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「日本語」教師としてだけではなく、在住外国人の支援を考える

私たちが行いたいと思い、かつ在住外国人が求めているのは、どのような支援でしょうか。「日本語」ボランティアや「日本語」教師ということばが示すように、どうしても私たちの活動は日本語を教えることから切り離しにくくなっています。しかし、共生が生活から切り離して考えられないとき、私たちは、一度、日本語を教えることを脇に置き、在住外国人の生活支援とは?という問いに向き合う必要があります。NPO多文化共生プロジェクト代表の深江先生によるコラムです。

日本語支援だけで良いのだろうか?

日本で生活し始めたばかりの外国人は、自分の国では当たり前にあった日常を喪失してしまいます。例えば、スーパーで食べたい食材が買えなかったり、病院で安心して治療を受けられなかったり、役所で必要な手続きが行えなかったりします。なので、彼らに対する支援の目的は、一時的に喪失した日常の当たり前を取り戻すことです。それは、生活支援と呼ぶことができます。一方で、日本語のボランティア教室で広く行われていることは、日本語の語彙や文法を教える日本語支援です。表1で、在住外国人に必要な生活支援と語彙や文法を教える日本語支援のずれをまとめました。

表1 在住外国人に必要な生活支援と一般的な日本語支援のずれ

優先順位

在住外国人が望む生活支援

一般的な文型シラバスに基づいた日本語支援

自分の食べたい食材を買うためのサポート

「~は~です」を教える

自分の着たい衣服を買うためのサポート

「これは・ここは~です」を教える

安心して治療を受けるためのサポート

「~時~分です,~から~まで」を教える

災害に備えるためのサポート

「~を~(動詞)ます」を教える

日本で生活し始めた外国人が望むのは、自分らしく、また、安心して日常生活を送れることではないでしょうか。ならば、支援もそこから始める必要があります。例えば、自分の食べたい食材を買うことを実現するには、私たちは、その人がどんな食材を必要としているか知ることから始めなければなりません。しかし一般的な文型シラバスに基づいた日本語支援では、指定された文型を使えることに重点が置かれるので、在住外国人が日常生活で思う望みに応えることができません。これから日本で生活する外国人がさらに増えることが確実な中、生活支援という観点から彼らへの支援を考え直す必要があります。

またこのことは、ボランティア活動を行う多様な人達からの要望でもあります。先日、私は、在住外国人の生活を支援したいという看護師のMさんから、ご連絡をいただきました。Mさんは大学病院に勤務している看護師さんですが、留学生やその家族の看護にあたる中で、在住外国人が病気だけでなく、生活上の様々な困難に直面していることを知りました。そこで病気の治療ではできない生活上の支援をしたいとNPO・ボランティアセンターに問い合わせた結果、私につながりました。ただ私は困りました。日本語ボランティア教室が、そのボランティア活動の最も身近な場所なのですが、実際の活動は日本語を教えることが中心なので、Mさんの期待に十分に応えられる返答ができないからです。Mさんだけでなく、日本で生活する外国人の方々の役に立ちたいとボランティア活動を始めたけれど、日本語を教えることが目的となってしまったボランティアの方々の不安を耳にすることがあります。

私たちは、在住外国人の生活を支援するために何ができるのか、という観点から、その方法を考え直す時機に来ているといえます。

生活支援を考えるワークショップ

2019年6月~9月に計5回、九州大学が移転した福岡市西区の元岡地区で、福岡市西区役所と元岡公民館の主催で日本語ボランティア養成講座が開催されました(元岡公民館での教室立ち上げは、こちらで特集されています)。多くの外国人が暮らし始めた元岡地区で、地域の方々が彼らの生活を支援する教室を立ち上げるための講座です。私は、そのうち2回の講座を担当したのですが、その1つが「日本語支援以外の生活支援の方法」というグループで考えるワークショップです。

ワークショップは、まず資料1を基に「何かに困っている人」を表現することから始めました。

資料1 「何かに困っている人」を言語化する手立て

・○○な人が   (その人の特徴)

・△△な場面で  (具体的な場面)

・□□ができず  (その人ができないこと)

・◇◇になっている(その人が置かれた状況)

支援をしようとするとき、支援を必要としている人がどのようなことに困っているかを具体的に言語化することで、適切な支援の方法を考えやすくなります。それを、外国人に限らず、一般的なことがらから考えてみました。資料2をご覧ください。ワークで出た一つの例です。

資料2 高齢者が困っている例

・高齢の女性が

・スーパーで買い物しているとき

・字が小さくて書いていることが読めず

・買いたいものが買えていなかった

さて、この高齢の女性に対する支援は、どのようなものがあるでしょうか。ワークでは、高齢者用に大きな字で書かれた説明を作る、ルーペを準備する、などが出ました。次に資料3は、小学校の教員がクラスでの外国人児童の様子を表現したものです。

資料3 外国人児童の例

・エジプトから来た小学6年生の子どもが

・社会や理科の授業のとき

・先生の言っていることが分からず(参勤交代、武家諸法度、道管、師管など)

・うつむいていた

さて、この子どもに対する支援として、どのようなものがあるでしょうか。アラビア語に翻訳された教科書を準備する、日本語が分かるエジプト人の留学生がサポーターとして入るなどが出ました。また、日本の歴史についてその子ども一方的に習うのではなく、彼がエジプトの歴史を教える機会を設けて、子どもたちが相互に学び合う授業をする、という意見もありました。なるほど、と思いました。

在住外国人に対する生活支援を考える

このように「何かに困っている人」が具体的に言語化されることで、その人に対する様々な支援の方法を考えることができます。ワークはその後、「元岡地区で生活し始めたばかりの外国人」を対象に、買い物、病院、余暇、交流、防災、学校という日常の話題から一つ選び、どのような場面で具体的に困るだろうかを話し合いました。その一例が資料4です。

資料4 元岡地区で生活し始めたばかりの外国人が困ることの例

◎買い物

 ・元岡地区で生活し始めたばかりの留学生が

 ・自分の国の料理をつくりたいと思ったとき

 ・必要な食材がどこで手に入るか分からず

 ・つくれない

◎病院

 ・元岡地区で生活し始めたばかりの留学生が

 ・子どもが熱を出したとき

 ・どの病院に連れて行けばいいか分からず

 ・すぐに治療を受けさせられない

そして、その後で支援の方法を考えました。資料5は、資料4を基に考えた支援の一例です。参考までに、「交流」「学校」の項目で出た支援も記します。

資料5 在住外国人に対する生活支援の例

・買い物

 欲しい物が買える元岡近郊の買い物地図をつくる

・病院

 症状に応じた病院が分かる元岡近郊の病院地図をつくる

・交流

 まず地域の掃除に誘い、次に茶話会に誘い、最後にイベントに誘う

・学校

 元岡公民館で放課後学級を行う

さて、いかがでしょうか。私はこのワークを終えた後、すぐにでも資料5のアイデアを実践したくなりました。

生活支援の一部としての日本語支援

在住外国人に対する支援をしたくてボランティア活動を始めたけれど、いつの間にか日本語を教えることが目的になってしまったという事態を打開するために、まず「在住外国人がどんなことに困っているか」に立ち返る必要があります。私たちの目的が日本語を教えることではなく、彼らの生活を支援することであるなら、その方法はより多様となります。このことを図1で整理しました。

図1

142-6

日本語の支援は、生活支援の一つとして確かに必要です。しかし、教科書の提出順序にしたがい語彙や文法を教えるだけでは、在住外国人に求められる支援に至りません。在住外国人は日常生活の中で様々な障害に直面します。

私たちが、この障害を取り除く手伝いをするという立場から生活支援に取り組み始めたとき、「日本語」ボランティアや「日本語」教師という枠を超え、多文化の共生に取り組むボランティアや教師が生まれ、社会を動かしていくのではないでしょうか。

執筆/深江 新太郎(ふかえ・しんたろう)

「在住外国人が自分らしく生活できるような小さな支援を行う」をミッションとしたNPO多文化共生プロジェクト代表。大学で歴史学と経済学、大学院で感性学を学ぶ。珈琲屋で働きながら独学で日本語教育能力検定試験に合格し日本語教師に。学校法人愛和学園 愛和外語学院 教務長。

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