外国人に日本語を教える日本語教師という仕事に益々関心が高まっている昨今。しかし、どのような場所で教え、どのような働き方があるのか、その実情については案外知られていないのではないでしょうか。ここでは日本語教師の「たまご先生」(養成講座、通信講座で勉強中の方や、日本語教師になって間もない方)のために、なかなか知ることのできない日本語業界の実態を「ぶっちゃけ」を交えてご紹介します。今回は日本語学校で教える場合、学校の選び方についてです。(仲山 淳子)
養成講座、通信講座を修了したら
現在、日本語教師が教えている場所というと
1 日本語学校
2 大学、大学院、専門学校の留学生対象クラス
3 外国人社員のいる企業
4 小中学校の外国人児童生徒への日本語指導クラス
5 オンライン日本語スクール
6 ボランティア日本語教室
7 プライベートレッスン
8 海外の日本語教育機関
などが挙げられます。このうち日本語教師養成講座や通信講座を終えた未経験の方が、まず教え始めるのは日本語学校が多いのではないでしょうか?
おさらいをしておくと、日本語学校というのは「主に日本語を母語としない者を対象として、第二言語・外国語としての日本語教育を実施する機関」で「日本国内では法務省より告示を受けた日本語教育機関」のことで、入学者には在留資格「留学』が与えられます。大学や専門学校との違いは、ざっくり言うと学生は外国人しかいないこと(たまに日本国籍の人もいますが、母語は日本語以外)、学生が進学や就職を目指している場合が多いことでしょうか。また教えるメソッドとしては、日本語で日本語を教える「直接法」を採用しているところが多いと思います(企業クラスや、法務省告示校以外の日本語教育機関はそうでないこともあります)。
では、どういった点を基準に日本語学校を選べばよいでしょう?
日本語学校をどう探す?
現在、日本語教師として日本語学校で教えている方々にどうやって職場を決めたのか聞いてみました。一つのパターンとして養成講座の系列の日本語学校で教えるというのがあります。日本語教師不足の中、大手の日本語学校では、自校の人材確保のために養成講座を開いている場合もあるのです。このパターンでは、学校の雰囲気や将来上司、同僚となる教師のことが働く前からわかるというメリットがあります。実習で使ったテキストが日本語学校で使われている場合は、初めの授業準備も楽になるかもしれません。ただ、養成講座の学生の気分のまま教師になってしまうと、厳しさに直面することも。また通いなれた学校であっても、教師となるからには条件面をしっかり確認することをお勧めします。
もう一つのパターンは、養成講座からの紹介です。提携している学校や姉妹校などを紹介してくれる場合があります。また養成講座の担当講師からの紹介という話も聞きました。一種の青田買いでしょうか、実習等を見ていて有望な受講生に、日本語学校を紹介してくれたそうです(なので、養成講座の時から、「見られている」ということを意識したほうがよいかもしれません)。
さらに、既に日本語教師となっている友人・知人からの紹介という話も非常に多いです。紹介のメリットは、ある程度、その学校のことがわかること。しかし、実際に面接に行ってみてちょっと合わないなと感じた時に、紹介者がいると断りにくいというデメリットもあるかもしれませんね。
一般的に就職先を探すとなると、求人サイトを見ることが多いですよね。日本語教師の場合もそのようなサイトがいくつかあります。サイトを見て応募するときは、どんな学校なのかホームページやSNSで必ず事前にチェックしてくださいね。活動の様子や学生のコメントなどがあるとイメージがつかめるかもしれません。
日本語学校選びは「相性」が重要
紹介にしろ、自分で探したにしろ、日本語学校で教えるためには採用面接を受けることになると思います。最近は面接だけでなく、模擬授業も求められる場合がほとんどです。
模擬授業に関しては、そんなに心配しなくて大丈夫。養成講座を終えたばかりの「たまご先生」に、どの面接官もそんなに高い技術を求めていないと思います。それよりは教師としての資質を見ているのです。例えば、ちゃんと学生の方を見て話しているか、はっきりとしたわかりやすい発音をしているか、笑顔で授業を進められているか、などです。
さて私は常々「就活」は「婚活」と同じと思っているのですが、面接で相手に一方的に選ばれるのではなく、こちらも職場を選ぶという気持ちで臨んでください。つまり「相性」が重要だということです。そのためには自分が将来どういう方向を目指しているのかを意識しておくこと。例えばICT*1を使った教育に興味を持っている場合、その学校ではどのような取り組みがされているのかをチェックすべきですし、アクティブラーニング*2に取り組みたいと思っている場合も同様です。さらにテキストやメソッドの相性もあります。どんな学生が多いのか、教師の数は? 基本的な設備は? など知りたいことはちゃんとメモしておいて、面接の時に聞いちゃいましょう。
模擬授業と面接が圧迫面接みたいだったーなんて言うのは論外ですが、応募者に対しても丁寧に説明してくれ、リスペクトしてくれる姿勢が見える学校をぜひ選んでください。
日本語学校で働き始める時、気になるのは収入面だと思います。新人の時から専任になるのはなかなか難しいため非常勤講師としての採用が一般的です。収入を確保するために週5日計10コマでも働きたい! と思うかもしれませんが、新人のうちは授業準備に大変時間がかかると思いますので、それでは自分で自分の首を絞めることになってしまいます。最初の半年くらいはアルバイトもやむなしと割り切ったほうがよいのかも。逆に経験のない新人教師に10コマ持たせようとする学校なら少し警戒してください。
最後に、私がこれまで教えてきた日本語学校をどうやって決めたのかについてお話しすると、最初に教えた学校は、パターン1、つまり養成講座の学校。次に、長く教えることになった学校を見つけたのは、たぶんアルクの雑誌だったと思います。そこにある日本語学校の学園長夫妻の写真が掲載されていて、その笑顔を見た時にビビビときて、ここで教えたい!と思ったのでした。そして偶然にも新聞で募集広告を見つけ幸運にも採用されと、そんな出会いもあります。
これから皆さんにとって良い出会いが訪れますように! では、また。
執筆/仲山淳子
日本語教師歴30年のフリーランス日本語教師。非常勤講師として長きにわたり留学生への日本語指導や日本語教師養成講座に携わったのち、フリーランスに転身。現在は企業研修やプライベートでの日本語指導だけでなく、日本語ボランティア教師養成講座の講師、e-ラーニング教材の開発等、多方面で活躍中。最近は作成したオリジナル教材を用いてオンラインレッスンにも挑戦している。
*1:ICT:Information and Communication Technology(情報通信技術)の略
*2:学習者主体の積極的、能動的な授業や学習活動
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