2020年から続くコロナ禍により、日本語教育の世界でも授業のオンライン化が加速されました。しかしオンライン授業が一通りできるようになっても、マンネリを感じたり、今のやり方でよいのか悩んだりしている方も多いのではないでしょうか。今回はご自分で日本語教師のためのICT講座を主宰されているフリーランス日本語教師の嶋田裕子さんに、授業をもっと楽しく、インタラクティブにすることができる便利なツールや講座について教えていただきました。
ICTとの出会いは25年以上前
――嶋田さんは元々ICTが得意だったのですか。
そうですねぇ。1996年にWindows95を買って、いじったりはしていましたね。ちょうど双子を妊娠していたんですが、その情報がほしくて、当時はSNSなんて無い時代ですから、パソコン通信で双子のメーリングリストに参加して、双子のことだけでなく、パソコンについてもいろいろ情報交換しました。そのやり取りが楽しかったんです。そこで、見よう見まねで、自分でホームページを作ってみたりしました。
実は弟がパソコンおたくで、会社を持っていたので、ファイルメーカーでデータベースを作る仕事を手伝っていました。元々は日本語教師をしていたのですが、家庭の事情で、とにかく在宅で稼がなくてはならなくて、必死でパソコンのことを覚えたんです。それで弟の事務所の手伝いの他にWEBデザインの仕事も始めました。
弟が引っ越したのをきっかけに、弟の会社の仕事は辞め、また日本語教師に戻りたくなって、日本語学校で教えることにしました。その頃はシングルマザーになっていたんですが、子どもがまだ小さいので、日本語を教えるのは午前だけ、午後は家に帰って夜までWEBデザインの仕事をしました。
ICTは「かっこよさ」より「便利さ」
――日本語学校での授業にICTを取り入れるようになったのはいつ頃ですか。
2013年ごろですね。最初は紙のカードをデジタル化することからでした。絵カードをiPadに入れて授業で使いました。それを始めた理由は、かっこいいからとかではなく、カード一式を棚から出して、また元通りに並べて、元の棚に戻す。それが嫌だったから。いちいち戻すの、めんどくさいよね?って思っていました。それからiPadに入れておけば、カードを持っていないときでも、必要があれば見せることができるので便利だったんです。
その後、カードだけでなく、PowerPointも授業で使うようになりました。もっと本格的に授業に取り入れるようになったのは2017年にChromebookを買って、Google系のアプリを使うようになってからですね。その頃、日本語学校の専任を辞めてフリーランスという形になり、日本語教師のためのICT講座も始めました。
おすすめはPadlet
――今使っているツールでおすすめのものを教えていただけますか。
おすすめは、Padletですね。私は授業、宿題、連絡すべてに使っています。Padletはみんなで共有できる掲示板アプリです。一つの画面にいろいろな人が文字を書いたり、写真を張り付けたりできるツールなんですが、シェアが簡単なところがいいんです。作品や提出物などが保存されていくので、学生一人一人のポートフォリオとしても利用できます。一緒にクラスを担当している先生と共有することもできますしね。
私の目標は、とにかくペーパーレスなので、授業だけでなく、課題の配布、提出、添削、返却もすべてPadletとGoogle chromeの拡張機能であるAnnotateを使って行っています。Annotateは書き込みができるアプリです。
Padletの使い方は、一人一人問題をやってもらうこともできますし、例えば授業のアイスブレイクとして、昨日食べたものなんかの写真を見せながら話してもらうというような活動もできます。
課題の配布、提出、返却はGoogle Classroomを使ったほうが便利な場合も多いんですが、これを学校で使う場合、登録が必要なのと、学生一人一人のアカウントを作らなければならない点で、ちょっと使用が難しい場合もあります。その学校の校長や教務主任の先生がそういったことに熱心な場合はスムーズにいくんですけど。
その点、Padletの場合は、アカウントを作らなくても、掲示板のリンクを共有すれば、すぐ使えるところが便利です。
Google系のアプリもやっぱり便利!
――他にどんなものを使っていますか。
Padletを使いながら、授業での練習問題や小テスト、フラッシュカードなどには別のアプリも使います。例えばGoogle スライドで問題を人数分作って、学生一人一人に答えてもらう。それを画面上でシェアすれば他の人の解答も見られます。対面授業の時は紙を配っていたので、他の人がどんなことを書いたのか知ることはなかなか難しかったけれども、オンラインになるとそれが簡単になりましたね。他の人の作文などを見るのも勉強になるかなと思います。自分が分からなければ他の人のを真似して書いてもいいわけですから。
また、小テストを作るならGoogleフォームで、漢字などのフラッシュカードならQuizletを使うことが多いです。
他にGoogleのJamboardは皆で話し合うのにいいと思いますね。本物の会議のように、自分の意見を色の違う付箋に書き込んで話し合いを進めることができます。またゲームなどで使っても楽しいです。
――オンライン授業だと、画面共有をしても、教師の一方的な授業になる恐れがあると思いますが、紹介してくださったようなツールを使うと、インタラクティブな授業になりますね。
そうなんですよ。
――こういうツールは、日本語学校の場合、学校全体で使っていたのですか。
うーん、学校全体で使えればいいんでしょうが、なかなかそうできないこともあり……。私一人が担当する授業の時だけ使うということもありました。ただ、一緒にクラスを担当する先生が、それいいね!とか、わからないけど、やってみる!っていうタイプの先生だと、シェアしながら使えたので良かったです。
ICT集中講座を開催
――主宰されている日本語教師のためのICT講座について教えてください。
フリーランスになった2017年から、少しずつ実施していたのですが、今年になってから一連の講座を作って、もっと定期的にやっていくことにしました。
それは昔から付き合いのある日本語教師の仲間たちとゴールデンウィークの頃にZOOMでおしゃべりをしたことがきっかけです。その時、Padletって便利だよねという話をしたら、その仲間のほとんどが知らなかったんです。Twitterなどを見ていると、教育のICT化を進めている人がほんとに多くて、日本語教育でもPadletを使うのは常識だと思っていました。それで私もそろそろICT講座やらなくてもいいのかな、なんて思ってさえいたんです。でもあまりSNSをしない日本語教師の友人たちはPadletを知らなかったことに「あれ?」って。もしかしたら、いろいろ知らない人も多いのかも。じゃあ、シリーズ化してやってみようかなと思いました。
それで今回、9回の基本コースと、4回のプラスコースを作りました。基本コースでは「Padlet」、「Google ドライブ、Googleスプレッドシート、Googleフォーム」、「Googleドキュメント、Jam board」、「Padlet、Annotate、Googleスライド」、「Google keep、Quizlet」について学びます。
それぞれさらに深く学びたい人のためにプラスコースも設定しました。これらのコースは続けて取ってもいいですし、必要な回だけを受講しても構いません。ただ、ICT苦手という方には、基本コースの最初の3回は受講してほしいですが。それから、いわゆるプライベートレッスンの個別コースも作りました。というのも、グループだとどうしてもついていけない人が出てしまうので、そんな方には個別コースもおすすめです。実は1年以上、毎週受けてくださる方もいるんです。それから4年前に受講したけど、すっかり忘れちゃったので、また教えてくださいという方も。
授業は楽しく、教師は楽に。そのためのICT
――ICTが苦手な方に何かアドバイスはありますか。
自分はICTが苦手だと決めつけないでほしいと思いますね。私はICTを使って素晴らしい授業をすることを目指しているわけではないんです。むしろ、今ここでこれを身につければ、授業が楽しくなる、いや、もっというと“楽になる”ので、頑張ってやってみましょうと言いたいです。
私はこれまでずっと、日本語教師の待遇を上げたいと思ってきました。最低でも一人暮らしの日本語教師がちゃんと食べていけることが大切です。そのためには授業準備、添削、採点などをもっと楽にしないと。授業準備で徹夜とかしていたらダメなんです。仕事を効率化し、メールやコピーを減らしましょう。教材は教師仲間と共有できるようにして、いつでもどこでも取り出せるようにしましょう。そのためのICTなんです。そうやって教師が楽になれば、授業の質も上がって、教師も学習者も幸せになると信じています。
嶋田さんのホームページ【日本語ビー玉ネット】 http://nihongo-bdama.net/
【ICT講座】【週末】【基本コース/プラスコース】
https://dark-fish-a70.notion.site/ICT-11bf509b4d0048faa44b4395f7eff8df
【ICT講座】【個別コース】
https://dark-fish-a70.notion.site/ICT-a5e35420af804a5daa989851b297fd84
取材を終えて
私自身も嶋田さんのICT講座を、グループでもプライベートでも受けたことがあります。自分が不安な時、家庭教師のように教えてくれる存在がいると思うと本当に安心でき、頼りになります。そして、私たちのICT隊長嶋田裕子さんは、日本語教師の待遇を上げることにも熱い思いを持った方なのでした。
取材・執筆:仲山淳子
流通業界で働いた後、日本語教師となって約30年。5年前よりフリーランス教師として活動。
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