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コロナ禍の日本語コミュニケーション

日本では全都道府県の緊急事態宣言が解除され、冬に向けて引き続き緊張感を持ちながらも、少しずつ社会経済活動が戻り始めています。先頃、文化庁から毎年恒例の令和2年度の「国語に関する世論調査」の結果の概要が発表されましたが、その中にコロナによる生活の変化がコミュニケーションに関する意識にどのような影響を及ぼしたかについての調査結果がありました。この内容をご紹介します。

国語に関する世論調査

「国語に関する世論調査」とは、文化庁が日本人の国語に関する意識や理解の現状について調査し、国語施策の立案に資するとともに、国民の国語に関する興味・関心を喚起するものとして、平成7年度から毎年実施しているものです。毎年秋に発表される調査結果は、年々変化する日本語や言葉・コミュニケーションに対する日本人の考え方が反映されており、大変興味深いものがあります。今回の調査は全国の16歳以上の男女約3800人から回答を得ました。

マスクを着けると大きな声ではっきり話すようになる

Q:マスクを着けると話し方や態度などが変わることがあると思いますか。

A:

変わることがあると思う:62.4%

変わることはないと思う:36.7%

無回答:0.9%

「変わることがあると思う」と答えた人が6割以上を占めました。年代別で見ると、「変わることがあると思う」と答えた人は20代が最も多く、年代が上がるに従って「変わることはないと思う」の割合が増えていきましたが、最も高い70歳以上でも、「変わることがあると思う」が「変わることはないと思う」を上回っていました。

次に、「変わることがあると思う」と答えた人に尋ねました。

Q:どのような点で変わることがあると思いますか。

A:

声の大きさに気を付けて話すようになる:74.1%

はっきりとした発音で話すようになる:57.5%

相手との距離に気を付けるようになる:45.1%

相手の表情や反応に気を付けるようになる:39.8%

きちんと伝わっているか相手に確認するようになる:29.3%

話す速さに気を付けるようになる:26.6%

身ぶり手ぶりを多く使うようになる:25.8%

(上位7回答、以下省略)

マスクを通すと声が伝わりにくくなりますから、大きな声ではっきりと、速さにも気を付けて話すようにしている人が多いようです。また、声だけでは伝わりにくいところを、相手の表情や反応を確認したり、身振り手振りなどのノンバーバルで補いながらコミュニケーションを取っている人もいることがわかりました。

若年層にとってウェブ会議は当たり前

Q:パソコンやスマートフォンなどの機器を使い、ビデオ通話をしたり、ウェブ会議、オンライン授業に参加したことがありますか。ありませんか。

A:

ある:46.2%

ない:53.2%

無回答:0.6%

全体結果だけを見ると「ない」という答えが優勢のように見えますが、年代別で大きな開きがありました。「ある」と答えた人は、18~19歳においては79.9%とおよそ8割、20代で76.6%、30代で66.3%でしたが、この数値が70歳以上となると13.5%と急激に下がりました。逆に70代でzoomなどを使いこなしている方がいらっしゃれば、それは平均的な日本人からすると、かなり進んだITリテラシーをお持ちになっていらっしゃると思います。

次に、「ある」と答えた人に尋ねました。

Q:ビデオ通話をしたり、ウェブ会議、オンライン授業で、あなたが気を付けていることは何ですか。

A:

自分が話すタイミングに気を付けるようにしている:58.4%

はっきりとした発音で話すようにしている:53.6%

映り具合や音量の設定などに気を付けるようにしている:48.3%

声の大きさに気を付けて話すようになる:44.8%

話す速さに気を付けるようになる:42.1%

ほかの人の話を最後まで聞くようにしている:40.2%

きちんと伝わっているか相手に確認するようになる:30.5%

(上位7回答、以下省略)

自分が話そうとしたら他の参加者と音声がぶつかってしまったり、逆に妙な間があいてしまったり、相手が話し終わる前に(話し終わったと思って)自分が話し始めてしまい気まずくなってしまったりするのは、ウェブ会議などの「あるある」ではないでしょうか。自分の画面の背景や、自分の声がちゃんと相手に聞こえているかなども気になるところです。

分かりにくいカタカナ語

Q:ここに挙げた(1)~(8)の言葉の使われ方について、どのように思いますか。

(1)コロナ禍 (2)ソーシャルディスタンス (3)3密 (4)濃厚接触 (5)クラスター (6)不要不急 (7)ステイホーム (8)ウィズコロナ

A:

「この言葉をそのまま使うのがいい」という回答が多かった上位3つ

(6)不要不急:67.2%

(1)コロナ禍:66.8%

(3)3密:61.1%

「この言葉を使うなら、説明を付けたほうがいい」「この言葉を使わないで、ほかの言い方をした方がいい」という回答が多かった上位3つ(2回答の合計%)

(8)ウィズコロナ:69.5%

(5)クラスター:47.8%

(2)ソーシャルディスタンス:42.3%

全体的にカタカナ語についてはあまり印象が良くないようです。

英語のcluster(クラスター)にはもともと「果実の房」「集団」などさまざまな意味がありますから「集団感染」と言い換えたほうがわかりやすいかもしれません。social distance(ソーシャルディスタンス)は直訳すると「社会的な距離」ですから、「身体的距離」などと言い換えたほうが適切かもしれません。「ウィズコロナ」はどうでしょうか。

こうして見てみると、新型コロナの感染拡大は日本語のコミュニケーションの在り方や日本語そのものに大きな影響を及ぼしたことが改めて実感できます。

令和2年度の「国語に関する世論調査」の結果の概要

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