2019年5月22日に衆議院提出、同月28日に衆議院本会議を通過した日本語教育推進法案について解説します。(新城 宏治)
大きな転換期を迎えた日本語教育
日本語教育を取り巻く環境は、いま大きな転換期を迎えています。日本語教師には単に外国人に日本語を教えるというだけではなく、これから多文化共生社会へ変わっていく日本社会において文化相互の仲介者としての役割も求められるようになっています。日本語の教え方を磨くことはもちろん大切ですが、社会の動きにアンテナを張っておくことも今まで以上に求められます。日本語教育に関連した重要な政治の動きを随時レポートします。
日本語教育推進法とは何か
2019年5月22日、衆議院文部科学委員会。
中川正春氏(立憲民主党・無所属フォーラム)ほか日本語教育推進議員連盟の超党派の国会議員により「日本語教育の推進に関する法律案」が提出された。
「我が国の在住外国人の数が過去最大となっているものの、外国人が日本語を学ぶ環境は必ずしも整備されていない。日本語ができないことで日常生活・社会生活に支障を来すことが懸念される。この対策は喫緊の課題である」
「海外における日本語教育の推進は、諸外国における日本に対する理解と関心を深める上で重要である」
「日本語教育の推進に関する基本理念を定めるとともに、国・地方公共団体・(外国人を雇用する)事業主の責務を明らかにし、日本語教育の施策の基本となる事項を定めるものである」
冒頭、国内外における現状と日本語教育の必要性を踏まえた、法案提案の趣旨説明がなされた。続けて、日本語教育の施策の基本となる理念について、以下のようにその詳細が述べられた。
※( )内は法律案における該当箇所。
- 外国人等が日本語教育を受ける機会を最大限に確保する(第3条)
- 事業主は(第3条の)基本理念にのっとり、雇用する外国人等及びその家族に対する日本語学習の機会の提供、支援に努める(第6条)
- 国は基本理念にのっとり、日本語教育に関する施策を総合的に策定、実施する(第4条)。地方公共団体は基本理念にのっとり、地域の状況に応じた施策を策定、実施する(第5条)
- 国は国内、海外の日本語教育の機会の拡充、日本語教育の水準の維持向上、日本語教育に関する調査研究を行う(第12条~第26条)
- 日本語教育の総合的、一体的、効果的な推進を図るため、日本語教育推進会議を設ける(第27条)
若干の質疑を経た後、法律案は文部科学委員会から提案されることが全員一致で決まり、5月28日には衆議院本会議で採決され、参議院に送られた。
この時点では、誰もがこのまま早期に参議院を通過し、法案が可決成立すると期待した。しかし、実際に可決成立するのはこの1カ月後、国会の会期終了の数日前という滑り込みのタイミングとなった。
「日本語教師」についてもその能力や資質について言及
法律案では、日本語教師に関しても「日本語教育に従事する者の能力及び資質の向上等」として、以下のようにしっかりと明記されている。
国は、日本語教育に従事する者の能力及び資質の向上並びに処遇の改善が図られるよう、日本語教育に従事する者の養成及び研修体制の整備、国内における日本語教師(日本語教育に関する専門的な知識及び技能を必要とする業務に従事する者をいう)の資格に関する仕組みの整備、日本語教師の養成に必要な高度かつ専門的な知識及び技能を有する者の養成その他の必要な施策を講ずるものとする(第21条)
本法律で日本語教育についての基本的な考え方が明記され、社会全体で総合的な施策が取られていく中で、「外国人等が日本語教育を受ける機会を最大限に確保」するためには、日本語教師の質的・量的拡充が必要であり、そのために国が必要な施策を講じることとされた。
本法律は基本法であり、この基本理念に基づいて、「国は日本語教育に関する施策を総合的に策定、実施」し、「地方公共団体は地域の状況に応じた施策を策定、実施」していくことになる。また行政だけでなく、実際に外国人を雇用する事業主は「雇用する外国人等及びその家族に対する日本語学習の機会の提供、支援に努める」ことになる。また、そのような施策を総合的に進めるために「日本語教育推進会議」が設けられることになった。
いよいよ国が日本語教育に対してしっかりと取り組む、新たなステージに向けた第一歩を踏み出した。
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