政府の働き方改革を背景に社会的に副業への関心が高まっています。日本語教師の中にも、日本語を教えながら別の仕事を掛け持ちしている人がたくさんいます。日本語教師と別の仕事の「二足(以上)の草鞋」を履き、生き生きとした毎日を過ごしているお二人をご紹介します。(地球人K)
働き方改革の文脈で日本語教師を捉える
日本社会は少子高齢化による深刻な働き手不足に直面しています。優秀な人材を確保するために、長時間労働の改善、柔軟な勤務形態の採用、仕事と育児の両立支援などに取り組む企業が増えてきました。そんな中で「副業」という言葉をよく耳にするようになりました。副業や兼業は新たな技術の開発、オープンイノベーションや起業の手段、第2の人生の準備として有効――2017年に国が発表した「働き方改革実行計画」では、副業のメリットとしてこのようなことが挙げられています。
「副業」と似た言葉に「パラレルキャリア」という言葉があります。パラレルキャリアとは、あの有名なピーター・ドラッカーが提唱した考え方で「本業を持ちながら、第二のキャリアを築く」という意味です。複数の「キャリア」を「パラレル(並行)」に持つということです。パラレルキャリアが副業と違うのは「必ずしも報酬を得ることを目的にしていない」ことです。自己のスキルアップ、自営業、ボランティア活動などもパラレルキャリアに含まれます。
一つの会社に終身雇用されるような時代は終わりつつあり、誰しもが各自の価値観を大切にして、自分の人生にどういうキャリアを築くかを考える時代になりました。そのキャリアの選択肢の一つとして日本語教師も位置づけられるかもしれません。日本語教育は実にいろいろな分野・領域との接点を持っており、さまざまな興味・関心・動機から日本語教師になる人がいます。多くの日本語教師は意識する・しないに関わらず、そのような何か大きなベースとなる価値観の上で、日本語を教えるという活動を通して自己実現をしているのかもしれません。
日本語教師は柔軟な働き方という点でも働き方改革と相性がいいように思います。自分のライフスタイルに合わせて教える曜日や時間、授業数などを調整することもできます。最近増えているオンライン日本語教師という形であれば、場所すら選ばずに、自宅からネットを通して世界中の学習者に日本を教えることも可能です。そのような副業・パラレルキャリアを実現しているお二人をご紹介したいと思います。
日本にいながら外国とつながる日本語教師はやめられない
日本語教師編集者 紺野さやかさん(30代女性)
大学で日本語教育の副専攻課程を修了した後、韓国の学院で5年間、日本語を教えました。教えている中でもっと使いやすい日本語教材はないかなと感じ、帰国後は編集プロダクションに入って、4年間日本語教材を含む外国語書籍の編集に携わりました。そこを退職した際に、日本語教師と編集者のどちらの道を選ぶかで悩んだのですが、結局、どちらの仕事も好きでしたので、欲張って両方やることにしました(笑)。今は週2回日本語学校で教えながら、それ以外の日はフリーで編集の仕事をしています。最近編集の仕事でお声を掛けていいただくことが増えているので、割合としては編集の仕事が7割ぐらいでしょうか。
2つの仕事を持っていていいことは、教育現場の声をそのまま教材に反映できるところですね。現場で困ったところから新しい本の企画が生まれますし、実際に作っている途中の教材を授業で使ってみての反応をもとに教材を修正することもできます。日本語を教えることが実用的な教材制作につながり、それがまた次の授業にも反映されます。
その一方、自分でしっかりメリハリを付けてそれぞれの仕事に集中しないと、両方のことが一度に頭の中に出てきて収拾が付かなくなってしまうことがあります。そのため、今は授業の前日は準備に集中するために編集の仕事を意識的に入れないようにしています。副業を持つなら、スケジュール管理や、職場の人たちとのコミュニケーションはとても大切ですね。
忙しくてもこれからも仕事の掛け持ちは続けていきたいと思っています。今は編集の方の仕事が忙しいですが、日本語教師という仕事は狭い日本にいながらにして広い外国とつながっていられる、自分にとってはとても魅力的な仕事なんです。視野がワールドワイドになるので、当たり前だと思っていたことも多角的に考えられるようになり、新しい発見の毎日です。これから増えていく外国人を日本できちんと受け入れられるよう、ささやかながらお手伝いをしていきたいと思っています。
日本文化を世界へ伝えるのに東奔西走する毎日
日本語教師企業支援NPO活動収益事業 小林誠二さん(60代男性)
大学卒業後に就職したのはアパレル業界で、そこで就職して15年、その後企業の組織経営を専門に研究する経営戦略研究所へ転職して17年、仕事はとても楽しかったです。57才で独立したのですが、それを機に日本語教師の資格を取りました。日本語教師は現在7年目になります。ビジネスパーソンとしての長年の経験が、日本語教師のキャリアにも生きています。これまでビジネス日本語のクラスの立ち上げ、教科書作りにも携わることができました。
私が一貫して追求しているテーマは「日本文化を海外へ伝える」ということです。それを実現するためにさまざまな仕事や活動をしています。日本語教師は正に日本文化の伝道師のような仕事でもあるのですが、企業支援の活動も日本独特の組織経営の中にある世界でも通用する優れた点を抽出したいとの思いからです。他には日本の漆芸文化を研究するNPOの副理事としての活動、環境機器やヘルスケア関連のビジネスなど、さまざまな活動をしています。今は、日本語教師としての仕事が全体の6割ぐらいでしょうか。
さまざまな活動を並行して行うときに大切なのがスケジュール管理です。うっかりしてダブルブッキングをしてしまわないように、スマホと手帳を活用しています。また、家族の理解も欠かせませんね。日本語の授業は夜間のクラスもあるので帰宅が遅くなったり、日によって繁閑の波があったりするので、体調管理にも気を付けています。忙しそうに見えるかもしれませんが、基本的に自分の好きなことをやらせてもらっているので、あまりストレスを感じなくて済んでいます(笑)。
今は中高年の男性で日本語教師を目指される方が増えていますが。そういう方々が特にビジネス日本語を教える際には、これまでのビジネス経験が生かされると思います。特に、オンラインで日本語を教えるニーズは、多くの場合相手がビジネスパーソンなのでなおさらです。日本語教育業界は、どちらかというとビジネス経験があまりないという方もおられるので、経験者は重宝がられますよ。
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いかがでしたでしょうか。
仕事はもちろん収入を得る手段ですが、食べるためや生きるためということにとどまらず、お二人とも自分自身の在り方を日本語教師や別の仕事を通して実現しているように思います。「二足(以上)の草鞋」を履く上で、スケジュール管理や周囲とのコミュニケーションの重要性はお二人に共通していました。「好きなことをしているので毎日が楽しい」と語る笑顔も一緒でした。
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