2021年、日本語教科書『できる日本語』は10周年を迎えました。この10年の間に、『できる日本語』は多くの日本語教育機関で採用され、国内外で大きく広がりました。そしてこれからの10年も『できる日本語』は進化し、発展していきます。その最初の一歩として、2021年12月12日(日)には、10周年のオンラインイベントも準備されています。『できる日本語』教材開発プロジェクトリーダーの嶋田和子さん(アクラス日本語教育研究所代表理事)にお話を伺いました。
OPIと言語知識を融合させる
――前回の記事で、WEBサイト「できる日本語ひろば」の「『できる日本語』の概要」「日々の実践サポート」についてご紹介いただきました。今回は3つ目のコーナー「実践例と現場の声」についてご紹介いただけますか。
『できる日本語』は、これまでになかった新しい教科書ですので、初めて使う日本語教師の中には、「どう使ったらいいんだろう」と悩む方もいました。実はその悩むこと、考えることが大切なんです。『できる日本語』を使うことで、教師も日々成長していってもらいたいと思っています。さまざまな先生方が出会い、対話しながら成長しているのが『できる日本語』の特徴ですが、「実践例と現場の声」には日本全国・世界各地からいただいたレポートなどが掲載されています。
――「実践例と現場の声」を見てみると、初級、初中級、中級などの教材ごとに、さまざまな実践例が紹介されていますね。また、国内の日本語学校や、海外で『できる日本語』を使っている先生方の声もシンガポールや台湾などから届いているようです。『できる日本語』を使った授業の様子がリアルに伝わってきます。
この10年で『できる日本語』はさまざまな日本語教育機関で使われるようになりました。日本語学校はもちろん、全国の地域のボランティア教室、介護施設、技能実習生の日本語教育などでも使われています。もちろん、海外でもさまざまな国・地域で使われています。
――地域や介護施設など、いずれも日本語におけるコミュニケーションが重要な現場で、『できる日本語』が大切にしている対話力を通して、学習者の「社会とつながる力」を育てることにつながっているんですね。それにしても、なぜここまで『できる日本語』は広がったのでしょうか。また、その理論的背景はどこにあるのでしょうか。
『できる日本語』の8つの特徴には、これまでご紹介してきたような、行動目標(Can do statements)が明確であること、レベルが上がっていくに従って内容がスパイラルに展開していくことなどがあり、それがまさに時流に合っていたと言えると思います。
それに加えて『できる日本語』のバックボーンにはACTFL-OPI(Oral Proficiency Interview)があります。アルクは30年に渡り、このOPIの試験官を1000名以上も育成してきました。このOPIの考え方から、学習者にとって必然性のあるタスクを、しかもタスク先行という形で『できる日本語』は取り入れています。
――タスク先行とは、まずタスクをやってみる、その上でできなかった文型や表現を学ぶというスタイルですね。これは、いわゆる旧来の文型積み上げ形式の真逆になるわけですが、これによりアウトプット、特に話す力は大きく伸びると言われていますね。
『できる日本語』は4技能を伸ばすことを目指しています。話す力もできるだけ固まりで話すこと、段落構成力を伸ばすことを意識しています。このあたりにもOPIの考えを取り入れています。
――確かに『できる日本語』を使うと話す力は伸びそうですが、その一方で日本語学習者にとっては、例えば日本語能力試験に合格するような言語知識のインプットも必要ですね。そのあたりは大丈夫なんでしょうか。
はい。実は、場面・状況を重視するとともに、言語知識も大切にしているのが『できる日本語』なんです。日本語能力試験対策の問題集などをやらなくても、『できる日本語』の中級まで学べば、日本語能力試験N2ぐらいまでの言語知識は身につけることができます。イーストウエスト日本語学校の入学式の日のことですが、オリエンテーションの後、ロビーで新入生が先生に「日本語能力試験の対策」について質問したんです。そうしたら、横にいた在校生が「『できる日本語』で勉強していれば、日本語能力試験のことは心配しなくていいよ」と言ってくれたんです。在校生自身が、後輩に語ってくれたことは、うれしかったですね。
――実際に『できる日本語』を使って勉強している学生さんの声は、いちばん説得力がありますね。OPIのがっちりした言語習得理論の上に、言語知識を融合させて教科書の形にする努力は、並大抵のことではなかったと思います。
10周年イベントを2021年12月12日(日)にオンラインで開催
――これまでのお話の中で、「教科書は作って終わりではない。その後に皆で育てていくことが大切だ」という言葉がありました。また、「『できる日本語』を使うことで教師自身にも成長していってもらいたい」という言葉もありました。『できる日本語』と、それにかかわる先生方はどのように成長していきますか。
今後も『できる日本語』は多くの日本語教育機関で使われることで成長していくと思います。それに伴って日本語教師のマインドも変わっていくと思います。これからはますます教師が人間として成長していくことが大切です。そういったことから、教師教育にこれまで以上に積極的に関わっていきたいと考えています。
――今後は『できる日本語』を使う教師研修なども積極的に展開されていくのですね。
はい、その第一歩として、2021年12月12日(日)に『できる日本語』10周年記念イベントを企画しています。教材開発に関わった教師、授業で『できる日本語』を使ってきてくれた日本や世界中の先生方、そして『できる日本語』に興味を持ってくれている先生方に集まっていただき、みんなでこの2021年を締めくくるイベントを開催することにしました。そして、2022年から新たな形で「できる日本語研修」を始めたいと思っています。
――それは楽しみですね。私もぜひ参加したいと思います。
【『できる日本語』10周年記念イベント(オンライン)】
主催:アクラス日本語教育研究所
後援:(株)アルク、(株)凡人社
実施:『できる日本語』10周年記念イベント実行委員会
日時:2021年12月12日(日)13:30~15:30(日本時間)
申込締切:2021年11月30日(火) ※定員になり次第、申込締切
オンライン開催 [Zoom]
定員:200名
参加費:無料
プログラム:
①ユーザーとともに歩み続けて/嶋田和子(アクラス日本語教育研究所)
②よりよい実践を目指して~それぞれの親場から~
『できる日本語』でつながり、ともに成長する/林エミ(星城大学)
「教科書との「対話」を楽しむ」/成瀬澄子(浜松日本語学院)
『できる日本語』で学び、『できる日本語」を教える教師に!/グエン・ホアン・ラム(ベトナム:FPT大学)
『できる日本語』で変わる私/虞安寿美(台湾:中国文化大学)
③みんなで語ろう『できる日本語』 『できる日本語』について語り合いましょう!
申込先:https://forms.gle/hA2iRW5vC1gJuJSV8
お問い合わせ先:dekirunihongo2011@gmail.com 『できる日本語』10周年記念イベント実行委員会
関連記事
2024年 09月 03日
日本語学校へビジターセッションに伺いました!-『できる日本語』の「できる!」の活動例
日本語学校へビジターセッションに伺いました!-『できる日本語』の「できる!」の活動例
2024年 08月 13日
読むことをきっかけに、やりとりを深めてほしい―『「読む」から始める日本語会話ワークブック』著者インタビュー
読むことをきっかけに、やりとりを深めてほしい―『「読む」から始める日本語会話ワークブック』著者インタビュー
2024年 07月 11日
教科書について考えてみませんか-最終回 対話で新たな教師人生を!
教科書について考えてみませんか-最終回 対話で新たな教師人生を!
2024年 07月 11日
こういう人材に育てたいという目標があって、教材があるー『できる日本語』採用校インタビュー(友国際文化学院)
「日本語教育の参照枠」を具現化できる教科書、『できる日本語』。全国で使っている学校が増えてきています。ではどのように導入したのか、迷ったりしたことは何か、導入後の様子はどうなのか? このシリーズでは『できる日本語』について知りたいと思っている方に向けて、使っている学校の先生方に学校の様子、どんな思いを持って導入したのかなど、「ホントのところ」を伺っていきます。今回お話を伺ったのは友国際文化学院の教務主任、鎌田さんです。
こういう人材に育てたいという目標があって、教材があるー『できる日本語』採用校インタビュー(友国際文化学院)
2024年 07月 08日