文化庁が毎年行っている調査に「国語に関する世論調査(以下、調査)」があります。これは、日本人の国語に関する意識や理解の現状について調査し、また、国民の国語に関する興味・関心を喚起するものとして毎年実施しているものです。今回はこの中から、言葉の変化に関するトピックをご紹介します。
ら抜き言葉
「ら抜き言葉」は、日本語の変化の代表的なものです。「ら抜き言葉」とは、動詞の可能形から「ら」が抜ける現象のことです。文化庁の調査でもこれまで何度か取り上げられてきましたが、直近では平成27年度で取り上げられました。そこでは、既に「ら抜き言葉」が市民権を得ており、時には「正用」以上に使用されていることが分かります。〇が「正用」とされている形、太字が多数派を表します。
〇朝5時に来られますか
朝5時に来れますか
これは「正用」と「ら抜き」の使用者の割合がほぼ同じだった例です。しかし次の2つの例では、平成27年時点で既に「ら抜き」が「正用」を上回って使用されていました。
今年は初日の出が見れた
〇今年は初日の出が見られた
早く出れる?
〇早く出られる?
日本語教師としては、可能表現を教える時に悩ましいところでもあります。学習者は教室では「正しい形」を習いますが、教室の外では「ら抜き」言葉を耳にすることの方が多いのかもしれません。言語使用の実態と規範の折り合いをどう付けていくか、考えなければならない問題です。
さ入れ言葉
「ら抜き言葉」と並んで、日本語の変化を説明する現象として、日本語教育能力検定試験などにもよく取り上げられるのが「さ入れ言葉」です。「さ入れ言葉」とは、本来は「さ」が入っていない動詞の使役形に「さ」が入る現象のことです。
同じく平成27年度の調査では「さ入れ言葉」と「正用」の使用度合いを比較しており、そのいずれの例でも、「正用」が「さ入れ言葉」を上回っていました。「さ入れ言葉」は「ら抜き言葉」ほどは、まだ浸透していないとも言えそうです。
〇明日は休ませていただきます
明日は休まさせていただきます
〇今日はこれで帰らせてください
今日はこれで帰らさせてください
〇担当の者を伺わせます
担当の者を伺わさせます
「~る」「~する」形の動詞
日本語、特に漢語は非常に造語力があると言われてます。平成25年度の調査では、「~る」「~する」形の動詞について、聞いたことがあるか、使うことがあるかを聞いています。ここでは、「使うことがある」の多い順に並べてみます。( )内の数字は%です。
チンする:電子レンジで加熱するの意味 (90.4)
サボる:なまけるの意味 (86.4)
お茶する:喫茶店やカフェなどに入るの意味 (66.4)
事故る:事故を起こす、事故に遭うの意味 (52.6)
パニクる:慌ててパニックになるの意味 (49.4)
愚痴る:愚痴を言うの意味 (48.3)
告る:(好意や愛を)告白するの意味 (22.3)
きょどる:挙動不審な態度をするの意味 (15.6)
タクる:タクシーに乗るの意味 (5.9)
ディスる:けなす、否定するの意味 (5.5)
「名詞+する」「擬音語+する」「外来語+する」など、さまざまなパターンが見られます。文化庁の調査には出てきませんが、この他にも例えば、ググる:Googleで検索するの意味、ポチる:オンラインショップで購入するの意味、テンパる:焦るの意味など、かなり一般的に使われている例が容易に思い浮かびます。これからも若い世代を中心に、このような新しい動詞は無限に生まれてくるように思われます。
普段使いの日本語
日常会話で使う表現の中にも、日本語の変化が見て取れます。ここでは平成23年度の調査から、使う人の割合が増えつつある表現を中心にご紹介します。( )内の数字は%です。
「あの人は私より1歳上だ」ということを「あの人は私より1コ上だ」と言う (56.9)
「腹が立つ」ということを「むかつく」と言う (51.7)
「あの人は走るのがすごく早い」ということを「あの人は走るのがすごい早い」と言う (48.8)
「ゆっくり、のんびりする」ということを「まったりする」と言う(29.0)
「なにげなくそうした」ということを「なにげにそうした」と言う(28.9)
「とてもきれいだ」ということを「チョーきれいだ」と言う(26.2)
「正反対」ということを「真逆(まぎゃく)」と言う(22.1)
「しっかり、たくさん食べよう」ということを「がっつり食べよう」と言う(21.8)
「中途半端でない」ということを「半端ない」と言う(20.1)
特にここでは触れませんが、それぞれの言葉の使用頻度には年齢層との関係があります。若い世代で主に使われているもの、中年層で多く使われているものなど、それぞれの言葉に世代的な特徴があることが分かります。興味ある方は、ぜひ文化庁のサイトを見てみてください。
変化する言葉、新しく生まれる言葉、そして消えていく言葉。まるで生き物のような日本語の生態を眺めながら、その社会的・時代的背景などをいろいろと考察してみてはいかがでしょうか。
国語に関する世論調査(文化庁)
https://www.bunka.go.jp/tokei_hakusho_shuppan/tokeichosa/kokugo_yoronchosa/index.html
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