少しずつ慣れてきたオーストラリアでの日本語教師生活ですが、やはり働き方には大きな違いがあります。学校での一日の流れや日本の学校にはいない専門スタッフについてご紹介します。
まず、契約するにあたり、勤務時間はもちろんのこと、カソリック系の学校ということもあって、チャイルドケアについてはスクールカウンセラーから1時間かけていろいろな説明を受けました。生徒を指導する上で、教師が精神的、肉体的な虐待を与えてしまうことがないように、また逆に、生徒から教師への不適切な言動があった場合の対処についてでした。
また、家庭での虐待を見逃さないために、これまでの事例を使ってどのように対応すべきか、といったことまで詳しい説明を受けました。というのも、生徒の異変や虐待などに気付きながら報告の義務を怠ることは、教師としてというよりも、一人の市民として罪に問われてしまいますので。
日本とは大きく異なる一日の流れで気持ちも楽
本校は70分授業が1日4コマあります。木曜日は全校集会かハウス集会用のスケジュールですので多少異なりますが、基本的には、
8:40〜9:55 1時間目
9:55〜10:55 Pastoral Care(日本でいうHR。担任と異学年の生徒たちのグループで過ごす)
10:15〜11:25 2時間目
11:25〜12:10 ランチタイム
12:10〜13:25 3時間目
13:25〜13:50 Afternoon Tea
13:50〜15:00 4時間目
日本にいた時、前任校では1コマ45分でしたので、1コマ70分4コマの授業は慣れるまで苦労しました。ただ、授業の合間の休み時間が十分に取れること、そして会議などがない限り、放課後は基本的に15:30には帰れるので気持ち的にだいぶ違います。
日本では、授業が終わるとすぐ「帰りのショートホームルーム」、「掃除」、「会議」、「部活」、「生徒対応」、「保護者連絡」、「クラスや部活、学年などの会計処理」、そしてもちろん「授業準備」などなど、毎日てんてこ舞いでした。
本当に終わりの見えない仕事量を抱え、同僚もみんな勤務時間内に帰れずに疲弊していました。それでも「生徒のために…」と思って頑張っていましたが、勤務時間を遠に過ぎているのに自分の生活を犠牲にしてまでがむしゃらに頑張ることが、本当に生徒のためになっていたのかは大きな疑問です。
専門スタッフが仕事を軽減してくれる
では、僕が日本の学校でやっていたことを、本校では誰がやってくれているのでしょう。例えば、本校には全教員の印刷物を一手に引き受けてくれる印刷専門のスタッフがいます。ラミネート加工やカラーコピー、テストやポスター、その他諸々の印刷、そして文房具の手配なども、事前にお願いしておけば期日までに届けてくれます。僕はほぼ毎日、授業で使うハンドアウトの印刷などをお願いしていますので、本当にありがたい存在です!
他にも、学校に関わるすべての金銭の収入と支出を管理するファイナンス担当と秘書の方がいます。たいていの日本の学校では、部活やクラス会計などは教員の仕事でした。僕は会計の仕事が特に好きだったわけではないのですが、文化祭のクラス会計や部活会計などで数字が合わないと自分の財布から補填したり、どこが合わないのかと長時間商簿とにらめっこしたり、少額の買い物は自腹を切ったりということが多々ありました。
もし日本にも会計を担当してくれる専門の職員がいたら、日本の先生たちの負担とストレスがどれだけ軽減されることか。いま改めて、これは教員が担うべきでない業務のひとつだと思います。
そして、先述したスクールカウンセラーと心理学の専門家が本校には4人います。
着任当初の研修でもお世話になりましたし、担当している生徒の中にも医療的、精神的な配慮が必要な生徒たちがいるので、何度か個人的に相談に行ったこともあります。また、そうした生徒の個人情報は校内ネットワークで教員がいつでも閲覧できます。
彼らは、サポートが必要な生徒たちと定期的に面談して精神的な支えとなるだけでなく、得られた情報を随時アップデートしてくれます。さらに、対応に苦慮している僕のような教員の相談にも乗ってくれます。こうした校内でのバックアップ体制が、少しでも生徒と教師、お互いにとって健全な学校生活を送る上で大きな支えとなっているのは間違いありません。
教育の変化に伴いITのプロ集団も常駐
また、本校にはIT部門があり、コンピューターのスペシャリストたちが6人常駐しています。もちろん教師ではありません。
学校内のネットワーク管理だけでなく、ICT機器のメンテナンスや修理、活用方法についてもアドバイスをしてくれます。日本で働いていた時は、自費で購入したプロジェクターとMacBook Proをいつも教室に持参して授業していました。
しかし現在では、僕の日本語教室だけでなく、どの教室にもWi-Fi環境、プロジェクター、Apple TV、スピーカーが常設してあります。また、教職員全員にノートパソコンが支給さていますので、余計な会議のために時間を割く必要はありません。また、生徒たちは中学部がiPad、高等部がノートパソコンを購入しているので、授業ではほぼ毎時間活用しています。これだけでも授業内容の幅が広がり、本当に重宝しています。
一方で弊害として、必要ないところでiPadを使い、関係ないことをしている生徒も見受けられますので、功罪両方あるのかなあと。デジタルネイティブの彼らにとってはなくてはならない機器ですが、やはり使い方とモラルの指導をうまくできないといけないなあと感じる今日この頃です。
黒沢 毅(くろさわ・たけし)
神田外語大学外国語学部英米語学科卒業後、米国ミズーリ州カンザスシティ・グランドビュー高校にて日本語教師として勤務。帰国後複数の高校に勤務。埼玉県の公立高校で英語教師をしているときに姉妹校でもあるオーストラリアのシャロームカレッジに20名の生徒を6回引率。その縁から、日本の高校教師を辞め、2019年から日本語教師としてシャロームカレッジで勤務している。
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