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日本語教師プロファイル朝戸サルヴァドール千鶴さん―関わった人の笑顔のために

今回ご紹介するのはフィリピン在住の朝戸サルヴァドール千鶴さんです。朝戸さんは現在、「外国人看護師のための国家試験勉強会」を主催されています。また6月に出版された『日本語能力試験(JLPT)対策 介護のN3 』(ココ出版)の作成にも協力されたそうです。元々、看護の世界にいた朝戸さんが、どのような経緯で日本語を教えるに至ったのか、ZOOMでフィリピンと日本を結びお話を伺いました。

フィリピンで看護師をするつもりが…

―朝戸さんが日本語教師になったきっかけについて教えてください。

実は、日本語を教えることになるまでには長い経緯があるのですが、よろしいでしょうか。

私は大学で4年間看護を学び、看護師として働いていました。卒業旅行で行ったフィリピンのボラカイ島がとても気に入り、就職後も休暇で訪れた時、夫と出会ったんです。それで結婚してフィリピンに住むことになったのですが、フィリピンでも看護師として働くつもりでした。

しかし、調べてみると日本の看護師免許ではフィリピンでは看護師として働けないことが分かったんです。ショックでした。それが初めから分かっていたら、結婚しなかったかもしれません。大学で先生に「看護はユニバーサルなものだから」と言われ、信じていたのですが、法律はユニバーサルじゃなかったんですよね。

その後、出産や子育てがあって、一旦は諦めていましたが、EPA*1についてニュースで目にするようになり、フィリピン、日本、看護という三つのキーワードから私にも何かできるはずだと思いました。看護の知識に関しては現場を離れて数年たっていましたから、ネットで日本の通信教育会社がやっているオーストラリアの大学の看護学コースを見つけ、修士課程で学ぶことにしました。日本にはまだ通信でフィリピンから受講できるような看護学の修士課程がなかったんです。将来的にはEPAの看護師候補生の支援やコーディネートができたらと思っていました。私はそのコースを日本語で取っていたのですが、スクーリングでオーストラリアに行った時、たまたま大学の後輩が現地で勉強していて、非常にかっこよく見えました。それで、日本語コースから英語で受けるコースに転籍したいと思い、休学して英語の勉強を始めました。ようやく受講できる英語レベルになって転籍したのですが、レポートなどがあまりにも大変で結局、日本語コースに戻って卒業資格を得ました。でも修士号を履歴書に書くことと、英語をある程度使えるようにするという目標は達成できたので良かったです。

――自分の母語ではない言語で看護学を勉強することはどうでしたか。

本当に、泣くこともできないぐらい辛かったです。でもそれまで日本語で書かれた文献しか読めなかったのが、英語で書かれたものも読めるようになり、世界にはこういうことを考えている人がいるんだと知ることができたのは印象的でした。

NPO法人を立ち上げ、日本語教師に

――修士号取得後はどうされたんですか。

偶然、知り合った方からEPA関連の仕事を紹介していただき、関わるようになりました。また実際に日本へ行った人や、これから候補生として日本へ行く人と接することもできました。ただEPA看護師候補生としての研修期間中に看護師国家試験に合格できずに帰国する人も多かったのです。出発前は「がんばります。日本の方のお役に立ちたいです!」と言って向かったのにこんなに帰ってきちゃうんだ。決してみんながやる気がないというわけじゃないのに。何かサポートしたら合格できるんじゃないかと思いました。

当時は今のようにビデオ会議システムもなかったのでeメールで問題を出して、添削をして、というスタイルでした。ただ、なかなか続かない。その理由は?というと勉強を続けても受験のために日本へ渡航する費用が出せないことでした。それでクラウドファンディングを実施して渡航費を集め、3人の受験者が日本へ渡航して受験をできるように支援をし、このうち1人が合格しました。ただ、この頃受験対策は別の機関にお任せしていました。

活動をするうち、これは個人で行うのではなく法人格を持って取り込んだ方が社会的信用も上がると思いNPO法人ASATO SALVADOR CULTURAL HARMONIZATION CENTER, INC.を立ち上げました。フィリピンの健康医療関連の職を持つ人たちが日本で資格を取得するサポートをするためです。そしてフィリピンのTESDA(フィリピン労働雇用技術教育技能教育庁)の認可を受けようとしたとき、日本語教育機関として登録するのがよいが、それには認定資格を持った指導員が必要と言われ、自分自身が日本語教師になることを決意したんです。それで、まずアルクのNAFL日本語教師養成プログラムの受講を始めました。教材が届くと、新しい知識ばかりで「私が日本人で日本語を話すことと、外国人に日本語を教えることは全く別なんだ。日本語が母語というだけでは教えることはできないんだ」とようやく気付きました。2016年に日本語教育能力検定試験にも合格しました。

日本語を教える仕事としては、観光関係のスタッフに教える仕事ことなどもしましたが、離島に住んでいるため、学習者を集めるのがなかなか難しかったです。最近ようやくオンラインレッスンで収入が得られるようになってきました。その間、Facebookで情報収集をしたり、勉強会に参加したり、インストラクショナル・デザインのセミナーに出たりして勉強を続けてきました。

現在は「外国人看護師のための国家試験勉強会」「地元の大学生が日本で実習を行うプログラムのサポート」「地元の小学生を対象としたITリテラシーを高める活動」を活動の柱にしています。

無料で勉強会を実施する理由は

――勉強会を実施しているNihongo Salon ASAというのは?

ああ、これは法人の名前が長いので、こちらの方が呼びやすいと思って使っています。ASATO SALVADORを短くしたものでもありますが、フィリピン語で「ASA」は希望という意味があるので。

――「外国人看護師のための国家試験勉強会」は無料と伺いました。

はい、これはこだわっているところです。彼女たちがなぜ日本に行くかというと家族のためなんです。子どもを学校に行かせたいとか、両親に病気の治療を受けてほしい、とかそんな気持ちからです。そのためのお金を本人たちから受け取りたくないという気持ちが強かったのです。それで2017年までは通訳などをして捻出した費用で受験者を日本に送っていました。

でも、世の中には神様みたいな人がいるんです。私がNHKの取材を受けたことがあったのですが、それを見てくださったある篤志家の方が費用のことは心配しないで、応援しますと言ってくださいました。それで2018年はマニラで合宿研修をしたのち、試験1週間前から日本に滞在して受験に臨むというプログラムを行うことができました。2019年、2020年と続けましたが、2021年はコロナ禍の入国制限で日本に行くことができませんでした。

もう一つのこだわりは合格後、就職の相談には乗るけれど斡旋はしないということです。病院の関係者で「ウチで働いてくれるなら費用を出します」と言ってくださる方もいるのですが、それはフィリピンの法律に触れてしまうことや、何より、本人たちに自分で働く場を責任をもって見極めて欲しいという思いからです。

オンラインの勉強会にはフィリピン以外の国からも参加

――現在はオンラインで勉強会を実施されていると伺いましたが。

2020年にパンデミックが広がってから、勉強会のほとんどをオンラインに切り替えました。そのとき知人からオンラインならフィリピン人に限定する必要はないんじゃない?と言われたんです。それで勉強会の名称を「外国人看護師のための国家試験勉強会」とし、国を限定せずにアナウンスしました。すると他のEPA国であるインドネシアやベトナムから、それ以外の中国やネパールからも反響がありました。また既に日本にいる現役EPA候補生の外国人看護師も参加できるようになったんです。

――具体的にはどのような勉強をするのでしょうか。

そうですね。週2回の勉強会では15年分ぐらいの過去問を使い練習問題を出しています。解説文は参考書やネット上の情報を「平易な日本語」に直しています。また、穴埋め問題を暗記用アプリのQuizlet(R)を利用してフラッシュカード化したものも作って、勉強会以外の時間に勉強できるものも提供しています。

看護師国家試験では、必ず状況設定問題があります。例えば、こういう患者さんで、こういう病気の場合どうしたらいいかというタイプの問題です。勉強会ではそこを取り上げて徹底的にやっています。日本でいいナースになるためには、語彙とか正しい文法も大切ですが、「病気」「治療方法」として捉えるのではなく、相手を「全人的 Holisrtic」に捉えて、その方の考え、感じていることを感じ取る力や、状況を読む力が必要だと考えているからです。

ASAの収益で回していくのが理想

――これからやっていきたいことがあれば教えてください。

篤志家の方の援助で勉強会の開催や受験のための渡航費の支援をしてきましたが、あまりにおんぶにだっこも申し訳ないので、クラウドファンディングの実施と月額のサポーター制度を作りました。今後SDGsとして運営ができることを念頭に、将来的には、ASAの収益でこの活動も回していけるようにしたいです。

また、やりたいこととして、EPAで国家試験に合格できずに帰国して、再受験を目指す人が、介護の仕事で日本に行きたい人へのアドバイザーのように活躍できる仕組みを作りたいと思っています。日本語教師になるのではなく、日本語教師のアシスタント的な仕事をして、お給料ももらえるし、日本語も忘れない、自分たちの再受験の準備もできるというのが理想です。

――今回出版された『日本語能力試験(JLPT)対策 介護のN3 』についてはどういった経緯で?

介護に関しては、私が意識していないうちに大きなマーケットになっていました。しかし看護の仕事をやっていたからこそ、どこの部分が看護から介護になったとか、どの部分は今まで看護でもやっていなかったから別分野の専門家が必要だなどが分かることもあるんですね。それで少しずつ情報収集をしていたのですが、日本語フロンティアの西隈先生がお手伝いを募集されていると知って、協力させていただくことになりました。

――これから日本語を教えようと思っている人に一言お願いします。

私は、自分が日本語教育を何に使いたいか、私が日本語を教えることで誰を笑顔にできるかが、当初からとてもはっきりしていました。看護もそうなのですが、日本語を教えることも、正直好きでないと続けることができない仕事だと思います。関わった人の笑顔が見られたら、この仕事を好きでいることができて、続けることができるのではないでしょうか。誰の笑顔が見たいか、そのために自分は何ができるかを、時に立ち止まって考えてみたらいいのかなと思います。

取材を終えて

日本語教師の活躍の場所は日本語教育機関だけじゃない!ということを常々感じていましたが、今回、朝戸さんへのインタビューを通しても強く思いました。自分の経歴を活かした様々なサポートの仕方があります。また朝戸さんに、そこまでして外国人看護師をサポートする理由は何ですか?と聞くと、「悔しかったから」と。外国籍であるという理由だけで看護師の仕事ができなかった自分のような人を作りたくない。誰かが背中を押せばできることなら、自分が背中を押したいとおっしゃっていました。

取材・執筆:仲山淳子

流通業界で働いた後、日本語教師となって約30年。6年前よりフリーランス教師として活動。

*1:経済連携協定に基づいてフィリピン、インドネシア、ベトナムの外国人候補者が看護師・介護士国家資格を取得することを目的として、協定で認められる滞在の間(看護3年間・介護4年間)に就労・研修する。

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