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日本語教師プロファイル嶋田和子さん―主体性と創造性が活かせるこんな楽しい仕事はありません!

2024年最初の「日本語教師プロファイル」インタビューでは、東京都中野区にあるアクラス日本語教育研究所にお邪魔して、代表理事の嶋田和子先生にお話を伺ってきました。日本語教育界にとって一つの変革の年である今年、嶋田先生はどのようなお考えをお持ちか、是非お聞きしたいと思いました。インタビューは嶋田先生の思いとパッションの溢れるものとなりました。

法制化のために15年以上前から活動

――2024年は「日本語教育の適正かつ確実な実施を図るための日本語教育機関の認定等に関する法律」(以下「認定法」)の運用と登録日本語教員の制度が始まります。これらの法制化についてどのように感じていらっしゃいますでしょうか。

えーと、どこからお話ししようかしら。やっとここまで来たというのが実感なんですけど。私の話をするとね、40年ほど日本語教育の世界で仕事をやっていますが、30数年前に日本語学校の教務主任になった時からずっと社会とつながる日本語学校というのを大切にしてきました。それが日本語学校の存在意義だと思ったから。日本語教育振興協会(以下「日振協」)でもいろいろなプロジェクトに参加していました。

転機となったのは1999年に日本語教育学会の評議員を頼まれたことです。その時から今まで日本語教育学会ではなにかしらやっていますが、2008年に歳費削減、行政改革の大きなうねりの中、国立国語研究所の廃止・移管案が国会に提出されました。これは大変だということで私たちはワーキンググループを作って、日本語教育研究部門が廃止されないよう請願書を出したり署名活動をしたりしました。結局、日本語教育研究部門がなくなるという危機は回避できたんですが、日本語教育政策について国の基本方針や裏付けとなる法律がないことがこうした問題の根源にあること、日本語教育を包括的に振興する法律の整備を目指すことが必要だということになりました。その時の活動を広く知ってもらおうと2010年に出したのが『日本語教育でつくる社会』(ココ出版)です。学会の公式見解と思われてはいけないので、名前は「日本語教育政策マスタープラン研究会」となっていますが、ワーキンググループが作ったものです。

この本の中で既に法制化の骨子まで出しています。これを政治家やさまざまな方々にお渡しするなど地道な努力を続けていました。2016年11月に超党派の「日本語教育推進議員連盟」ができたことで大きく前に進みましたが、私たちは水面下でずっと動いていたんです。この流れの中で生まれたのが「日本語教育の推進に関する法律」(以下「推進法」)です。

私たちが作っていくという思いが大切

「推進法」はね、プログラム法、つまり骨なんです。ここから肉付けしていくものです。そこからいろんなロードマップもできました。そしてここには責務についても書かれています。国の責務、地方公共団体の責務、事業主の責務。法律が出来たおかげで、ボランティア研修、教師研修などさまざまな研修も始まり、行政も日本語教育について真剣に取り組み始めました。

その法律の具体化の一つが「認定法」なんですね。なぜ「認定法」になったかというと、「推進法」の附則に日本語教育機関について書かれていますね。1.類型、2.責務、3.評価制度、4.支援についてです。これらの整備をしろと。でも「推進法」は理念法でふわっとしているからよかったんだけど、「認定法」になると自分の利害に関係があるからいろんな意見が出てきました。待遇改善はどうなんだ、社会的認知はどうなんだ。とか。それは法律ができたから、これからやっていくんです。

皆さん、ちょっとミクロな視点になってしまって、マクロで見ていないんじゃないかと感じています。

先日、山口県立大学の先生に依頼されて、「言語政策から見た日本語教育の現状と課題」についてお話してきました。対象者は日本語教育については学んだことのない大学2年生です。その学生たちが講義を聞いてびっしりと学びの記録を送ってくれました。「日本語教育は対外的な政策と切り離せないものだということが印象に残った」とコメントをしてくれた学生もいます。この山口県立大学は既に地域の学校と組んで年少者の日本語教育などを行っていますが、このような動きが出てきたのも法律ができたからだと思っています。これは、やっぱり法制化のインパクトだと思います。

こんなチャンスは100年に1回だと思うんですよ。だから「登録日本語教員になったからと言って、私たちの待遇が改善されるのか?」ではなく、それをするのは次の段階、私たちが教育機関や教師の質を向上させて、いいものをやって行けばいいと思うんです。日本語教育で作る社会、その見取り図を私たちが作っていくという思いが大切なんじゃないでしょうか。

今ふと考えたんだけど『日本語教育でつくる社会』を出したのが2010年、日本語教育議連ができたという記事を書いたのが2017年、そして今年が2024年。7年ごとに進んでいるんです。私、これからもまだまだやりますから7年後の2031年には何て言ってるかしらね。

確実に変化は起きている

――「日本語教育の参照枠」についてはどうお考えでしょうか。

そうですね。今出ているものだけを見ると、ちょっと分かりにくいと思うかもしれませんが、文化庁はちゃんと次のことをやっています。今、日本語教育学会が生活Can-doの開発を受けていますし、留学も就労もそれぞれ進んでいます。そして「参照枠」はあくまでもフレームワークであってスタンダードではありません。そこを間違えないでほしいです。

大切なのは「1.日本語学習者を社会的な存在として捉える」「2.言語を使って「できること」に注目する」「3.多様な日本語使用を尊重する」という日本語教育観の3つの柱です。でも、それはずっと以前からやってきたことなんです。多様な日本語使用を尊重したいから『できる日本語』(アルク)にはモデル会話がないんです。出版社さんには悪いんだけど、私は『できる日本語』が売れるかどうかよりも「できる」の考え方が広がってほしいの。でもね、確実に変わってきていると思いますよ。いろいろなところにお話に行くとそう感じます。

時々、新しい教科書にしたら、新しい先生はどうなるんだろう、テストを作らなきゃいけない、プリントを作らなきゃいけないって不安になる方がいますが、大丈夫です。教材は揃っていますから。

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とにかく2019年に推進法ができ、2021年に参照枠ができました。それが徐々に浸透しつつある。そして今、認定法ができました。それによって教育の質の向上が図れます。参照枠は決して画一的ではなく、それぞれの学校や教師の個性を守りながら、先に言った3つの方向性に向かえばいいんです。

日本語教師ができることはたくさんある

――これからの時代の日本語教師の役割についてはどうお考えですか。

日本語教育って本当に幅が広いのと、他分野、他領域との関係性が強い。やることってすごくいろいろあるし、働く場もいろいろある。その時に“教える”ではなく、“学び合う”。これだけは守ってほしい。日本語教育は広い意味でコミュニケーションそのものであるとされています。“教師と学習者が固定的な関係ではなく相互に学び、教え合う実際的なコミュニケーション活動の場である”と。それを実践していただければと思います。これが、参照枠で言っていることです。

例えば、新たに入国した外国人材への対応に関して、日本語教師には多くの知見があります。また、共生社会には日本人の意識改革が大事だと思うんですが、これに関しても日本語教師としてできること、やるべきことはいろいろありますね。例えば「やさしい日本語」、私は「わかりやすい日本語」と言ったほうが適切な気がしていますが――こうした日本人のコミュニケーション力を見直すことも、日本語教師ができることの一つです。多言語化、やさしい日本語、日本語教育、外国人日本語使用者への母文化、母語(継承語)への配慮も、日本語教師として忘れてはならないことですね。多文化主義ってよく言うけど多文化は国とか地域、集団の文化ですよね。そうではなくて複文化主義にも目を向けるべきです。一人の人間の中にいろんな文化があって、まじりあっている。その複文化を大事にしてこれからの日本社会を作ろうというのが大事だと思っています。

外国の方々が日本で生き生きと暮らすためにはマジョリティである日本人が変わるべきだなと思いますし、変わるために日本語教師ができることはたくさんあるんじゃないでしょうか。

発信・対話・協働

――法律もでき、日本語教育の世界で起こっている変化を、一般の人、いわゆる外の人にも伝えていくべきだと思うのですが、それについてはいかがでしょうか。

私もそれがとても大事だと思っています。実は2006年にインターネット新聞JANJANというのがありまして、ここのスタッフが飛び込みで日本語学校のことをコラムで書きませんかと言ってきたんです。その頃、副校長をしていて忙しかったんだけど、「先生が好きな時に書いてくれればいい」ということだったので、だったらやろうと。それで1か月に8本書いた時もありました。それが2010年に休刊になったんです。今まで書いたものが消えてしまうので、じゃあと思って、やったこともなかったけれどホームページを立ち上げました。それが「日本語教育みんなの広場」です。(※現在、アクラスのホームページに統一され更新はされていませんが、記事は読むことができます)

当時、ある新聞で日本語学校が「悪の巣窟」みたいに書かれていて、私は「日本語学校を“適切に”知ってほしい」という思いがあったので、記事を書き続けました。歩きながら考えて新幹線に乗って書き始め、目的地に着いたらアップするなんてこともありましたよ。これらの記事は『ワイワイガヤガヤ教師の目、留学生の声』(教育評論社)という本になりました。思いがあれば時間は作れるんです。

どんなにいいことをしていても発信しなかったら分かってもらえません。でも発信だけではだめで、対話も必要。私はいつも「発信・対話・協働」が大事って言っています。これをモットーに足腰が立つうちはやりたい。あ、足腰が立たなくても発信はできるわね(笑い)

それからアクラスのことを言うと、2011年に東日本大震災があり、日本語学校は大変でした。いろいろあって日本語学校を辞めたんですけど、次の仕事は何も決めていなかった。辞めると決めてすぐにやったことは、みんなの場を作ろう、私が所属する組織を作ろうということでした。それでアクラスを立ち上げました。ここではビジネスはしない。出会いと対話の場を作るということを決めました。気がついたら、今では会員が1300名います。研修の感想を書いてもらってホームページに載せていますが、それを世界中で読んでいただいて、いろいろな国・地域からメールが来たりします。日本語教育って新しい分野だから自分でどんどん歩いて行ったら、いろいろな道が拓けていくと思います。

2022年に文化庁長官表彰をいただいたのですが、その理由の一つに「情報発信」という文言がありました。やっていることが分かっていただけたのは、嬉しかったですね。情報を出し惜しみする方がいますが、情報って発信したら、ますます情報が集まるんです。それから共有も大事。たとえば教案、教材なんかも共有したらいいんじゃないですか。昔は他の学校と共有というのはなかなか難しかったのですが、1997年に日振協ができて「箱根会議」なんかをやってどんどん繋がっていったんです。また日本語学校は地域を巻き込んで発信することが大切だと思います。

4つの目を持って

――現職日本語教師の方々へ何かアドバイスをいただきたいのですが。

そうですね。登録日本語教員になるのに講習を受けなければならないのかとか、試験を受けるのは…という意見があることも知っています。私は日本語教育能力検定試験の実施委員をやっていた時、10年ごとにメンテナンスとして受けるという制度も考えられるのではないかという意見を出したことがあります。合否は問題ではなく、受けることに意味があるということで……。それには、もちろん機関からの補助も必要ですね。でもそれぐらいメンテナンスは必要だと思うんです。例えば私が検定試験を受けた1987年には多文化共生も入管制度も子どもの日本語教育についてもありませんでした。私はそれらをずっと勉強してきました。同じように勉強して来たなら何も問題ないから試験を受ければいいと思いますし、知らないなら勉強して受けるべきです。そういう発想になってほしいです。学び続ける教師なら講習が受けられてハッピーじゃない?自分のものになるわけですから。費用的なことはちょっと問題だとは思うんですけど。

――これから日本語教師を目指す方へは

日本語教師の仕事は本当にクリエイティブ。主体的、創造的な仕事だということを伝えたいです。いろんな人との出会いが私の人生を豊かにしてくれました。私なんて一介の専業主婦だったんですよ。しかも養成講座を受けたのは36時間だけ。だからナンバーワンではなくオンリーワンを目指そうと思いました。私だけの色を出そうといろいろ工夫してきました。

いろんな文化に触れて自分が成長し続けられる。今、77歳ですが、絶対まだ成長できるって思ってるんだけど(笑い)。喜寿を超えてもまだ成長できると思える仕事ってそんなにないんじゃない?なんか面白くてしょうがない。もちろん大変なこともあるけど、人生どんな仕事をやっても大変なことはあるから、それをどう捉えるかですね。

お話をするとき、よく「4つの目」を持ってくださいって言うんです。俯瞰的に見る「鳥の目」、部分を把握する「虫の目」、それから3つ目は「魚の目」。魚は潮の流れを見て泳いでいるから、まさに今、この時代に必要とされている時代の流れを見る力ということ。4つ目はなんだと思いますか?

「コウモリの目」です。コウモリは逆さにぶら下がっているから逆転の発想ってこと。当たり前のものを当たり前に見ないで、何故?と問う姿勢ですね。それが大切だということです。

――今日は貴重なお話ありがとうございました。

アクラス日本語研究所のホームページ

取材を終えて

嶋田先生にお話を伺いに行ったのは、法制化や登録日本語教員、日本語教員試験などについて、日本語教師の中にもいろいろな考えがあり、分断が起きそうになっているのではないかという思いがあったからです。でも嶋田先生は「私、ポジティブだから嫌なことや大変なことがあっても一晩寝れば忘れちゃうの。若い頃は、ワイン一本飲んで忘れてたけど」と。インタビューを終えて「ポジティブは伝染する」と思いました。新しいことが始まる時、多少ぎくしゃくすることがあっても、自分たちも変革に関わっているという気持ちを忘れずにいれば良い方向に向かっていける、そんな気分になったインタビューでした。

取材・執筆:仲山淳子

流通業界で働いた後、日本語教師となって約30年。7年前よりフリーランス教師として活動。

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