令和3年度の日本語教育能力検定試験は2021年10月24日に行われます。残すところ5カ月を切り、そろそろ本気モードで準備を始めている方も多いと思います。ここでは、毎日忙しくてなかなかまとまった勉強時間が取れないという方のために役立つアイデアをご紹介します。(新城宏治)
言葉にすることで知識が着実に定着する
これまで多くの日本語教育能力検定試験の合格体験談を聞いてきましたが、多くの方は当然のことながらお仕事を持っていたり、あるいは家庭や子育てに忙しかったりと、必ずしも十分な試験勉強の時間が取れなかったというケースがほとんどでした。忙しい方は時間の使い方が重要です。特に朝は頭もすっきりしていますので、家を出てから駅まで、あるいは電車に乗ってから職場に着くまでの通勤時間は有効に活用したいものです。もちろん、参考書を読んだり問題集を解いたりしてもいいのですが、中には満員電車の中で本を開くことすら難しいという方も少なくないと思います。
今回ご紹介するのは、自分の頭の中で「日本語教育能力検定試験の重要キーワード」を自分に対して説明してみるという方法です。満員電車の中でも、道を歩きながらでも、特別な本やスマホなどを使わなくても頭の中だけでできます。
例えば以下のような項目だけのリストを準備し、1日に10個などと決めておいて、毎朝それを頭の中で、まとまった形で説明してみましょう。今回は、「記憶」に関連するキーワードをピックアップしてみました。
・短期記憶と長期記憶
・ワーキングメモリー
・リハーサル
・宣言的知識
・手続き的知識
・自動化
・意味記憶
・エピソード記憶
・明示的知識
・暗示的知識
自分に対して頭の中で説明するのですから、あまりきれいにまとまっていなくても大丈夫です。例えば以下のような説明ができれば十分です。
「記憶には、短い時間だけ覚えている短期記憶と長く記憶しておける長期記憶があった。短期記憶を長期記憶にするためには、他の知識と関連付けたり、繰り返すことなどが有効で、前者を精緻化リハーサル、後者を維持リハーサルというんだった。ワーキングメモリーでは短期的な情報の保持と処理を並行して行うのがポイントで、情報量が多くなると処理速度が落ちるんだった」
「長期的記憶は宣言的知識と手続き的知識に分けられる。さらに宣言的知識は、言葉の意味などに関する意味記憶と一連の出来事に関するエピソード記憶に分けられるんだった。宣言的知識は言葉で説明できるもの、手続き的知識は自転車の乗り方など、体得するもの。宣言的知識が手続き的知識に移行することが自動化だから、頭で覚えた英単語や英文法の知識を使って、意識せずに英語が話せるようになることも自動化の一つ」
「明示的知識とは言葉で説明することができる知識であり、暗示的知識とは言葉で説明することができなくても自然と身に付けた知識。例えば、一般的な日本人にとって、英語の文法に関する知識は明示的知識(言葉で説明できる)が、日本語の文法に関する知識は暗示的知識(言葉で説明できない)になる」
などと頭の中で説明していくと、うまく説明できないところ(自分の知識や理解があやふやなところ)が見えてきます。そうしたら参考書のその個所を読み直して確認し、自分の記憶を確かなものにしておきましょう。
聴解試験の対策にも効果を発揮
この方法は聴解試験の対策にも有効です。聴解試験は何度も音声を聞いて耳を慣らすことも大切ですが、その前に音声学についての知識をきちんと身に付けておかなければなりません。「拍」「アクセントの型」「有声・無声」「母音」などについての知識がなければ、いくらたくさんの音声を解いてもあまり効果はありません。
中でも、日本語教育能力検定試験によく出題される「子音」については、その子音を聞いたときに、頭の中で調音点と調音法を即答できるようにしておくことが大切です。以下のように、50音表の順番に調音点と調音法を頭の中で答えてみましょう。赤字のところを瞬時に答えられるようにしておきましょう。
1 子音(無声)
サ・ス・セ・ソ→歯茎摩擦音
シ→歯茎硬口蓋摩擦音
タ・テ・ト→歯茎破裂音
チ→歯茎硬口蓋破擦音
ツ→歯茎破擦音
ハ・ヘ・ホ→声門摩擦音
ヒ→硬口蓋摩擦音
フ→両唇摩擦音
パ・ピ・プ・ペ・ポ→両唇破裂音
2 子音(有声)
ザ・ズ・ゼ・ゾ→歯茎摩擦音(「ン・ッ」の直後以外の語中)、歯茎破擦音(語頭、「ン・ッ」の直後)
ジ→歯茎硬口蓋摩擦音(「ン・ッ」の直後以外の語中)、歯茎硬口蓋破擦音(語頭、「ン・ッ」の直後)
ダ・デ・ド→歯茎破裂音
バ・ビ・ブ・ベ・ボ→両唇破裂音
ナ・ヌ・ネ・ノ→歯茎鼻音
ニ→歯茎硬口蓋鼻音
鼻濁音→軟口蓋鼻音
ラ・リ・ル・レ・ロ→歯茎弾き音
ヤ・ユ・ヨ→硬口蓋半母音
ワ→軟口蓋半母音
3 これができたら、母音についてもやってみましょう。
ア→低母音
イ→前舌・高母音
ウ→後舌・高母音
エ→前舌・中母音
オ→後舌・中母音・円唇
これらができるようになったら、今度は逆に、調音点(両唇・歯茎・歯茎硬口蓋・硬口蓋・軟口蓋・声門)や、調音法(摩擦音・破擦音・破裂音・鼻音・弾き音・半母音)から、該当する子音を考えてみましょう。これを毎日繰り返すと、試験本番に大いに効果を発揮します。本番の聴解試験の問題3の対策は、通勤時間を使ったこの練習に加えて、口腔断面図の違いを見分けられるようになれば十分です。
令和3年度日本語教育能力検定試験 実施要項
【出願期間】令和3年7月5日(月)から8月2日(月)まで(当日消印有効)(予定)
【試験日】令和3年10月24日(日)9:00~16:40
【受験料】14,500円(税込)
【試験地】(予定)】北海道、東北、関東、中部、近畿、中国、九州
【合否結果通知の発表】令和3年12月24日(金)(予定)
詳細:https://www.nisshinkyo.org/news/pdf/F-2021-01-2.pdf
執筆:新城宏治
株式会社エンガワ代表取締役。日本語教育に関する情報発信、日本語教材やコンテンツの開発・編集制作などを通して、日本語を含めた日本の良さを世界に伝えたいと思っている。
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