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もしもJLPT対策で文法を教えることになったら②

日本語能力試験対策授業の経験が浅い方に向けてのコラム第2弾です。前回は、まず日本語能力試験(JLPT)というものが、どんな特徴を持っているのか、求められているのは何かについて説明しました。JLPTの目的は「課題遂行のための言語コミュニケーション能力を測る」ことです。ですからコミュニケーション中心型の教科書を使うと合格できないというのは誤解で、むしろ場面や文脈が理解できる方が試験にも強いということを書きました。今回のコラムでは、JLPTの文法問題について、少し詳しく内容と対策を紹介していきたいと思います。

学習者に自分の得意、苦手を知ってもらおう

2022年1回目の日本語能力試験は7月3日(日)に行われました。試験を実施している日本国際教育支援協会によると合否結果は9月上旬の発送になるとのことです。ところで、私のまわりでも学習者が語彙や文法の問題を数多く間違えたので合格できないと嘆いているという話を聞くのですが、ちょっと待ってください。JLPTの問題は非公開で、持ち帰りも禁止されています。もちろん公式の解答速報などというものがあるはずもないのです。更にいうとJLPTの点数は尺度得点と言い、正解した問題数が得点になるわけではありません。この尺度得点は項目応答理論という統計的テスト理論に基づいて算出されます。ごく簡単に言うと、毎回の試験の難易度を全く同じにすることはできないので、難しい試験と易しい試験で不公平が出ないように得点を等化するということです。ですから学習者には、正式な通知が来るまでは、合否は分からないという点を是非伝えてください。

それでも、試験を受けた感覚として、難しかった、よくできた、分からなかった等はあると思います。教師としては、それらをうまく聞き取り、その後の指導に活かしていくとよいと思います。また学習者自身にも自分は何が難しいと感じたのかを意識してもらうことも、重要かと思います。もし出題された問題で覚えているものがあれば、メモを書いてもらいましょう。教師にとってはJLPTの内容の一端を知るチャンスにもなります。私自身も学習者から聞いて、「そんな問題がでたのか!」と驚かされた経験が何度もあります。それらは、印象としては、文法の練習問題にあるより、ずっと実際のコミュニケーションに近いものでした。

「文の文法1」はどう教える?

では、実際のJLPTの文法問題について、ここではN3からN1に限って説明します。まず初めに「文の文法1(文法形式の判断)」という大問があります。これは文の内容に合った文法形式かどうかを判断することができるかを問う問題です。問題数はJLPTのN3で13問、N2で13問、N1で10問です。

例えば以下のような問題が出されます。

例題(筆者作成)

 ・ここは、映画の撮影地(   )有名になる前は、のんびりした田舎町でした。

  1 に対して   2 と比べて  3 として  4 にしたがって

4つの選択肢のうち、(   )に入る適切なものを選びます。ここで、教師がやりがちなことは4つの選択肢の一つ一つについてどう違うのかを細かく説明することです。またネット上で見かける日本語学習者のJLPTに関する質問も、4つの選択肢の違いについてだけ注目し、文全体を見ていないと感じることが多いです。しかし大切なのは、まず文を見て、何を言おうとしているのかを考えさせることなのです。

もう一つ重要なものはコロケーションです。コロケーションというのは文や句の中で二つ以上の語の結びつきが強い連語的な表現のことです。言葉Aが来たら、次に言葉Bが来ることが多いということを知っていれば、選択肢すべてを理解できなくても答えられるのです。上の例文の場合は、「○○として有名になる」です。

このようなコロケーションは、多くの言語形式をバラバラに覚えていくのではなく、場面や文脈のあるテキストに多く触れることで培われていくと考えています。

また、時折、ネット上などのJLPT対策練習問題で、日本語教師でもどれが正答か迷うような微妙な問題が出されていることがあります。どれも文法的には使えるけれど、強いてあげるならこれが答えかなというタイプのものです。しかし、私は、そのような問題は実際にはJLPTには出題されないのではないかと思っています。何故なら公式問題集にはそのようなタイプの問題はないのです。もし同じような意味を表す表現が選択肢となっている場合は、明らかに文法上の間違いがあります。ですから教師としては、その点も学習者にアドバイスするとよいと思います。

「文の文法1」のN3以上で必ず出題されるのが、待遇表現です。会話形式になっているものが多いですが、店員と客の会話であれば、店員の行為には謙譲語を、客の行為には尊敬語を使うことを覚えていれば答えられます。また、敬語だけでなく、親しい間のカジュアルな表現も出題されます。

さらにN3以上、N2やN1であっても、初級レベルの基本的な文法を理解していないと答えられない問題があります。それは受身、使役、使役受身、自動詞他動詞、授受表現等、ボイスと呼ばれる文法カテゴリーの問題です。N3以上の試験では、そこに難しい語彙や長い修飾語がつくので分かりにくくなりますが、「誰が、誰に、何を、どうした/された/させた/してもらった」等の基本的な構造を理解しておくことが重要なのです。

「文の文法2」と「文章の文法」のポイント

文法問題の2番目は「文の文法2(文の組み立て)」です。これは統語的に正しく、かつ意味が通る文を組み立てることができるかどうかを問います。どのレベルも問題数は5問です。

例題(筆者作成)

 ・普通の家庭で              ★         奇跡に近い。

1 という彼が   2 入賞したのは  3 国際音楽コンクールで  4 育った

下線部に1~4の選択肢のどの言葉を入れると、意味の通る文になるかを考え、★印に来る言葉の選択肢を答えます。

こちらも、この文で何を伝えようとしているのか、述語に対する主語は何なのかを、まず理解することが大切です。そして下線部の直前、直後の語とのつながりをよく見ます。例えば「に」や「で」等の助詞や、「つい」「まるで」等の副詞があれば、次に何が来るのか分かりやすくなりますね。

名詞は修飾されていることが多いので、修飾関係も考えましょう。ここでもコロケーションの知識が重要になります。

文法問題の三番目は「文章の文法」で、文章の流れに合った文かどうかを判断することができるかを問う問題です。公式問題集を見るとN3で大体400字~500字の文章、N2で600字~700字、N1で700字~800字のまとまった文章の一部分が穴あきになっており、そこにどんな言葉や文を入れればよいか4つの選択肢から選ぶようになっています。この問題は読解力と文法力の両方が問われていると言っていいでしょう。よく出題されるのは「つまり、ところが、すると」等、接続詞の問題、「こ、そ、あ、ど」の問題、「わけだ、ようだ、だろう」等モダリティの問題です。

「文の文法2」も「文章の文法」も、普段から文章を多く読み、接続詞の使い方、コロケーション、文中の語の省略などに慣れて、理解力を養成しておくことが、実はJLPT合格への近道なのだと思います。

試験が近づいたら

最後に、JLPT公式問題集や試験対策用の模擬問題集の使い方ですが、これは本番の試験に慣れるために使いましょう。時間を測り、マークシートに鉛筆かシャープペンシルでマークする練習もやっておいたほうがいいです。学習者によっては鉛筆を使い慣れていない人もいますし、マークする欄を間違えて、答えが全てずれてしまったというケースも聞きます。消しゴムがよく消えなくてマークシートが真っ黒になってしまったということも。そんなことのないように準備しましょう。備えあれば憂いなしですから。

社会人の学習者の場合、人によって使える時間、学習ペースも違うので、本人が学習計画を立てるのが一番よいと思っているのですが、教師としてはJLPTについての正しい知識を持ち、アドバイス、サポートをできるようにしておくことが重要だと思います。2022年2回目のJLPTは12月4日(日)です。皆さんが教える学習者が良い結果を得られることを祈っています。

執筆:仲山淳子

『日本語文法ブラッシュアップトレーニング』(アルク)著者。流通業界で働いた後、日本語教師となって約30年。5年前よりフリーランス教師として活動。

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