ついに成立した日本語教育推進法について、日本語教育学会のトップが語ったコメントを紹介します。2019年6月21日、文部科学省で行われた記者会見より。(新城 宏治)
日本語教育の法的根拠ができた
2019年6月21日、文部科学省記者会見場。
壇上には、公益財団法人日本語教育学会の神吉宇一副会長と衣川隆生副会長が座った。神吉氏が、この日に参院本会議で全会一致で可決、成立した日本語教育推進法について、日本語教育学会の見解を語った。
日本語教育学会は1962年設立し今年で57年目となる学会組織である。会員4000名を数え、文系では最大規模の学会となる。日本語教育の研究者や実践家が数多く参加している。
神吉氏は、日本語教育学会が日本語教育の質の向上、特に、日本語教育の公的保証の必要性については長らく訴えてきたことから、率直に「法的根拠ができてうれしい」と語り、本法律の成立に長らく尽力してきた、日本語教育推進議員連盟にお礼を述べた。
続けて、本法律成立の意義や効果に関して、以下のように見解を語った。
法律制定の意義は、
日本語教育の推進が①国内においては多様な文化を尊重した共生社会の実現、②海外においては諸外国との交流の促進並びに友好関係の維持・発展に寄与するものであることが初めて明記されたこと。
日本語教育学会の理念体系にも「共生の場づくり」が大切であることが述べられているが、それには言葉がなくてはならない。特に国内においては、在住外国人に対する日本語教育の公的保障の必要性を通した共生社会の実現が長年議論されてきたが、法律制定により日本語教育の公的な位置づけが明確になったことが大きい。
本法律制定により想定される波及効果は、共生社会実現のための日本語教育事業に法的根拠が与えられたことにより、日本語教育への取り組みを考えている地方公共団体の後押しになること。また、日本語教育に対する社会的認知が広がることである。
法律成立後の課題
続けて、今後の課題については、以下のように述べられた。
今回の法律の、より上位の社会統合に関する包括的な法律・政策の実現を強く求めていく。本法律の内容についての啓発活動を行っていく。また、今回の法律は理念法であり、実態のある形にするためには、個々の日本語教育施策を支える法的整備と政策の推進が不可欠。そこに日本語教育学会のこれまでの研究や実践の蓄積など、専門的知見をもって貢献したい。
国、地方公共団体、事業者それぞれの責務が明記されたが、地方公共団体に過度な負担がかからないよう仕組みづくりを考える必要がある。
これまで、技能実習制度や留学生受入れに関して、高額な仲介料の搾取やさまざまな人権侵害事案が発生している。今回の法整備を基盤として、日本において人権を尊重した外国人の受入れ体制を整え、共生社会の実現を目指していく必要がある。
その後、新聞社や通信社等とのQ&Aが行われ、会見は終了した。
会場内外で日本語教育関係者に話を聞くと、「これで日本語教育の法的根拠ができた」「何とか国会の会期中に成立してよかった」といった安堵の声が多く聞かれた。と同時に「これはあくまで理念法なので具体的な動きを加速していきたい」「ようやくスタートラインに立った。これからが本番だ」といった高揚感に溢れたコメントも耳にした。
全ての日本語教師の今後の活動に影響する日本語教育推進法。日本語教育や日本語教師は法律でどう位置付けられたのか。以下の文化庁のサイトに、日本語教育推進法の概要と条文が掲載されているので、ぜひご一読いただきたい。
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