2022年10月7日、福岡県直方市が、2年間の制度設計を経て企業出資に基づいた教室を2クラス、開講しました。授業を行うのは日本語教師です。週1回90分の授業で、目標は生活に必要な日本語の学習を軸として3年間でN3程度のコミュニケ―ション能力を育成することです。(NPO多文化共生プロジェクト / 深江新太郎)
教室運営を可能にした、協議会の設置
福岡県直方市は、福岡県の中央部に位置し、人口が約55,000人、在留外国人数は約570人です(2021年12月末時点)。国籍はベトナムが最も多く、在留資格は技能実習が最も多いです。その直方市が、企業出資に基づいた日本語教室の運営を可能にできたのは、直方市・技能実習生等外国人支援協議会(以下、直方市協議会)の設置によります。直方市協議会の詳細は、下記よりご覧いただけます。
■直方市協議会HP https://www.city.nogata.fukuoka.jp/sangyo/_1229/_11634.html
直方市協議会の設置の背景は、次です(直方市協議会HPより,以下同)。
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我が国では、外国人技能実習生をはじめとした外国人居住者人口が増加する中、来日する外国人技能実習生の地域定着、及び地域住民との共生にあたり、社会課題が浮き彫りとなってきており、地域一体となった支援の仕組みづくりが急務となっているところです。そこで、この度、直方市域におけるこのような諸課題に対応していくため、「直方市技能実習生等外国人支援協議会」を設立しました。
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また、直方市協議会の目的は、次です。
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直方市内に事業所等を置く企業等に勤務し、日本語を母語としない技能実習生、特定技能在留資格者等(以下「技能実習生等」という。)の地域居住支援に関する活動を行うこと。
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このような背景、目的のもと、企業出資に基づいた教室も運営されることとなります。
企業との打ち合わせを通し設定した、教室のプログラム
10月7日に開講した教室は、地域居住支援の一環として行われ、直方市協議会の会員である企業が雇用する技能実習生を参加させることができるものです。授業は、毎週金曜日19時30分~21時に行われます。授業を行う者は、日本語教師です。この取り組みは、福岡県の日本語教育環境整備事業(文化庁補助事業)であり、私(深江)は、福岡県のアドバイザー、コーディネーターとして全般に携わっています。
プログラム作成においては、まず目標を直方市協議会の設立に中心的に携わった企業数社との打ち合わせを通して決めました。企業からの共通のリクエストとして、基本的なコミュニケーション能力を伸ばすこと、N3程度の日本語能力をつけること、が出ました。地域の教室という特性を軸に企業からのリクエストを反映した結果、生活に必要な日本語の学習を軸として3年間でN3程度のコミュニケ―ション能力を育成するという目標ができました。
次に、この目標に基づき3年間のプログラムを考えるために、1年を6か月ごとに分け、計6タームつくりました。そして、それぞれのタームごとに、学習内容をつくった結果が表1です。
10月7日に開講した教室は、1年目の最初の6か月のクラスです。教材は、それぞれの生活に必要な日本語を学び、地域になじんでいく日本語が学べるという観点から、『生活者としての外国人向け 私らしく暮らすための日本語ワークブック』が採用されました。
日本語教師の新たな活躍の場
授業を行う日本語教師には、謝金と交通費が支給されます。これまで、地域の日本語教室と言えば、無償というのが通念のようになっていましたが、直方市の取り組みでは、資格を持って授業を行う日本語教師に相応の報酬を与えることが軸となっています。各企業が教室運営のために出資した資金がその元手です。また、教材は学習者個人が購入します。1ターム(6か月)につき1冊の教材を使用します。教材1冊を3,000円と考えた場合、学習者は1か月500円を支払う形です。このように、日本語教師に対価を支払い、教材をきちんと整えた運営体制をつくることは、質の高い教育と持続可能な教室を実現するために必要不可欠と言えます。
現在、地域日本語教育は地方公共団体による体制整備という点から新たな段階に入っています。直方市では、日本語教師が授業を行う教室と並行して、地域住民を主体とした教室も実施されています。地域住民を主体にした教室は、住民同士の交流、つながりを基軸にしたものです。日本語教師が授業を行う教室と地域住民を主体にした教室は対立するものではなく、その役割において相補的な関係を持っています。したがって、日本語教師が地域日本語教育という新たなフィールドに立てる制度設計を行うことは、共生社会に向けた推進力を得ていくことになると考えます。
執筆/深江 新太郎(ふかえ・しんたろう)
「在住外国人が自分らしく生活できるような小さな支援を行う」をミッションとしたNPO多文化共生プロジェクト代表。ほかに福岡県と福岡市が取り組む「地域日本語教育の総合的な体制づくり推進事業」のアドバイザー、コーディネータ―。文化庁委嘱・地域日本語教育アドバイザーなど。著書に『生活者としての外国人向け 私らしく暮らすための日本語ワークブック』(アルク)がある。
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