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日本語教師プロファイル藤本かおるさん―ICTの分野で後に続く人を育てたい

今回お話を伺ったのは、武蔵野大学グローバル学部日本語コミュニケーション学科准教授の藤本かおるさんです。藤本さんといえば、日本語教育分野でのICT活用の第一人者であり、コロナ禍で急遽始まったオンライン授業のために、藤本さんの研修を受けた方もいらっしゃるかもしれません。このインタビューでは、ICTについてだけでなく、日本語教師となった経緯や、趣味のこと、そして今後の展望、日本語教師へのアドバイス等、大変興味深く、示唆に富むお話をお聞きすることができました。

エジプトで自分の母語を外国人に教える仕事があることに気づく

――日本語教師になる前はファッション業界にいらっしゃったと伺ったのですが。

はい、高校生の時、ファッションと歴史と両方興味があって、将来どちらに進むか迷っていたのですが、やっぱり高校生でキラキラした世界への憧れもあり、文化服装学院に進学しました。

――文化服装学院といえば、留学生にも人気の学校ですね。

私がいたのは今から30年も前ですが、その頃も留学生はいましたね。留学生だけでなく、今でいうLGBTQの方もいて、多様性のある環境だったと思います。文化でファッション小物の製作を3年ほど勉強して、バッグを作る会社にデザイナーとして入社しました。でも自分が作り手として理想とするものと普通の会社でやらなければならないことは違っていて…。

その頃、海外旅行でエジプトに行って生活環境が全く違うことに衝撃を受け、海外へ行ってみたいという気持ちが強くなりました。働きながらお金を貯めて、1995年にエジプトに留学しました。

エジプトでは、留学生が日本語学校で学ぶのと同じような感じで、毎日、朝9時からアラビア語の学校に通いました。観光ガイドの仕事もしていました。留学生活が2年半になった頃、さすがに将来どうしようか考えていたところ、ちょうどルクソールでテロがあったこともあって帰国することにしました。語学学校でネイティブの先生からアラビア語を学んだことで、自分の母語を外国人に教えるという仕事があることに気づき、面白いと思ったんですね。それで帰国後、日本語教師養成講座に通い始めました。また、日本語教師を目指したもう一つの理由に、もう一度エジプトへ行って教えてみたいということもありました。ただ、海外で教えるには専門学校卒だけではビザを取るのが難しいだろうと思い、放送大学に編入することにしました。本来は2年で卒業できたはずですが、働きながらの受講で卒業まで5年もかかってしまったのですが。

放送大学での卒論が「ICT活用について」

養成講座修了後、日本語学校で日本語教師としてではなく、ICT活用の研究員として仕事をしていました。パソコンルームの管理人みたいな感じですが。それで、放送大学の卒論もそのことについて書きたいと思っていました。東京外語大退官後ちょうど放送大学にいらした姫野昌子先生にご指導いただくことになりました。卒論を書くときにビジネス分野のeラーニング構築をテーマにしたいと相談したところ、姫野先生に「どんどんやったほうがいい、この分野はこれから絶対に必要になるから」と後押ししていただきました。姫野先生のご紹介で、他の先生の遠隔ゼミのアシスタントもしていました。当時、放送大学がインターネットもどんどん使っていこうということになっていて、卒業後も研究員として放送大学に残って、授業のオンライン化にも携わりました。

また、その前に受けていた養成講座の講師のお1人が首都大学東京(現東京都立大学)の西郡仁朗先生だったのですが、マルチメディア教育に興味があるということをお話したら、教材コンテンツを入力する人を探しているんだけどというお話で、そのお手伝いもしていました。そこでソフトの使い方も覚え、今考えると、お金をもらってスキルアップをしているような状態でした。

――ずいぶん早い段階からICT活用の研究に取り組まれていたのですね。

そうですね。完全オンラインのブレンディッドラーニングをどういう風にやるかで修士論文を書いたのが2007年ぐらいです。所属したNPO法人日本語教育研究所でもeラーニング教材の企画開発を行ったりしましたね。

コロナ禍で進んだICT活用を元に戻さないで

――現在では日本語教育の分野でICTといえば必ずお名前があがると思うのですが。

20年やってきて、ようやくという感じです。コロナ禍になって日本語教育界のICTへの取り組みがガラッと変わったということもあるんですが。

10年くらい前から日本語教育学会でICT活用のパネルセッションを何回かやりましたが、発表する人も来てくれる人もいつも同じで、ニーズは全然なかったんです。下手をするとそんなのがあったら私たちの仕事がなくなるんじゃないかなんて言う人もいて。それは、当時の皆さんの現場の文脈に沿っていなかったのでニーズが全くなかったんじゃないかと思います。しかし、コロナ禍になりオンラインで授業をしないとならない状況になって、ずっと続けてきたことは無駄にはならず、必要なことだったと感じています。

たまたま、2019年に『教室へのICT活用入門』(国書刊行会)という本を出したのですが、コロナ禍により外部からのICT関連の講習の依頼も増えました。

――現在、武蔵野大学ではどのような授業を受け持たれているのでしょうか。

以前教えていた首都大学東京(現東京都立大学)では留学生の日本語クラスも担当していたのですが、いわゆる外国人への日本語教育というのは現在はやっていません。現在は、学部では日本語や日本語教育とサブカルチャーに関する科目、大学院のほうでは日本語教育へのICT活用に関する科目を担当しています。これらは日本人の学生も留学生も履修しており、留学生の方が少し人数が多い感じです。

――日本語学校などでは2022年になって対面授業が再開し、また以前の方法に戻ってしまったという話も聞くのですが。

コロナが終わったから、もうおしまい。というのはすごくもったいないですよね。オンライン授業の経験、蓄積したデジタルコンテンツは普通に対面授業でも使っていけると思うんです。それを使うことによって学習者の学びやすさ、学習の時間が増えるという効果もあります。日本のギガスクール構想もそうですが世界的にも、これから授業中に普通にPCを使っていた学生たちが入ってきます。そうなった時に、授業中にスマホを見ちゃいけません、PCを使っちゃいけませんというのはナンセンスだと思います。

教室は先生とクラスメートがいなければできなることをやる場に

――先ほどのお話で、放送大学での学びに苦労したとあったのですが、それは具体的にはどのようなことでしょうか。

やっぱり通信教育なので、自律的に勉強することが難しいということです。だらけようと思えばいくらでもだらけられる。でもその経験のおかげで、1人でうまく勉強できない人に働きかけるにはどうしたらよいかというのも研究のテーマとなりました。教師がどう教えれば、どんなコンテンツを作ったら勉強する気になるか。動画を作っただけでは見てくれない学習者に見てもらう仕組みやルール作りにも興味を持っています。

――「反転授業」も実施されているとか。

はい、今の科目もそうですし、以前は日本語のアカデミックライティングや中級文法の授業などでも実施しました。私は教室を「先生とクラスメートがいなければできないことをやる場」にするべきだと思っています。ですから知識面はデジタルコンテンツを活用してもらい、教室は学習者が考えてアウトプットしたり、他の人と話し合ったりするなどの活動の場にしています。そして授業後、授業内の活動を学習者がICTを使って振り返りをするという流れを意識しています。

――「反転授業」の場合、教師が事前にデジタルコンテンツを作らなければならないことがネックだという話も聞きますが。

それは、動画を作る時に作りこみ過ぎないことですよ。以前はちょっと面倒でしたけど、今は皆さんZOOMに慣れたと思うので、一人ZOOMして録画しちゃえばいいんです。あと1本、1本の動画を短くすることも、動画作成のハードルを下げるコツです。そして、多少、噛んでも気にしないことも。(笑い)

日常着としての着物を愉しむ

――藤本さんといえば「お着物」のイメージも強いのですが。

私が住んでいる街に12,3年前からインドの方が多く住むようになり、当時、サリーやパンジャビスーツ等民族衣装を着ている方が多かったんですね、それで、日常着として民族衣装を着るのは有りなんだと思って。だったら着物を着てみようかと。その頃、日常で着られるカジュアルな着物がブームになり始めていました。また、日本語教師だし、日本文化的な習い事をしてみたいという気持ちもあって香道、そして茶道をはじめ、お稽古に着物を着ていくようになりました。

その後、コロナ禍になって、緊急事態宣言があり、外出が特別なことになりました。その特別な機会だから着物を着ようと。それから日本語の先生たちの気軽な支援を目的に、SNSで「ICTお悩み相談バーかおる」というのを始めたのですが、バーのママだから、やっぱり着物でしょ、って。その流れで、リモートワークで職場に人は少ないし良いかなと思って、通勤にも時々着物で行くようになりました。最初は同僚も「えっ、今日はどうしたんですか」みたいな反応でしたが、2,3回見ると慣れて気にしなくなることがわかって、そうなればこっちのもんです(笑)。また、海外とのオンラインのイベントでもこちらが着物姿だとテンション上がる気もしますね。

――大学のホームページでの紹介もお着物姿ですものね!

SNSは速報、興味を持ったら本物に触れてほしい

――これからの展望を教えて頂けますでしょうか。

大きな展望としては、いろんな人がICTのことについて研究するようになるといいと思っています。この分野では藤本だけど、別の分野では○○先生というようになってほしいです。

また年齢的に組織内で授業を持ったり研究が続けられるのもあと10年ちょっとかなと思っているので、後に続く人を育てる手伝いができるといいなぁと思っています。

――これから日本語教師を目指す人に何かアドバイスがあればお願いします。

そうですねぇ。いろいろあると思うんですが、本物に触れることと、まとまった文を読むことですね。SNSはツールの情報とか新しい情報を取るのはすごく便利なんですが、それだけで満足しないでほしい。SNSはいわば「速報」だと思ってほしいです。速報の中には間違ったもの不確かなものも含まれています。「速報」で興味をもったらちゃんとしたエビデンスのあるもので深く調べていくことが専門性につながります。また過去のものは、今否定されていたとしても価値がないわけではないと私は考えています。古いからと切ってしまうのではなく、なぜそれが「今」にそぐわないのか、どうして否定されるに至ったのか、それを知っていくことも必要で、意味があることだと思います。

取材を終えて

着物、香道、茶道といった日本文化的な趣味だけでなく、アートや音楽などにも造詣が深く多趣味な藤本さん。若い頃は机とくっついているとまで言われたインドア派だったそうですが、30代以降体を動かさないとやっていけないと、ランニングやウォーキング、トレーニングなども趣味になったそうです。いつも素敵な着物姿や美味しそうな情報をSNSにアップしてくださっています。

また教室へのICTの活用方法はご著書に詳しく説明があります。そちらも是非参考になさってください。

取材・執筆:仲山淳子

流通業界で働いた後、日本語教師となって約30年。6年前よりフリーランス教師として活動。

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