外国人と日本語でコミュニケーションを取るとき、どうすれば彼らの思いや考えをきちんと「聞く」ことができるのか。聞き手としての振る舞いを、福岡市で行った行政関係者対象の研修を基に考えます。NPO多文化共生プロジェクト代表の深江先生によるコラムです。
外国人の日本語をきちんと「聞く」には?
日本語教師やボランティアとして活動する中で、日本語がほとんど話せない外国人とコミュニケーションを取る場面があるでしょう。そのとき、なかなか通じないからとあきらめてしまう、ということはないでしょうか。本コラムでは、彼らと日本語でコミュニケーションを取ろうとするとき、どのように協力すれば、彼らの思いや考えを聞くことができるのかについて、行政関係者を対象に福岡市で行った研修を基に、見出していきます。
本コラムに登場する資料は、スリランカからの留学生リヤジさんと、事務職の大森さん、日本語教師の田中先生が初めて会ったときのやりとりを記述したものです。
相手に関心を持って聞く
日本語がほとんど話せない外国人の話を、関心を持って聞くことが大切と言うと、当たり前と思うかもしれません。しかし親しい間柄にない人に関心を持って聞くことは案外、難しいです。
例えば、役所に書類関係の手続きに行ったとき、その対応が「事務的だなあ」と感じたことはないでしょうか。その「事務的だなあ」とは、相手が自分に関心を持っていないと感じられるということですね。
また、普段のコミュニケーションを考えたとき、自分の思いを伝えることと相手の思いを聞くことを比べたら、どちらが多いでしょうか。相手の思いを丁寧に聞くことは、思っているより少ないのではないでしょうか。ただ、相手に関心を持って聞くことは、実は、日本語がほとんど話せない外国人が自分の思いや考えを日本語で表現することに協力する第一歩です。
では、どのように話を聞けば相手に関心を持っていることが伝わるでしょうか。それを考える上で参考になる2つの例を見てみましょう。まずは資料(1)、大森さんとリヤジさんの会話です。
資料(1)
大森 :こんにちは。
リヤジ :こんにちは。
大森 :ああ、日本語はどのくらい勉強しました?
リヤジ :6ヶ月。
大森 :4ヶ月勉強しました。日本語はどうですか?
リヤジ :やさしいです。
大森 :やさしいです。うーん。好きな日本語はありますか?
リヤジ :あります。
大森 :うーん、好きな日本語、ことば、ワードありますか?ワード。
リヤジ :ひらがな。
大森 :ひらがな。うーん、ひらがな。漢字はどうですか?
・・・どうでしょうか。このやりとりで大森さんからリヤジさんへの関心は伝わったでしょうか。
次に、リヤジさんと田中先生の会話である資料(2)を見てください。リヤジさんの発話内にある( )は田中先生の相づちです。
資料(2)
田中 :こんにちは。
リヤジ :こんにちは。
田中 :はじめまして。
リヤジ :はじめまして。
田中 :えっと、おなまえは?
リヤジ :私の名前はリヤジです。(うん)リヤジです。
田中 :リヤジさん?
リヤジ :はい。
田中 :リヤジさんか。カタカナ。カタカナ。
リヤジ :リヤジ。
田中 :カタカナが書けますか。
・
・
田中 :えっとリヤジさんはどこから来ましたか?
リヤジ :私はスリランカから来ました。
田中 :スリランカ。ほおースリランカ。
リヤジ :はい。
田中 :スリランカはあそこにありますね。どこですか?[リヤジさんと一緒に世界地図の前に移動する] スリランカ。[世界地図のスリランカを右手で指す]ここですね。
リヤジ :はい。
田中 :スリランカのどこから来ましたか?
リヤジ :スリランカのケンリです。ケンリ。
田中 :ケンリ?
リヤジ :はい。
田中 : [世界地図のスリランカを指す] ケンリはどこですか?
・・・大森さんとの会話である資料(1)と、田中先生との会話である資料(2)では、どちらが相手への関心が伝わったでしょうか。
資料(1)では大森さんの質問に対しリヤジさんは「6ヶ月、やさしいです、あります、ひらがな」と短く不十分な日本語ながらも答えているのですが、それに対して大森さんは「4ヶ月」と聞き間違えていますし、コメントや質問は出てきません。二人のやりとりは約2分30秒で終わり、発話は合計33回でした。
資料(2)では、田中先生は名前を聞いた後、その名前についてカタカナを聞く、という問いかけを足しています。また、リヤジさんがどこから来たか尋ねた後、世界地図を使ってさらにスリランカのどこから来たか、ケンリがどこにあるのか、と問いかけを足しています。リヤジさんは問いかけを足がかりにして、少しずつ自分のことを伝えることができています。二人のやりとりは約7分15秒続き、発話は合計134回でした。
日本人同士の会話でも、例えば初対面で名前を伝えた後、さらに名前の由来を尋ねられたら、相手が自分に関心を持っていることが伝わってきませんか。一つの話題が出たら、それに反応し、その話題に沿って問いかけを足すことは、相手に関心を持っていることが伝わる方法です。
また、田中先生は問いかけを「丁寧に一つずつ」足しています。田中先生に、どうしてこのように問いかけを足しているのか尋ねたところ「相手が本当は何を思っているのか知りたいから。十分に日本語で表現できる人はいいけれど、表現できることが限られている人が自分で表現できるように一つずつ問いかけている」ということでした。
「表現ができない」=「伝えたいことがない」わけではないのに、日本語で十分表現できない外国人が相手だと、どうすれば表現を引き出せるか分からず、大森さんのように次々と畳みかけるような聞き方をしがちではないでしょうか。
日本語で十分表現できないからこそ、私たちが彼らに、関心を持っていると伝わるよう丁寧に聞くことは、彼らのことばが生まれる始まりと言えます。私たちは、まず彼らに関心が伝わるように聞く協力から始めなければなりません。彼らが自分の思いや考えを伝え始めてくれたら、次の協力が必要となります。その協力の1番シンプルな方法としての「相づち」を打つことについて、次回で考えます。
執筆/深江 新太郎(ふかえ・しんたろう)
「在住外国人が自分らしく生活できるような小さな支援を行う」をミッションとしたNPO多文化共生プロジェクト代表。大学で歴史学と経済学、大学院で感性学を学ぶ。珈琲屋で働きながら独学で日本語教育能力検定試験に合格し日本語教師に。学校法人愛和学園 愛和外語学院 教務長。
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