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日本語教師プロファイル江崎由美子さん―人とのつながりを大事にして

今回の日本語教師プロファイルでは、愛知県在住のフリーランス日本語教師であり、「CHEERS」代表の江崎由美子さんをご紹介します。江崎さんは日本語学校で15年ほど教えた後、独立し、大学や日本語教師養成講座で教えながら、日本語教師につながりと学びの場を提供する活動をされてきました。コロナ禍でも仕事が増え忙しい毎日を送っているという江崎さんに、これまでの歩みと今後についてお話を伺いました。

大学時代に印象に残った英語の先生

――日本語教師になったきっかけを教えてください。

直接のきっかけではないんですけど、大学生の頃、英語を学んでいて、語学留学もしたのですが、その時のネイティブの先生がとても楽しそうに見えたということがあります。高校時代の英語学習とは全く違って、私たちが話せるようにという目標をもって教えてくださる姿がとても印象に残っていました。でも、それがすぐに日本語教師という仕事に結びついたわけではありませんでした。

大学を卒業後、企業に就職しましたが、結婚を機に寿退社しました。その頃アルバイトをしていた場所の近くに、外国人がゾロゾロと中に入っていく建物があったんですね。「ここに何があるんだろう?」と思って、覗いてみると、そこが日本語学校で、日本語教師養成講座のパンフレットも見つけました。そうしたら急に10年ぐらい前の大学での英語の先生の印象がバーッとよみがえってきて、「私もやりたいっ!」って思ったんです。夫と相談してOKをもらえたので、日本語教師養成講座に通い始めました。

――それから日本語教師に?

はい。養成講座終了後、日本語学校にたくさん履歴書を送りましたが、そのうちの一校に採用してもらいました。そこで非常勤として7年、常勤として1年、専任講師として7年教えました。
その学校は留学生だけでなく、自治体に派遣されている研修生や企業研修、EPAの候補生など幅広く日本語教育をやっていたので、そこで本当に経験を積ませていただきました。

「CHEERS」を立ち上げる

――日本語学校を辞めてフリーランスになったのはどうしてでしょうか。

日本語学校で経験値が上がって、いろいろできるようになっていたのですが、自分のやりたいことが組織の中ではやはり自由にはできないという思いがありまして。

――やりたいことというのは。

後進を育てていくこと、教師をサポートすることです。もちろん学校の中でもやってはいましたが、それがメインの仕事にはならないので。母には「あなたの年で学校を辞めて、どこが雇ってくれるの?」と心配されましたが、「もう雇われる気はないのよ」と答えました(笑)。

独立したものの、経験もなければ研究もしていないので、すぐに私の価値を認めてくださるところがあるはずもありません。それでフリーランスとなってから1年ぐらいは、日本語を教えつつ、今までお世話になった方に、挨拶かたがた自分がやりたいことのお話をさせていただき、顔を広げ、地盤を固めるために費やしました。実は日本語学校時代は、外のセミナーなどに全く参加したことがありませんでした。それだけ私のいた学校が充実していたということもあるのですが。

独立してから、たまたま「にほんごの凡人社」さんにご連絡することがあって、その流れで名古屋でこういうことをやりたいんですけれどもというと、ありがたいことにバックアップしてくださることになりました。そして学校を辞めてから1年後ぐらいに「日本語教師力1UPセミナー」を開催することができました。これは日本語教師としての力を一つだけアップさせましょうという意味が込められています。「CHEERS」という名前は個人事業主となって屋号を決めなければならず、またセミナーの主催者としての名前も必要なので、その時につけました。

名古屋で日本語教師が集まれる場を作りたい

――「CHEERS」ではどのような活動を?

もともと日本語教師をしている人たちが学び合い、楽しくこの仕事を続けられるような場を作ることが目標でした。愛知県は生活者としての外国人が多いためか、日本語ボランティアの方たち向けのセミナーや交流の場はたくさんありました。また学会へ行けば研究者間の交流はありました。しかし日本語教育機関で教える日本語教師のつながりの場が少ないと感じていたんです。それで凡人社さんが東京や大阪で行っているサロンのようなものを名古屋でもやりたいと考え実践しました。
日本語学校での非常勤時代に大学院へ行って、教育ファシリテーションを学んでいたので、セミナーでは日本語教育の「教育」の部分に軸足を置いたものにしました。

基本は2か月に1回、参加者は20名ほどですが、テーマは授業改善の仕方や発達障害のある人たちへの対応など様々です。またこんなテーマでやりたい!というオファーが来たり、第二言語習得の研究者の方が登壇してくださったりもしています。研究者と現場がつながるよい機会にもなりました。
でも、今はコロナで集まれなくなって、オンライン読書会を細々と続けている状態になってしまっているんですけれど。

――異業種交流展示会にも出展されたとか。

はい。2018年に仲間とともに「メッセナゴヤ」という商工会議所が主催の展示会で小さなブースを借りました。愛知県にも実習生が増えてきて、どうやって対応したらいいのかわからない企業もあるようでしたし、「やさしい日本語」の考え方で企業と外国人をつなげる方法を紹介しました。また企業側の情報を得たいということもありました。私から発信しても、どうしても日本語教育機関関係者にしか届いていきませんが、声を届けたいのは実習生などを雇っている会社の方々でしたので、経済界にアピールしたいという思いがありました。

コロナ前より仕事は忙しく

――現在の活動はいかがでしょうか。

個人としては大学の日本語教師養成課程で日本語教育概論や教育実習を担当しています。留学生の日本語も教えています。また民間の日本語教師養成講座やビジネスパーソンのレッスンも。それから、中学の夜間学級で日本語に特化したクラスにも携わっています。
そう考えるとコロナの影響はないですね。むしろ忙しくなったかも。授業は機関によって対面もオンラインもあります。

ただ2020年の2月、3月はこれからどうしようと頭を抱えていました。オンラインレッスンの経験はありましたが、クラスの授業としての仕掛けをきっちり作っていくのはまた別問題です。対面でできていたマックスの状態にオンラインでどこまでリーチできるのか、本当に考えたし、苦労しました。フリーランスですから誰も助けてくれませんし、うまくできなければ一番先に切られてしまうという危機感もあります。まさに死活問題でした。ですから、あの当時はセミナーに出たり、いろいろな方の意見を聞いたり必死でした。もう年だから無理と思ったら、静かに幕を引くしかありませんから。
私の一番の評価者は学習者ですが、学習者に「学びにくるだけの価値があるよ」と思ってもらえるような授業を常にやっておかないと、と思っています。

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日本語教師としての自分のカラーを持って

――これからやっていきたいことは、どんなことでしょう。

実は、学校を辞めた時に考えた、「後進を育てること」と「日本語教師がつながる場を作ること」という活動が、現在ほぼできなくなっています。それが今、本当に悩んでいることなんです。
どういったバランスでやっていくのがいいのか、それが私にとっての課題です。とにかく私の思いは、いろんな方が、日本語教師として自分のカラーを持ってやっていけること、そしてそれに寄与していくことです。

今、大学の日本語教育課程で教えている4年生のほとんどは、仕事として日本語教師を選ばないんです。その理由はやはり収入の面です。経済的に自立ができないので親に説明できないというところが大きい。そして親を説得できるだけの言葉を彼らは持っていません。でも誰の人生でもなく、自分の人生ですからね。自分の人生を20代のうちから切り開いていけるような若い先生たちを増やしたいというのも、これからやりたいことの一つですね。私はキャリアコンサルタントの資格も持っているので、キャリア形成という面でもサポートができればという思いもあります。

――これから日本語教師になる方へのアドバイスはありますか。

うーん、いろいろ言いたいことがあって、なかなかまとまらないんですけど…。
そうですね、フリーランスになってから思ったことですが、人とのつながり、ご縁を大事にしてほしいということですかね。そこに思わぬものがあったり、日本語教育のネタも落ちていたり、仕事もつながっていって、自分自身の成長にもなります。
人との関係の中に自分がいると認識すると、彩り豊かな人生になっていくんじゃないでしょうか。

取材を終えて

江崎さんのお話を伺って感じたのは、フリーランスとしての覚悟です。フリーランスは組織に属していない分、自分のやりたいことはできるのですが、責任を負うのも自分、頼るのも自分です。だからこそ人とのつながりを大事にし、一つ一つの仕事を大切にするという江崎さんの言葉が響きました。これからフリーランスになることを考えている方にも読んでいただきたいと思いました。

取材・執筆:仲山淳子

流通業界で働いた後、日本語教師となって約30年。5年前よりフリーランス教師として活動。

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