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日本語教師の国家資格化の議論の整理4――教育実習と筆記試験

多くの日本語教師にとって関心の高いトピックと思われる「日本語教師の国家資格化の動き」について、2021年6月現在の状況をまとめておきます。なお、今後の法制化の動きの中でいろいろな変更が生じる可能性もあります。最新の状況は随時、こちらの日本語ジャーナルでご紹介していきます。

日本語教師の資格取得要件 ①教育実習

公認日本語教師になるには、原則として日本語教育能力を判定する試験の合格と、教育実習を履修・修了することが求められる、とされています。この教育実習について、6月29日に行われた日本語教師の資格に関する調査研究協力者会議に提出された資料から、具体的な姿が見えてきました。

資料ではまず、教育実習を「日本語学習者等に対して、実際に日本語の指導や授業分析評価実施することを通じて、公認日本語教師として必要な技能・態度に含まれる実践力を習得するために行う教育活動を指す」と定義しています。

教育実習の内容は、原則として対面で、以下の6つの内容を学習するとしています。

(1)オリエンテーション
(2)授業見学
(3)授業準備
(4)模擬授業
(5)教壇実習
(6)教育実習全体の振り返り

実施に当たっては、専任の教育実習担当教員を1名以上配置することとしています。

また、教壇実習の実施に際しては実習施設を使用するとしていますが、実習施設として、学校教育法第1条に定める学校、法務省告示の日本語教育機関、自治体が設置する地域日本語教育機関や就労者に対する日本語教育を提供する日本語教育機関などが例示されています。

教壇実習は、原則として5名以上の日本語学習者に対するクラス授業で、実習生一人につき1単位時間以上の指導を2コマ以上実施するとしています。また、実習指導者の数は、実習生20人に対して一人以上としています。

以上、かなり具体的に記載されていますが、内容は20人定員のクラスで、日本人相手の模擬授業と、5人のモデル外国人学生に一人2回の教壇実習を経験するという、ごくごく一般的な教育実習の内容や時間数のように思われますし、これまでも多くの日本語教師は教師になる際に、これに近い形での教育実習を経験してきたのではないかと思われます。これから日本語教師になる人がこういった教育実習を履修・修了することはとても大切ですが、もしこういった一般的な教育実習であれば、有資格者の現職日本語教師は日々の授業の中で実践していることでもあるように思います。

ひとつだけ気になるのは、対面のクラス授業を原則としている点です。現在また将来的にオンライン授業の必要性の高まりが予想される中で、対面の模擬授業は確かに大切ではありますが、それだけで果たして十分なのかどうかについては。まだまだ検討する余地があるようにも思われました。

日本語教師の資格取得要件 ②筆記試験

もう一つの要件である日本語教育能力を判定する試験の合格についてはどうでしょうか。

日本語教育能力を判定する試験の構成は二つに分けることになっており、筆記試験①は日本語教育の実践につながる基礎的な知識を測定する試験、筆記試験②は現場対応能力につながる基礎的な問題解決能力を測定する試験としています。その詳しい内容を見てみると、現在行われている日本語教育能力検定試験との類似性が見て取れるように思います。以下に「試験の測定内容」を比較してみます。

【(現行の)日本語教育能力検定試験】
・試験Ⅰ:原則として、出題範囲区分ごとの設問により、日本語教育の実践につながる基礎的な知識を測定する。

・試験Ⅱ:試験Ⅰで求められる「基礎的な知識」および試験Ⅲで求められる「基礎的な問題解決能力」について、音声を媒体とした出題形式で測定する。

・試験Ⅲ: 原則として出題範囲区分横断的な設問により、熟練した日本語教員の有する現場対応能力につながる基礎的な問題解決能力を測定する。

【(検討中の)日本語教育能力を判定する試験】
・筆記試験①:原則として、出題範囲区分ごとの設問により、日本語教育の実践につながる基礎的な知識を測定する。

・筆記試験②:出題範囲複数の区分にまたがる横断的な設問により、熟練した日本語教員の有する現場対応能力につながる基礎的な問題解決能力を測定する。また、基礎的な知識・技能及び基礎的な問題解決能力について、音声を媒体とした出題形式で測定する。

いかがでしょうか。日本語教育能力検定試験の試験Ⅰが日本語教育能力を判定する試験の筆記試験①に、日本語教育能力検定試験の試験ⅡとⅢが、日本語教育能力を判定する試験の筆記試験②に対応しているように見て取れます。

しかしながら、日本語教育能力を判定する試験は、「日本語教育人材の養成・研修の在り方について(報告)改定版」(平成31 年3月4日文化審議会国語分科会)において示された、日本語教師の養成において必ず実施すべき内容として示された「必須の教育内容」の50 項目に基づき出題する、としています。これは、現在の日本語教育能力検定試験の出題範囲とは完全には一致していません。「必須の教育内容」と「現在の日本語教育能力検定試験の出題範囲」の対応表は、以下の記事を参照してください。

https://nj.alc-nihongo.jp/entry/20210401-kentei-youkou

文化庁届出受理機関の文科省指定日本語教師養成機関への移行

もう一つ会議で明らかになったことがあります。それは、現行の文化庁届出受理機関の取扱いについてです。

今後審査を経て文部科学大臣の指定日本語教師養成機関となるには、現行の文化庁届出受理機関と同様の審査項目に加えて、「日本語教育人材の養成・研修の在り方について(報告)改定版」(平成31 年3月4日文化審議会国語分科会)において示された「日本語教師【養成】における教育内容」に掲げられた必須の教育内容を全て含むものであることから、新たに必要となる項目の例が資料に挙げられています。

換言すれば、現行の文化庁届出受理機関は、書面を提出して追加審査を受けて認められれば、引き続き文科省指定日本語教師養成機関にもなれるということになります。

「日本語教師の資格に関する調査研究協力者会議」を傍聴しよう!

「日本語教師の資格に関する調査研究協力者会議」はオンライン会議で行われており、事前に申し込めば誰でも傍聴できます。2021年は1月から毎月会議が開催されており、7月は2回の会議があり、それで一旦終了となるようです。開催予定は文化庁のホームページを注視してください。残り少ない大事な議論をぜひ多くの方に傍聴していただければと思います。

「日本語教師の資格に関する調査研究協力者会議」の過去の配布資料議事録は、以下をご確認ください。

https://www.bunka.go.jp/seisaku/bunkashingikai/kondankaito/nihongo_kyoin/92369001.html

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