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日本語教育の楽しさを多くの人に伝えたい

JICA青年海外協力隊を通じてモンゴル、また留学先のイギリスで日本語を教えたご経験のある高嶋幸太さん。日本でも複数の大学で日本語教育に携わり、執筆活動や全国で講演・セミナー活動も行っています。そんな高嶋さんに日本語教育、日本語教師についてお話をうかがいました。

日本語教師を目指したキッカケは?

アルクから出版されていた、『日本語教師になろう』という雑誌を読んで文字通り日本語教師になろうと思いました。もともと言葉や教育に興味があったので、雑誌で日本語教師という職業があることを知って、絶対に仕事にしたいと思いましたね。

親戚には教育関係で仕事をしている人はいましたが、両親は全く関係ない仕事でした。特に身近で日本語教師をしている人はいませんでしたが、そういう職業があると知ってからは、絶対になりたいと思いましたね。そのために大学も、絞って受験しました。

日本語教師という仕事はどんなところが魅力ですか?

そもそも言語が好きなので、学ぶことにも教えることにも魅力を感じます。また、日本語を学びたい日本語学習者たちとつながることで、自分も海外とつながり、他者や異文化を知ることができるのも魅力です。

日本語教師になることで苦労したことや、行ったことなどはありますか?

「何か大変だったこと、苦労したことはありますか?」とよく聞かれるのですが、私にとっては日本語教育能力検定試験に合格し資格者になるための勉強も、全く苦ではありませんでした。ですので苦労したことはないですね。

大学時代にオーストラリアに短期留学し、現地の中高一貫校で1ヶ月間、日本語教師のアシスタントを経験しました。
留学エージェントを通しての日本語教師体験プログラムだったのですが、内容は日本語会話のロールモデルを先生とやったり生徒と日本語で会話をしたりなどでした。子どもたちの反応を新鮮に感じ、実務もとても面白かったです。結局そのプログラムは2回経験しました。
その経験から、当時は大学での授業も身を入れてやろうと、改めて思いましたね。

私がアシスタントとして教えていたオーストラリアの学校では、生徒たちはドイツ語、フランス語、日本語の中から学びたいものを選ぶ、という感じでした。配属校での一番人気はフランス語だったと記憶していますが、日本語も人気で多くの生徒が学んでいました。ただ、昨今は中国語を学ぶ生徒も多いようですね。その時代によって必要とされる、将来を見据えた選択をしているんでしょうね。

現在では主に成人向けに教えられていますが、出身国の違いなどで教え方は変わったりしますか?

出身国での違いというか、母語の違いによっては変わってきますね。例えば日本語にある「は」「を」「に」などの「助詞」は、韓国語やモンゴル語にもあります。そのため韓国やモンゴル出身の学習者に対しては母語を生かした教え方ができます。反対に「助詞」がない母語の国から来た学習者には、助詞の意味やはたらきなどから教えなければいけません。
そんな時に、学習者の母語について知識があると教える時にとても役に立ちます。中国語などは文法が日本と違うため、中国語圏の学習者にとっては活用などに馴染みがない状態から学ばなければいけません。そんな時に、私が「中国語ではこうだけど、日本語ではこうなんだよ」と、中国語の解説をすると、教師が自身の言語を知っていることに興味を示し、表情が明るくなるんです。

もちろん教室にはさまざまな国からの学習者がいるので、私が知らない母語の学習者には「あなたの国の言葉ではどうですか?」というように、質問します。そうすることによって自分の国の言語を知ろうとしてくれていると感じ、その学習者の日本語を学ぶ意欲にもつながります。

学習者たちがぐっと伸びる教え方や活動はありますか?

それぞれの学習レベルにもよりますが、「日本語を使いたい!」と思えるようなフックを授業中にいくつ作れるかが大切だと思います。例えばマジックテープにはたくさんの小さなフックがあって、それがループに引っかかることで両面がくっついていますよね。喋りたいと思うようなフックがたくさんあって、質問に答えたいって思ってもらうんです。たくさんあればあるほど自ら話したい、読み書きしたいと思えるんです。

具体的な例をあげると、物語を読んでわざと後半を空欄にして学習者に続きのストーリーを考えてもらいます。正解のない、それぞれの学習者思い思いの物語の結末を書き、最後に発表してもらいます。
「クリエイティブ・ライティング」と読んでいますが、「読んで、考えて、書く」ということで、「能動的に伝えたい」という意識が生まれやすくなります。

日本語を教えるに当たって心がけていることは?

教師と学習者の関係は縦ではなく横の関係だと思うんです。「友達」とまではいきませんが、教師が上、学習者が下という縦の関係で「褒める - 褒められる」、「評価する - 評価される」、「指示する - 指示される」ではだめだと思います。教師は学習者をサポートし、理解できるような力添えをしていくんです。同じラインにいることが大切だと考えていますね。カウンセリング理論やコーチングに近い感じです。

学習者の日本語を学ぶモチベーションは何だと思いますか?

さまざまですが、日本のアニメを日本語で見たい、日本語で書かれたサイトの情報を知りたい、もしくは日本語話者と話したい、などです。中には自分の見識や視野を広げたい、とか日本語の仕組みを知りたい、などの学習者もいます。

日本語教師としての喜びはどんなところにありますか?

日本語を教えた学習者が、自分のレッスン終了後にも継続して日本語を学んでくれていると嬉しく思いますね。
私はJICAの青年海外協力隊で、モンゴルに2年間派遣された経験があります。その後帰国して複数の大学で授業を行っていたのですが、その中の一つの大学で、あるモンゴルから来た女子学生が「以前モンゴルの〇〇番学校で日本語を教えていませんでしたか?」と聞いてきたんです。教えていたことを伝えると、彼女はその当時私の巡回校で学んでいた児童の一人だったことがわかりました。彼女が小学校3年生くらいの時の話で、それから6、7年後に日本に正規留学生として4年間大学で学ぶために来ていたのです。彼女は半年間私の授業を受け、単位取得しました。
彼女との再会はとても嬉しく、また世界は狭いなと感じましたね。

モンゴルへ派遣される前、JICAで2ヶ月間缶詰め状態でみっちりとモンゴル語を習いました。試験にパスしなければ派遣されなかったので真剣でしたね。何の知識もないモンゴル語でしたが、学習者4名に対して先生が1名という贅沢な少人数制だったので、しっかりと学ぶことができました。渡航前には、英語でいうと中学校卒業レベルくらいのモンゴル語力がついていました。
この経験から、少人数制で集中的に学ぶことは何かを学習するのにはとても有効なのだと実感しました。

言語を教える時に学習者の母語を使うのは有効だと思いますか?

学習者の母語を交えながら、授業をした方がいいと思います。モンゴルの小学校で教える場合、学習者はみんな同じ母語なわけです。母語を交えて説明することで、学習者がより日本語を理解できるのであれば使った方がいいですよね。

日本で教えるのと海外で教えるのとでは違いがあって、教師がその国で「マイノリティー」なのか、「マジョリティー」なのか変わってきます。
日本で、日本にいる外国人に日本語を教える場合、日本語を母語とする教師は「マジョリティー」になります。反対に海外では「マイノリティー」になります。海外で「マイノリティー」として生活した経験があると、日本で「マイノリティー」として生活する学習者に教える時、学習者の立場に寄り添う教え方ができると思います。本やネットで知る第三者の体験ではなく皮膚感覚で味わった自分の経験がそうさせるんですね。  
海外で心細い時に、ふと日本語を耳にすると安心するのと同じで、全く知らない言葉を学んでいるときに、相手が自国の言葉を使ってくれると安心します。そういう意味でも、母語は取り入れてよいと思いますね。

日本語教師になるための重要なスキルはありますか?

日本語教師が持っているとよいと思うスキルは3つあります。

    ①カウンセリングマインド

学習者が日本語を学ぶためには、どのようにサポートできるかを親身になって考えられるか。

    ②教師が第2外国語、第3外国語を学ぶ

英語ではない新しい言語を一から学ぶことで、外国語学習者が味わう悔しさやもどかしさ、できたときの達成感や充実感などを共有することができます。

    ③発想力

授業を組み立てる上で、どんな教材を使って、外国語学習者をサポートするかなど、発想力を使って考えます。さまざまなことに常にアンテナを張っておくと、全く関係のなさそうなことが教え方のヒントにつながります。ただ教えるだけでなく、いろんな活動の幅も広がりますし、他分野との連携がいかにできるかも重要ですね。

実際のところ、学習者の多数は研究者や教育者になるのではなく、ビジネスの世界へ行くと思います。そのため教師は一般教養としてマーケティングや経営学、会計学などについての知識を持っておくとより効果的な教え方ができると思います。それらの知識を盛り込みながら授業が進められます。例えば交渉学と合意形成についての知識があれば、ビジネス日本語の授業で価格交渉のロールプレイをした後に、フィードバックとして「実は交渉学では…」と教えることもできます。

英語は4技能(読む、書く、聞く、話す)それぞれで学習すべきと言われたりします。日本語教育も細分化される流れにありますか?

日本語教育でも似たような流れがあります。例えば、日本語教育の現場でも、英語教育のように、CEFR※のcan-do記述文を着想源とし、「何ができるようになるか」を重視する考えがあったり、「アカデミック日本語」「ビジネス日本語」「生活のための日本語」など目的ごとのクラスもあったりします。分野は違いますが、歯科医などは今かなり細分化が進んでいて、治療、審美、矯正などに特化した先生も出てきています。日本語教師も今後、より専門が重視されていくかもしれませんが、基礎的な教授スキル全般は持っていなければいけないと思いますね。

※CEFRとは、Common European Framework of Reference for Languages頭文字をとった略語で、日本語では「ヨーロッパ言語共通参照枠」と言います。外国語のコミュニケーション能力を表す指標のことで、欧州を中心に広く使われている国際標準規格です。レベルは、外国語の習熟度をA/B/Cの3段階で分け、それらをさらに2つに分け、A1・A2/B1・B2/C1・C2 というように計6段階で分けます。C2が最高レベルということになります。

自動翻訳機などが出てきていますが、AIはどう語学教育を変えると思いますか?

例えば、通訳翻訳機などを使えば、簡単に意思疎通が可能になります。そのため、外国語は学ばなくてもよいのではないか、と考える人も出てくるかもしれません。でも、だからと言って、外国語学習の意義がなくなるわけではないと思います。人にできてAIにできないことは何か。それは人の心に寄り添うことです。AIは機械的なものなので、人が困っている時にカウンセリング的なことができません。外国にいる人と接する場面でも同じことです。実際に、私がモンゴルで困っている際、日本語で共感的に話を聞いてくれたモンゴルの友人がいました。傾聴して聞いてくれることなどは言葉を知っている人間にしかできないことだと感じます。

今後はデジタルコミュニケーションが主流になるので、生のコミュニケーションよりもそちらを優先して学ぶべきだという意見もありますが、どちらかを選ぶのではなく、お互いのよいとこ取りをすればよいと思いますね。どちらか一方を選択すると、他にある無数のよい選択肢を見逃してしまいます。

言語をマスターすることにおいて重要なことはなんですか?

モチベーションですね。言語力は、学ぶことを継続させなければ力がつきません。いかに継続して学んでいくかが重要で、教師はそのサポーターだと思います。

また、外国語を学ぶのは早いうちからがよいと言われていますが、一概にそうとは思いません。発音をネイティブレベルに近づけるには、早い方がよいかもしれません。しかし、早く始めたからと言って母語と外国語の両方が成長するということは必ずしもありません。
例えば、母語が周りであまり使われない環境になると母語の基盤が危うくなるという場合もあります。そのため母語が確立してからの方がいい場合もあるので一長一短ですね。

将来やってみたいことはなんですか?

私はさまざまなことをさせてもらっていますが、出版が向いていると自分では思います。いずれは色々なメディアをミックスし、展開していけたらと考えています。そして、日本語教育がどうしたらワクワクするような面白い業界になるかを考えたり、他の分野に日本語教育の知識がどう生かせるか、などを伝えたりしていきたいですね。日本語教育って面白そうだなと感じてもらえたらと思います。ちなみに現在は、アナウンサーの方と一緒に共著の企画が進行していますので、いずれお目にかけることになると思います。そちらもご期待ください。

高嶋幸太(たかしま・こうた)

高嶋幸太(たかしま・こうた)

経歴:東京学芸大学日本語教育専攻卒、英国グリニッジ大学大学院MA Management of Language Learning修了。中学校・高等学校教諭一種免許状(国語)取得。専門は教師教育、第二言語習得、海外日本語教育など。

海外ではJICA青年海外協力隊の派遣国であるモンゴル、留学先のイギリスで日本語を教える。日本国内では大手企業の外国人社員に対する日本語教育にも携わる。また、立教大学や早稲田大学で日本語教育に従事する。これまでに教えた学習者は800名以上で、その出身国は100か国以上に及ぶ。その一方で、全国各地の商工会議所や地方自治体などで、日本語教育の知見を伝えるための講演・セミナー活動も行う。 

著書に『<初級者の間違いから学ぶ>日本語文法を教えるためのポイント30』(大修館書店、共著)、『日本語で外国人と話す技術』(くろしお出版、単著)、『日本語でできる外国人児童生徒とのコミュニケーション:場面別学校生活支援ガイド』(学事出版、単著)などがある。

個人HP『世界の日本語図書室 http://nihongo-toshoshitsu.jimdo.com/』を運営。

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