文化庁で2022年5月31日から月1回程度のペースで開催されている「日本語教育の質の維持向上の仕組みに関する有識者会議*1」は、日本語教師の国家資格の法制化に向けた詳細を検討する有識者会議です。2020年~2021年に「日本語教師の資格に関する調査研究協力者会議」が取りまとめた「日本語教育の推進のための仕組みについて(報告)」をベースとしながら、日本語教員の国家資格などについて具体的な検討を進めています。
日本語教育機関の認定について
日本語教育の質の維持向上の仕組みに関する有識者会議(以下、本会議)は、第1回会議(5月31日)、第2回会議(6月30日)を経て、第3回会議(8月3日)から実質的な日本語教育機関の認定制度の検討に入りました。前回までの会議で、日本語教育機関の認定制度のイメージは以下のように示されていました。
①日本語教育機関は文科相の認定を受けることができる。
②文科相は認定日本語教育機関の情報を多言語で公表する。
③認定日本語教育機関は文科相認定であることを広告などに表示できる。
④文科相は認定日本語教育機関に報告を求め、是正措置を講ずることができる。
日本語教育機関は教育機関として一定の質を維持することで文科相の認定を受け、認定を受けていることを対外的に公表することで、学生は教育機関をその教育内容によって選ぶことができるようになります。また、認定後にその教育機関の教育内容が一定の水準に達していない場合は、文科相は教育機関を「是正」させることができるとしています。そして、次回以降の本会議の検討事項になりますが、「認定日本語教育機関において日本語教育を担当する者は、登録日本語教員である」というイメージが第2回会議で示されています。
第3回会議では、日本語教育機関の認定に関することとして、
(1)認定の基準
(2)認定の手続き
(3)認定を受けた日本語教育機関に関する情報の公表(定期報告を含む)
(4)認定された日本語教育機関の評価(自己評価、第三者評価等)
などについて、委員からさまざまな意見が出されました。
日本語教育機関の告示基準とは?
中でも日本語学校関係の委員からは、法務省の「日本語教育機関の告示基準*2」に関連した意見が積極的に出されました。
これは、会議で示された「たたき台」の中に、「(日本語教育機関の認定は「留学」「就労」「生活」の類型に分けた上で)「留学」類型の機関については、現行の法務省告示基準などを参考に、課題の改善を含め、教育の質の維持向上を目指した基準とすることを基本とする。」との文言があったためと思われます。
「日本語教育機関の告示基準」とは、日本語学校を運営するために守らなければならないルールです。これに違反した場合、「留学告示別表第1に掲げる日本語教育機関が、次の各号のいずれかに該当し、留学生受入れ事業を行わせることが適当でないと認められる場合には、当該日本語教育機関を同表から抹消するものとする。」とされており、日本語学校関係者にとっては、その存続に直接関わる大切なものになります。「日本語教育機関の告示基準」は定期的に更新されています。日本語学校で教えたいと思っている日本語教師であれば、最新版(現時点の最新版は2022年4月1日一部改定)に一度目を通しておいたほうがいいでしょう。
「日本語教育機関の告示基準」では、名称、学則、設置者、教育課程、生徒数、校長、教員、事務職員、点検・評価、施設・設備、健康診断、入学者の募集、入学者選考、在籍管理、禁止行為、地方出入国在留管理局への報告などについて、事細かく定められています。これによって日本語教育機関に一定以上の基準が保証される一方、これによってさまざまなことが縛られている面も少なくありません。現行の「日本語教育機関の告示基準」の拘束力は大変強く、在留管理との関係からも完全に離れるわけにもいかないのかもしれませんが、改めて今回の日本語教育機関の認定に当たっては、「教育の質の維持向上」という観点からの見直しも必要かと思われます。
認定された日本語教育機関の評価は?
会議では、日本語教育機関の点検・評価についても多くの意見が出されました。点検・評価については、前述の「日本語教育機関の告示基準」の中にも以下の記載があります。
教育水準の向上を図り、日本語教育機関の目的を達成するため、次に定めるところにより、活動の状況について自ら点検及び評価を年に1回以上行うこととしていること。
イ 点検及び評価を行う項目をあらかじめ設定すること。
ロ 結果を公表すること。
この自己評価がどの程度実施されているかについては、第2回会議で文化庁から出された「令和3年度日本語教育機関における自己点検・評価等に関する実態調査結果概要」資料の中で数値が示されています。それによれば、自己点検・評価を実施している機関は9割以上に上りましたが、その結果を全て公表しているという機関は64.1%に留まっています。また、自己点検・評価ではなく第三者評価を実施して公表している機関は、わずか13.5%でした。
自己点検・評価とは自分たちの教育内容を自分たちで評価するものですから、客観性を保つのはなかなか難しいと思われます。また、機関や評価者によって評価の甘辛も発生する余地があるでしょう。本来であれば第三者による客観的かつ公平な評価が望ましいのでしょうが、そこまで踏み込んで実施している教育機関の数は限られているようです。
会議で示されたたたき台でも、「認定制度においては、(中略)自己評価を毎年実施することを義務とし、その結果の公表を求めるとともに、結果及び結果を踏まえた改善等の取組方針について国に報告することとする。さらに、客観的に日本語教育機関の質を専門的に確認する観点から、審議会の協力を得て、国による実施調査を実施する。その際、適切な第三者評価を実施する機関については、実地調査の頻度を減らすことにより、各機関による第三者評価の積極的な実施を促す。」と自己評価を基本とし、第三者評価は努力義務の位置づけとされていました。
「日本語教育の質の維持向上の仕組みに関する有識者会議」を傍聴しよう
「日本語教育の質の維持向上の仕組みに関する有識者会議」は、事前に申し込めばオンラインでの傍聴が可能です。傍聴に関するお知らせは、文化庁のホームページの「新着情報」に、会議実施日の数日前から掲載されます。募集期間が短いので、関心がある人は文化庁のホームページを小まめにチェックするようにしてください。
*1:
「日本語教育の質の維持向上の仕組みに関する有識者会議」
https://www.bunka.go.jp/seisaku/bunkashingikai/kondankaito/nihongo_kyoin/93710001.html
*2:
「日本語教育機関の告示基準」
https://www.moj.go.jp/isa/content/930005392.pdf
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