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学習者の出身国について知ろう!-⑤ベトナム

皆さんが日本語を教えている学習者はどこから来ていますか。学習者の出身国、出身地域についてどれぐらい知っていますか。日本語や日本文化を教えるだけでなく、学習者の国や文化にも関心を持ち、少しでも知っておくと、思いがけない会話のきっかけになったり、学習者の考え方を知る手掛かりになったりすることもあるかもしれません。第5回はベトナムです。

ベトナムの基本情報

国名 ベトナム社会主義共和国

首都 ハノイ

人口 約9900万人

宗教 仏教(約80%)、キリスト教、その他の宗教

言語 ベトナム語

国内に住むベトナム人の数は特に近年急激に増えた印象がありますね。日本語学校や大学などで学ぶ留学生のほか、技能実習、特定技能の在留資格で滞在するベトナム人の数は今や中国を押さえてトップです。コンビニやスーパーで働くベトナム人の姿もすっかりおなじみになったのではないでしょうか。現在、ベトナム本国の経済成長や円安の影響で、日本で働くことはベトナム人にとってそれほど魅力的ではなくなってきていると言われますが、日本語学習者としてのベトナム人の存在はまだまだ大きいようです。

先生と友達とプライドが大切 ベトナム人学習者

国内の日本語学校で教えていると必ずと言っていいほどベトナム人学習者に出会うので、すでに「ベトナム人学習者はこんな人たち」だというイメージを持っている方も多いでしょう。中国、韓国、台湾などと同様に儒教精神が根強く、勉強に対して真面目で、先生をとても尊敬します。毎年11月20日はベトナムの「先生の日」。学校が休みになることはありませんが、いつもお世話になっている先生たちに花束や果物などのプレゼントを贈ることが多いようです。国によって日は違うものの同じようにメッセージやプレゼントを贈って先生に日頃の感謝の気持ちを表す「先生の日」が決まっている国は多いです。日本にはない習慣なので「先生の日、おめでとうございます!」とメッセージをもらうと、嬉しい反面戸惑ってしまうかもしれませんが、「ありがとうございます!」と返せば大丈夫です。いろいろな国の学習者が集まっているクラスでは、国では先生の日があるのか、いつなのか、どんなことをするのかなど、話してみるのも面白いのではないでしょうか。

真面目で先生を尊敬するベトナム人学習者ですが、一方で日本人の感覚からすると「えっ」と思うこともあります。現地で教える先生たちを悩ませるのが、テストのときに友達の答えを見てしまうカンニング。「友達同士助け合うのは大切なことだ」という考え方なので、テストのたびに先生対学習者で静かな攻防が繰り広げられる教室もあるようです。また、熱心に勉強する学習者が大半であるとはいえ、「できるだけ楽をしたい」と考えるのはどこの国でも同じです。ハノイで教えていた先生の話では、ひらがな、カタカナ、漢字の書き取りの宿題が面倒で、器用に鉛筆を2本持って1回で2行分の文字が書けるように工夫していた学習者がいたそうです。なかなか独創的なアイデアですね。

仮にそうした「これはちょっと」と思うような行動に気が付いたとしても、学習者を注意したり、叱ったりするとき教師は非常に気を遣う必要があります。ベトナム人(特に北部)はプライドと面子を大切にすると言われています。注意するときには人前ではなく、個別に呼んで話をするなどの配慮が必要になるでしょう。

ベトナム語「こんにちは、おかゆください!」

「中国語は発音が難しい」というイメージの原因となっている「声調」はベトナム語にもあります。しかも中国語よりも多い6声です。単語が短く、カタカナで書くと同じなのに声調の違いでまったく違う意味になってしまう言葉がたくさんあります。例えば「こんにちは」を意味する「シン・チャオ」。声調は「シン・チャオ⤵」と下がりますが、「シン・チャオ⤴」と上げると「おかゆください」という意味になります。

タイ語やミャンマー語と違って基本的にアルファベット表記なので、声調の符号やベトナム語独特のつづり(例えばd/gi/rはすべて日本語のザ行の発音になります)を覚えてしまえば読み方の検討をつけるのは比較的容易です。逆に日本語には声調符号のようなものはついていないので「日本語の文を読むときどのような音の高さで読めばいいのかわからず、慣れるまで困っていた」とベトナム人学習者が言っていたそうです。

こんにちは Xin cho!(シン チャオ)

ありがとう Cm ơn(カム オン)

すみません/ごめんなさい Xin lỗi(シン ローイ)

おいしいです! Ngon qu!(ゴオン クア)

がんばって Cố gắng ln!(コー ガン レン!)

相手に対する呼びかけの言葉が多いのもベトナム語の特徴で、「アイン(年上の男性)」「チー(年上の女性)」「エム(年下の人)」をつけて「チャオ、アイン!(こんにちは)」「カムオン、チー!(ありがとう)」のように言うことが多いです。

親切だけどちょっと近すぎる?人との距離

真面目で勤勉な人が多いことから、ベトナム人は日本社会になじみやすいと言われています。しかし、正反対なところもあり、その一つが人と人との距離。ベトナムは友達同士であれば体をぴったりとくっつけて座ったり、話すときの顔がとても近かったり、パーソナルスペースがとても狭い文化だと言えます。逆に日本は世界でもパーソナルスペースが広い国の一つです。学習者と話しているとどんどん顔が近づいてくるのでこちらは少しずつ後ろに下がり…とうとう壁際まで、ということもよくあるようです。日本人としてはあまり近づいてこられると居心地悪く感じるので、特に将来日本で働きたいと思っている人にはそうした文化的なことも意識してもらう必要があるでしょう。本人としてはごく自然な距離なのでなかなか直らないことも多いですが。

それに加えて男女ともに世話好きで優しい人が多いです。食事のときはすべてを取り分けて、飲み物もグラスが空かないようにすぐに注いでくれる気の使いよう。特に日本語教師として現地で生活している場合は、学習者たちが競うようにしてお世話をしてくれるそうです。「先生天国」と言われる理由の一つかもしれませんね。

シリーズ第5回はベトナムを取り上げました。いかがでしたか。有名なハロン湾のほか世界遺産も多く、料理もおいしいベトナムは日本人観光客がたくさん訪れる国のひとつです。すでに何度も行ったことがあるという方や一度は行ってみたいと思っている方も多いのでは?ベトナムは南北に長く、北部、中部、南部では方言も料理も習慣もかなり違うので、ベトナム旅行に行こうと思い立ったらぜひ周りのベトナム人学習者にいろいろ聞いてみてください。きっと喜んで説明してくれるでしょう。学習者にとって、自分の国のことを日本語で説明したという経験は日本語学校の外の世界でよりスムーズに日本人と接するためにもきっと役立つはずです。

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