検索関連結果

全ての検索結果 (0)
日本語教師プロファイル杉山絵理さん―これまでのキャリアを活かして日本語支援とやさしい日本語の普及活動を

今回の「日本語教師プロファイル」では北海道十勝在住のフリーランス日本語教師杉山絵理さんをご紹介します。杉山さんは個人事業主として個人や企業での日本語指導に携わるだけでなく、一般社団法人の代表理事として、やさしい日本語の普及活動もされています。杉山さんに、現在の活動や、これからやっていきたいこと等についてお話を伺いました。

技能実習生との関りから

――日本語教師になったきっかけはなんでしょうか。

実は日本語教師になることを考えたのは2回ありまして、最初は20年ほど前です。その頃、あのヨン様で有名な韓流ブームの後にやってきた華流ブームというのがあり、それにハマってしまったんです。台湾版の「花より男子」ですね。単なるファンとしてではなく、何とかして彼らに近づきたい、それには通訳や日本語教師になったらいいんじゃないかと考えました。それで通信制の日本語教育のコースがある大学を探して、行こうと考えたのですが、その時はいろいろあって断念しました。やはり北海道からだとスクーリングに行くのが難しいこともありました。

2回目は2017年です。私はその後、建設会社の総務課長となっていましたが、この会社でベトナム人の技能実習生を受け入れることになったんです。会社の衛生管理者をしていたこともあり、彼らの生活指導員になりました。技能実習生に関して、他の会社でのいろいろな話、例えば日本語の問題でのトラブルやケガなどのことを聞いて、「やさしい日本語」の重要性を感じるようになりました。それで会社に在籍しながら、2018年の春から札幌のヒューマンアカデミー日本語教師養成講座に毎週末通いました。土曜の朝6時のJRに乗り札幌まで3時間、土日受講して、日曜のJRで深夜に帰宅、翌日は朝から出勤という生活を1年半続けました。本当に長くてハードでした。

――会社で技能実習生とはどのような関りでしたか。

建設業なので、実習生が会社にいる時間は短いんです。それで会社の中で特に日本語の指導をするということはありませんでしたが、日本語能力試験(JLPT)を受けたいという人にはテストをしたりしました。彼らが会社にいる時は、ちょこちょこ行って、「仕事はどう?」なんて聞く、おせっかいおばさんでした。あとは寮に帰ってきてから、生活面のサポートをしましたね。寂しくならないようにお正月のイベントや花火大会に連れていったりもしました。

北海道にもますます必要な日本語教育

――その後、会社を辞めて、日本語教師となられるわけですよね。

はい。2019年1月に会社は辞めて、フリーランスの日本語教師としてやっていくことにしました。まず、ある技能実習生監理団体の来日後講習の立ち上げを行いました。

私は今も北海道の十勝に住んでいます。道東地方にも外国人、特に技能実習生は住んでいるのですが、大学や専門学校はあまり多くありません。日本語ボランティアの方はいらっしゃると思いますが、本格的に日本語のサポートをする人が必要だと思ったんです。それで2019年3月には、個人事業として外国人の日本語指導をする「杉山プロデュース」*1を立ち上げました。こちらでは個人指導や企業研修などを受けています。活動は十勝地方を中心にと考えていますが、何故かご紹介で広島の方にオンラインレッスンを行ったりもしています。(笑い)

――「一般社団法人にほんごさぽーと北海道」*2を作られたのはどうしてでしょうか。

こちらは行政と関わっていく上で、やはり一般社団法人にした方がいいとの考えがあって2020年6月に設立しました。「杉山プロデュース」とは違い、「にほんごさぽーと北海道」では自治体など日本の方向けに「やさしい日本語」を発信することが活動の中心です。

「やさしい日本語」の指導者になるために、横浜のヒューマンアカデミーの「やさしい日本語指導者養成講座」に北海道から通いました。札幌のヒューマンでは講座がなかったので。

さらに「入門・やさしい日本語 認定講師養成講座」も受講し、認定講師になりました。

こちらの活動としては北海道観光振興機構の「外国人にもわかりやすい やさしい日本語ハンドブック」の作成に関わらせていただきました。また釧路商工会議所の「やさしい日本語セミナー」や恵庭市の「日本語ボランティア入門講座」も行いました。こられの地域にも技能実習生がたくさんいるんです。

2020年9月には日本語教師向けにオンラインで「特定技能試験対策講師養成講座」も行いました。技能実習と特定技能の違いや、特定技能試験のしくみ、どんなことを教えていかなければならないのかを座学で学ぶ2日間の講座です。

296

コロナ禍でも何かがなくなると、また新しい別の何かが

――日本語教師に転職してから精力的に活動している杉山さんですが、コロナ禍による影響はありましたか。

そうですね。営業活動にあまり動けなかったのが痛かったんですが、思わぬ仕事も舞い込んできました。派遣会社からの仕事で、コロナ禍で働けなくなった外国人が特定活動のビザに変えて北海道に集まってきたんです。それで彼らを自宅の1階にホームステイさせて、仕事のない週末だけ日本語のレッスンをしました。2020年の7月~11月ぐらいまで、のべ10名ぐらいが滞在していました。若い人たちの面倒を見るのは、前職で生活指導員をやっていたので、慣れていましたし、彼らには自由に自炊してもらいました。でもこういう人たちが来ますからとご近所にはちゃんと挨拶に行きましたよ。町内会長には外国人が滞在することを伝えましたし、彼らにはホームステイする上で最低限のルールを設定しました。やはりゴミ出しは難しかったようです、喫煙場所を守れなくて、きつく注意したこともありました。ホームステイが終わって元の職場に帰っていった子から、お正月にいきなり「ママ」なんて連絡がきて、びっくりしましたね。

それから農家の外国人のお嫁さんに日本語を教えてほしいという依頼も来ました。これは「杉山プロデュース」のホームページを見てのものでした。

そんな感じで、何かがなくなると、また新しい別の仕事が入ってくるので、コロナだからといってそこまで困るということはありませんでした。

296

これからやりたい三つのこと

――これからやっていきたいことがあれば教えてください。

はい、やっていきたいことは三つあります。

一つ目は、今、放送大学の「心理と教育」のコースを履修しているのですが、ここで学んだことを活かして外国人のメンタルケアもできるようになることです。もともと企業にいたときは健康診断や社員のメンタルヘルスの担当でもありました。今、外国人のメンタルヘルスの問題をいろいろ聞きますし、介護の現場でも、日本語だけでなくメンタルの支援もできる日本語教師がいたらいいという要望を聞くことがあるからです。

認定心理士の資格を取ってキャリアアップにもつなげたいと思っています。

二つ目は、法人を設立した時の思いでもあるんですが、子ども、高齢者、外国人、この三者が一つになって、そこに日本語教師も関われるような場所を作ることです。「やさしい日本語」「こども食堂」「高齢者のいきいき教室」のような。ここに行政の力も借りて、場所づくりができればいいなあと思っています。日本語教師の新しい活躍の場を作ることにもなりますし。

三つ目は、今回のコロナのことがあって、日本語教育一本だと難しいということがわかりました。それで法人として起こした以上、一つの軸は日本語教育だけれども、別の業態での軸も作りたいということです。もう少し活動の幅を広げたいのですが、私一人では正直難しいです。それで、北海道のいろいろなキャリアやバックグラウンドを持つ日本語教師の方や、他業種の方とつながっていきたいです。一緒に新しい何かを企画運営したり、一緒に新規開拓営業をしたりできる方で、北海道に移住してもいいなんて方がいるとさらに面白いかなと想像したり、いろいろ模索中です。日本語教師が集まって、自分たちで地位向上を目指していける場所を作りたいです。

これまでのキャリアと自分の強みを活かして

――これから日本語教師を目指す方に何かアドバイスはありますか。

そうですねぇ。私自身も日本語教育を始めてから、まだ3年ほどなので、何をアドバイスできるのか悩みますが…。今までのキャリア、強みを活かすことでしょうか。

学習者にはいろいろなタイプの人がいるので、自分の強みを活かせる対象を見つけるといいと思います。例えばエンジニアだった方はIT関係の学習者がいいでしょうし、子どもに日本語を教えるなら保育士だった方が最適だと思います。

それから、文法や語彙など、ただ日本語を教えるだけが日本語教師ではないと思っています。日本で生活するために必要なエッセンスをしっかり伝えられる教師にならないと、国が目指している「定住するための日本語」にはならないと思います。ですから、そういった教師が増えてくるといいなあと思っています。

取材を終えて

日本語教師としての経験は浅いとおっしゃる杉山さんですが、その3年の活動はコロナ禍にも関わらず非常に密度の濃いものだと思います。そして随所に前職での経験が活かされているようです。日本語教師になるまでの経験って無駄なものはないと今回も思いました。杉山さんが今後の目標として掲げられている3つのことも、本当に実現が望まれるものです。そして、ちょっと北海道で日本語教師をするのもいいかなあと思いました。皆さんはいかがですか。

取材・執筆:仲山淳子

流通業界で働いた後、日本語教師となって約30年。5年前よりフリーランス教師として活動。

*1:杉山プロデュース: https://peraichi.com/landing_pages/view/sugiyama-produce/

*2:一般社団法人にほんごさぽーと北海道:https://www.nihongosupport-hk.or.jp/

関連記事


今後の日本語教育を見据えたカリキュラムのつくり方②ーコースフレームワークとモジュールボックス

今後の日本語教育を見据えたカリキュラムのつくり方②ーコースフレームワークとモジュールボックス
カリキュラムを一から構想するとき、具体的にどこから手をつければいいでしょうか。カリキュラム編成の考え方はわかったけれども、作業手順がわからない、ということもあるでしょう。そういう場合にぴったりの方法が「令和45年度 文化庁委託「日本語教育の参照枠」を活用した教育モデル開発事業【留学分野】」で日本語教育振興協会チームによって開発された「コースフレームワーク」と「モジュールボックス」というツールを利用する方法です。具体的な使い方を見ていきましょう。(竹田悦子・内田さつき/コミュニカ学院)

今後の日本語教育を見据えたカリキュラムのつくり方①-「日本語教育の参照枠」を手がかりに

今後の日本語教育を見据えたカリキュラムのつくり方①-「日本語教育の参照枠」を手がかりに</strong>
現在、認定日本語教育機関の申請を控え、「日本語教育の参照枠」に沿ったカリキュラム編成と言われても、どこからどう手をつければよいのか不安に感じていらっしゃる先生方も多いのではないでしょうか。教務主任や専任教員としての経験はあっても、これまで、前任者から受け継いだカリキュラムを、若干の手直しだけでほぼ踏襲してきたという場合や、新規校の主任を引き受けることになった場合など、自分で一から新たなカリキュラムを立てた経験がなく、途方に暮れている方もあるかもしれません。そんな先生方の心が少しでも軽くなるように、どこから始めればいいのか手がかりがつかめるように、いくつかの点から考えてみたいと思います。  (竹田悦子・内田さつき/コミュニカ学院)

日本語教師プロファイル田中くみさんー自分の強みを活かして自分に合った働き方を

日本語教師プロファイル田中くみさんー自分の強みを活かして自分に合った働き方を
今回「日本語教師プロファイル」でインタビューさせていただいた田中くみさんは、Language Plus Oneの代表として、日本語教育のみならず、キャリア教育や外国人への就職支援にも取り組んでいます。最近では学習アドバイザーの資格も取られたそうです。これからの働き方として、特定の組織に属さないフリーランスを考えている方に参考になるのではないでしょうか。

ベトナムにルーツを持つ子どもたちが気づかせてくれたこと―多様な言語・文化的背景を持つ子どもたちとともに学ぶ、これからの学校(2)

ベトナムにルーツを持つ子どもたちが気づかせてくれたこと―多様な言語・文化的背景を持つ子どもたちとともに学ぶ、これからの学校(2)

日本語も日本文化もわからないまま、家庭の事情等で来日し、日本の学校に通う子どもたち。その学習にはさまざまな支援が必要です。子どもたちの気持ちに寄り添い、試行錯誤を続ける近藤美佳さんの記事、後編です。


新装開店! 凡人社書店にお邪魔しました

新装開店! 凡人社書店にお邪魔しました
日本語教育の専門書店である、日本語の凡人社。東京千代田区麹町と大阪に店舗があります。ちなみに麹町店はこれまで月・水・金の12時から18時まで開店していましたが、10月1日から平日の月・火・水・木・金の営業となりました(土・日・祝休み)。また、大阪店はリニューアルオープンのため当面の間、休業とのことです。今回は改装した凡人社麹町書店に伺って、お話を聞いてきました。