日本語教師になると、毎時間、毎学期ごとにテストを作成してそれを採点したり、日本語能力試験対策の授業をしたり、と「テスト作成と評価」には日常的に関わることになります。しかしながら、評価法の知識をしっかりと身に付けて活用できている教師は少ないのが現状のようです。今回は評価法の基礎知識を学ぶための『日本語教育 よくわかる評価法』を上梓された伊東祐郎先生に話を聞きました。
大部分を独学で学んだ評価法
―評価法を専門にしている研究者が少ないということは以前から言われていましたが、先生自身はどういった経緯で評価を研究する道に進まれたのか、ということからお聞きしたいのですが。
日本語教師なった経緯にもなりますが、私はアメリカの大学院で英語教育学(TESOL)を学んでいて、そのときに取ったクラスに評価法が入っていたんです。そこで初めてテスティングの理論があるのを知り、とても興味を引かれました。それが評価法との出合いです。その後、たまたまティーチングアシストで日本語を教え始めたら、日本語文法の説明が、自分が学校で習った文法の説明とは違うということに驚いて日本語教育って面白いと感じました。
それから帰国して、英語教育を事業にしているソニーの子会社の英語教育部門に入社しましたが、そこで将来日本語教育も必要ということで、2年間420時間の日本語教師養成講座に通わせてもらいました。それでまた火がついてしまって。英語教育のほうで学んだテスティングの理論が日本語教育のほうにも活用できるんだということがわかったのもあって、それで日本語教育の道に入りました。ただ、420時間の講座には文法・音声・語彙などの時間はありますけど、評価法の時間はなかったんです。それもあって、その後、日本語教師になったときも評価については自信がありませんでした。それで独学で本を読んだり、大学院のときの教科書を読んだりしてそれなりに知識を付けていきました。
そうこうしているうちに、ある養成講座から評価法の時間を担当してくれと言われて、英語教育の評価法の翻訳本などからますます勉強することになりました。アルクのNAFL日本語教師養成プログラムの22巻「日本語教育評価法」を書いてくれと言われて、また改めて勉強しました。そのようにアウトプットの機会があったので、アウトプットするためにも勉強を重ねたのが血となり肉となりましたね。
評価法の知識はなぜ必要か
―独学で学んだ部分が大きいのですね。先生は評価法は、なぜ大事だとお考えですか。
評価法の初めの授業で同様のことをいつも話すのですが、テストを道具として捉えてもらうとわかりやすい。例えば体温計や計量器が狂っていたらどうですか。健康管理ができなかったり、甘すぎる料理ができたりして困ってしまいます。テストもそれと同じで、例えば聴解力を測りたいのに読解力を測っていてはいけないし、測りたいものを測れるように精度が高いテストでなければなりません。
つまり道具として「測るべき能力を正しく測れる」ようテストがきちんと機能するためには、教師に評価法の知識があり、テストを作る知識があることが大事になってきます。文法や語彙ならまだしも、スピーキングやライティングテストは主観的な評価に偏りがちで判定が難しいものです。
どういう基準でテストを作り評価をするのか、建築ならちゃんとした家を建てるにはちゃんとした設計士と設計図が必要なように、テストにも専門知識を持った設計士(日本語教師)が必要です。そうでないと、テスト結果から十分な情報が得られず、学習者にとってもテストの結果を見て「だからどうなの?」「自分はどのレベルなの?」「これからどうすればいいの?」という疑問に答えてもらえず、不利益なことになります。
『日本語教育 よくわかる評価法』からつかんでもらいたいこと
―学習者の不利益にならないためにも、本書ではどのような人にどのようなことを理解し、考えてもらいたいと思っていますか。
日本語教師や、日本語教師を目指している人に、評価の大切さ、面白さをわかってもらうと同時に体系的にテスト作りを学んでほしいです。今まで体系的にテスト作りについて解説している本はなかったと思うんです。おそらく現状、教師は、文法・語彙などの教え方を学ぶということで終わってしまって、テスト作りに迷いがあって困っているが解決できていない、という状況が多いと思います。この本を出発点として、評価の存在と必要性を感じ取ってもらい、評価に興味を持つ仲間を増やしたいですね。
日本語教師の方には、「〇〇ができるようになる」というCan-do statements(以下can-do)を入口として評価を考えてもらうといいと思います。本書もcan-doと評価についてページを多く割いてあります。例えば「アカデミックジャパニーズに対応できる日本語力を付ける」という目的があるのであれば、そのために、どのようなスピーキング力やライティング力が必要なのか。そしてその力を測るにはどんな教室内テストを実施するのかなど、can-doを意識することで設計図ができてきます。
前に、can-doで作った学習目標と実際に行ったテストの内容を照らし合わせる、ということをしたことがあったんですが、そうしたところ、ひどいテストを作っていたことがわかったということがありました。中級のアカデミックジャパニーズが使えるようになることが目的なのに、聴解のテストではデパートのアナウンスや駅のアナウンスを使ってテストを作っていたんです。テストって割と教師が好きなように作っていて、ベテラン教師でも目的を見失ったテストになってしまっていることが多いように感じます。日本語能力試験のような大規模テストの真似をしてテストを作っているのが原因かと思うのですが……。日本語能力試験には日本語能力試験の目的があるわけなので、目の前の学習者の目的を見失わないでテスト作成する、ということを本書で認識してもらえたらと思います。
外国人児童生徒のための評価、DLAなどについても紹介しているので、本書を入口としてホームページに飛ぶなどして、評価法について様々に興味関心を広げていってくれるとうれしいです。
―ぜひ本書をこれからの日本語教育に役立ててもらいたいですね。ありがとうございました。
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