YouTubeで多くの日本語教師が情報発信をする時代になりました。そのような中で、2021年2月に登録者が何と10万人を超えたのが、以前にこの日本語ジャーナルでもご紹介した、あっきーさんの「三本塾」です。あっきーさんに登録者10万人を獲得するまでの道のりを振り返ってもらい、また新しく始めたオンラインレッスンについてお話を伺いました。
YouTubeチャンネル「三本塾」:
https://www.youtube.com/channel/UC0ujXryUUwILURRKt9Eh7Nw
1年目500人からスタートしたYouTubeチャンネル
――あっきーさんにはこれまで何度か日本語ジャーナルに登場していただきました。まず2019年10月に「50カ国・地域の日本語学習者に発信するYouTuberあっきーさんの活動」でインタビューをさせてもらいましたが、その時のチャンネル登録者数はまだ2万8000人でした。
その後、アルクで『カジュアル日本語』という教材を上梓し、その発売を記念して2020年3月に「YouTubeから生まれた日本語教材『Casual Nihongo / カジュアル日本語』出版しました」で再登場してもらいました。この時点でチャンネル登録者は6万人に達していました。順調に登録者数を伸ばし、そしてとうとう大台の10万人に達しましたね。
10万人になって一区切りと言うか、やっとスタートラインに立てた気分です。登録者10万人というのは数多くあるYouTubeチャンネルの中で、ある程度認めてもらえるようになる数字なのかなと思っています。
――これまでの道のりを振り返ってもらえますか。
「三本塾」をスタートさせたのは2017年の4月ですので、4年前のことになります。今でこそたくさんの人に登録していただいていますが、開設して1年たった時には、登録者はわずか500人しかいませんでした。
――そういう時はどういう心境になるものなのでしょうか。
一言で言うと、心が折れそうでしたね(笑)。YouTubeを始めたばかりの時に友人・知人に周知をして、視聴者を広げていくこともできましたが、恥ずかしかったというのもあって、私はあまりそういうことをしなかったので、スロースタートだったんだと思います。それから、自然と必要な人に気づいてもらえて、評価してもらって、登録者数やアクセス数を増やすというのを1つの課題、目標として設定していたということもあります。
――その後、急激に登録者が増えたのは何か理由があるのですか。何かの動画がバズったとか、メディアに取り上げられたとか。
いえ、特にそういうことはありません。YouTubeのアルゴリズムは公開されていないので分かりませんが、順調に行けば伸び幅が大きくなっていくというのはSNS全般に見られる特徴だと思います。ある人から何人かに広がる、その何人かからそれぞれ何人かに広がる、そしてそれが繰り返されていくということだと思います。
――登録者は主にどういった人たちなんですか。
アクセスの約9割は海外からなので、海外で日本語を勉強している人たちですね。同業の方もいくらかいると思います。年齢層は幅広く下は中学生から上は60代まで。私はこれまでは日本語学校で20代の人を中心に教えてきたので、60代の人に日本語を教えるのは非常に貴重な機会になっています。
活動の場を日本語学校からオンラインへ
――「これまでは日本語学校で教えてきた」とのことですが、現在も日本語学校で教えているのですか?
実は今回のコロナ禍がきっかけとなって日本語学校は退職し、独立して活動の場を完全にオンラインやYouTubeのほうに移しました。お陰様で今はオンラインレッスンのほうで、毎日大変忙しくしています。
――それは思い切った決断でしたね。リアルな学校の授業とオンラインの授業を比較して、その違いをどのように感じていますか。
私はこれまでオンラインレッスンはリアルな授業の臨場感には決してかなわないと思っていたのですが、いざやってみると、オンラインレッスンにはオンラインレッスンの良さがあると感じました。それは日本と海外という場所の制約を超えて、海外の学習者に直接届くということですね。であれば、オンラインレッスンのメリットを最大限に生かしたものにしたいと思いました。
――特にあっきーさんの場合は、海外に約9万人の学習者を抱えているわけですから、オンラインのメリットは大きいでしょうね。
オンラインは競争も激しく、また個人に対するサービスですので学習者のほうも妥協しません。学習者の高いニーズに応えられる反面、満足してもらえない場合は次のレッスンはないという非常にシビアな世界でもあります。
――学校のマス的なニーズとはまた別の個別のニーズがあるわけですね。
それから学校だとどうしても「先生と生徒」のような感じになりますが、オンラインの場合はもう少しサロン的と言いますか、リラックスしてお茶などを飲みながらおしゃべりをするようなことも多いんです。学習者の中にも教室的な雰囲気よりそういった雰囲気の方が良いという人がいますね。
これからは学習者が先生を選ぶ時代に
――YouTubeの登録者が10万人を超えて、今後の活動予定を教えてください。
4年前からYouTubeには週に1本ぐらいのペースでアップしています。このペースは今後も維持していきたいと思います。また、それと併行してオンラインレッスンのほうも拡充していきたいと思います。そしていつか、これは以前に日本語ジャーナルで語った夢でもあるのですが、「三本塾」という名前の学校を作りたいと思っています。
――これまで4年間でYouTube動画は合計何本ぐらいアップしたのですか。
200~300本ぐらいはアップしたと思います。
――すごい数ですね。どういった動画が学習者からは人気があるのでしょうか。
実はジョークっぽい動画も作ってるんですが、しっかりと日本語を勉強できるような動画の人気が高いんです。最近であれば、「修飾」の動画の人気がとても高かったです。実は、YouTubeも競争が激しく、日本語教師で動画を上げる人がたくさん出てきていて、真面目に日本語を教えるチャンネル、おもしろおかしく教えるチャンネル、日常生活の風景を通して教えるチャンネルなどいろいろなものがあります。そんな中で「三本塾」の強みは何だろうかと考えると、それは”信頼性”、”プロフェッショナル”なんではないかという結論に行き着きました。
――「三本塾」という学校を作るのが夢とのことですが、それには何か理由があるのですか。
前々からリアルな学校を作って理想とする日本語教育を実践したいという思いがあります。また、今はそれに加えてコロナの影響があります。コロナの影響で授業のコマ数が減ってしまったり、採用が先延ばしになってしまったりした日本語教師が、私の周りにもたくさんいます。私が経営者として学校という場を持っていれば、そういった日本語教師をサポートしていくことも可能かもしれません。
――日本語教師でもYouTubeを始める人が増えてきているとのことですが、そのことをどのように捉えていますか。
それはとてもいいことだと思っています。学習者が教材を選ぶように、先生も選べるような時代になればいいなぁと思っています。オンラインレッスンが盛んになりましたが、オンラインレッスンは基本的に学習者側に先生を選ぶ権利があります。リアルな学校では、一度入学してしまうと、学習者は自由に先生を選ぶことはできません。コロナによりさまざまなことが大きく変化しました。よかったこともそうではないこともあるとは思いますが、良い方に変わったところを前面に出して、いろいろな物事をよい方向に向けていければいいのではないかと思っています。
――本日はありがとうございました。
あっきー
日本語教師。日本語教育学修士。日本語学校、大学、日本語教師養成講座等で日本語教育に携わり、2017年に三本塾を立ち上げる。
- 作者:あっきー
- 発売日: 2020/03/30
- メディア: 単行本
関連記事
2024年 11月 14日
今後の日本語教育を見据えたカリキュラムのつくり方②ーコースフレームワークとモジュールボックス
今後の日本語教育を見据えたカリキュラムのつくり方②ーコースフレームワークとモジュールボックス
2024年 11月 14日
今後の日本語教育を見据えたカリキュラムのつくり方①-「日本語教育の参照枠」を手がかりに
今後の日本語教育を見据えたカリキュラムのつくり方①-「日本語教育の参照枠」を手がかりに
2024年 10月 31日
日本語教師プロファイル田中くみさんー自分の強みを活かして自分に合った働き方を
日本語教師プロファイル田中くみさんー自分の強みを活かして自分に合った働き方を
2024年 10月 27日
ベトナムにルーツを持つ子どもたちが気づかせてくれたこと―多様な言語・文化的背景を持つ子どもたちとともに学ぶ、これからの学校(2)
日本語も日本文化もわからないまま、家庭の事情等で来日し、日本の学校に通う子どもたち。その学習にはさまざまな支援が必要です。子どもたちの気持ちに寄り添い、試行錯誤を続ける近藤美佳さんの記事、後編です。
2024年 10月 15日