅がとても広いので、相手に合わせられる柔軟性があるといいと思います。私が教えているのは子供から大人まで、最高年齢の方は75歳です!」

以下のような日本語教師の求人サイトにも、よく台湾の日本語教師の求人情報が掲載されます。関心のある人は、小まめにチェックしてみるといいでしょう。

日本村

https://job.nihonmura.jp/category/new/

日本語教師の集い

https://www.e-tsudoi.com/

年明けすぐには台湾の総統選挙があり、年末・年始にかけて台湾関連のニュースが日本でも増えてくると思われます。日本語教育への影響も注目していきたいですね。

注1)特定非営利活動法人TABLE FOR TWO Internationalが、国連が定めた「世界食料デー」を記念して実施している活動。おにぎりにまつわる写真に#OnigiriActionを付けてSNSまたは特設サイトに投稿すると、協賛企業が寄付し、TABLE FOR TWOを通じてアフリカ・アジアの子どもたちに給食5食(100円)が届くという取り組み

注2)台北市にある私立の総合大学。特に法学や会計学で有名だが、日本語教師養成においては数多くの日本語教師を輩出し、台湾の日本語教育界に人材を送り込んでいる。

sawada_profile

澤田尚美(さわだ・なおみ)

東京YMCAの職員から日本語教師の道に進む。東京YMCA英語専門学校日本語科、イーストウエスト日本語学校にて専任講師を務める。現在は台湾台北でフリーランスの日本語教師。できる日本語教材開発プロジェクトメンバーとしても活動中。

関連記事


今後の日本語教育を見据えたカリキュラムのつくり方②ーコースフレームワークとモジュールボックス

今後の日本語教育を見据えたカリキュラムのつくり方②ーコースフレームワークとモジュールボックス
カリキュラムを一から構想するとき、具体的にどこから手をつければいいでしょうか。カリキュラム編成の考え方はわかったけれども、作業手順がわからない、ということもあるでしょう。そういう場合にぴったりの方法が「令和45年度 文化庁委託「日本語教育の参照枠」を活用した教育モデル開発事業【留学分野】」で日本語教育振興協会チームによって開発された「コースフレームワーク」と「モジュールボックス」というツールを利用する方法です。具体的な使い方を見ていきましょう。(竹田悦子・内田さつき/コミュニカ学院)

今後の日本語教育を見据えたカリキュラムのつくり方①-「日本語教育の参照枠」を手がかりに

今後の日本語教育を見据えたカリキュラムのつくり方①-「日本語教育の参照枠」を手がかりに</strong>
現在、認定日本語教育機関の申請を控え、「日本語教育の参照枠」に沿ったカリキュラム編成と言われても、どこからどう手をつければよいのか不安に感じていらっしゃる先生方も多いのではないでしょうか。教務主任や専任教員としての経験はあっても、これまで、前任者から受け継いだカリキュラムを、若干の手直しだけでほぼ踏襲してきたという場合や、新規校の主任を引き受けることになった場合など、自分で一から新たなカリキュラムを立てた経験がなく、途方に暮れている方もあるかもしれません。そんな先生方の心が少しでも軽くなるように、どこから始めればいいのか手がかりがつかめるように、いくつかの点から考えてみたいと思います。  (竹田悦子・内田さつき/コミュニカ学院)

日本語教師プロファイル田中くみさんー自分の強みを活かして自分に合った働き方を

日本語教師プロファイル田中くみさんー自分の強みを活かして自分に合った働き方を
今回「日本語教師プロファイル」でインタビューさせていただいた田中くみさんは、Language Plus Oneの代表として、日本語教育のみならず、キャリア教育や外国人への就職支援にも取り組んでいます。最近では学習アドバイザーの資格も取られたそうです。これからの働き方として、特定の組織に属さないフリーランスを考えている方に参考になるのではないでしょうか。

ベトナムにルーツを持つ子どもたちが気づかせてくれたこと―多様な言語・文化的背景を持つ子どもたちとともに学ぶ、これからの学校(2)

ベトナムにルーツを持つ子どもたちが気づかせてくれたこと―多様な言語・文化的背景を持つ子どもたちとともに学ぶ、これからの学校(2)

日本語も日本文化もわからないまま、家庭の事情等で来日し、日本の学校に通う子どもたち。その学習にはさまざまな支援が必要です。子どもたちの気持ちに寄り添い、試行錯誤を続ける近藤美佳さんの記事、後編です。


新装開店! 凡人社書店にお邪魔しました

新装開店! 凡人社書店にお邪魔しました
日本語教育の専門書店である、日本語の凡人社。東京千代田区麹町と大阪に店舗があります。ちなみに麹町店はこれまで月・水・金の12時から18時まで開店していましたが、10月1日から平日の月・火・水・木・金の営業となりました(土・日・祝休み)。また、大阪店はリニューアルオープンのため当面の間、休業とのことです。今回は改装した凡人社麹町書店に伺って、お話を聞いてきました。