多くの日本語教師にとって関心の高いトピックと思われる「日本語教師の国家資格化の動き」について、2021年4月現在の状況をまとめておきます。なお、今後の法制化の動きの中でいろいろな変更が生じる可能性もあります。最新の状況は随時、こちらの日本語ジャーナルでご紹介していきます。
現有資格者とは?
出入国在留管理庁が定める「日本語教育機関の告示基準」では、教員は次のいずれかに該当する者であるとしています。
イ 大学(短期大学を除く)又は大学院において日本語教育に関する教育課程を履修して所定の単位を修得し、かつ、当該大学を卒業し又は当該大学院の課程を修了した者
ロ 大学又は大学院において日本語教育に関する科目の単位を26単位以上修得し、かつ、当該大学を卒業し又は当該大学院の課程を修了した者
ハ 公益財団法人日本国際教育支援協会が実施する日本語教育能力検定試験に合格した者
ニ 学士の学位を有し、かつ、日本語教育に関する研修であって適当と認められるものを420単位時間以上受講し、これを修了した者
ホ その他イからニまでに掲げる者と同等以上の能力があると認められる者
つまり、日本語学校などの日本語教育機関で日本語を教えるためには、大学などで専門に勉強した人以外は、日本語教育能力検定試験に合格しているか、420時間の日本語教師養成講座を修了していることが必要とされています。
現有資格者の扱いの方針変更
令和元年度(2020年3月)に文化審議会国語分科会が取りまとめた「日本語教師の資格の在り方について(報告)」では、この現有資格者(出入国在留管理庁が定める「日本語教育機関の告示基準」の教員要件を満たす者)が公認日本語教師を目指す場合の扱いについては、以下のように記載されていました。
新たな資格となる公認日本語教師の要件を満たす者として、十分な移行期間を設け、公認日本語教師として登録を行えるようにすることが適当である。
ところが、現在、この件について議論されている「日本語教師の資格に関する調査研究協力者会議」では、現有資格者について以下のような案が提示されています。
原則として筆記試験及び教育実習を経て日本語教師の資格を取得することとする。ただし、質が担保されている機関で一定年数以上働く等、教育の現場における実質的な資質・能力が担保される者に関しては、教育実習の免除を検討するなど配慮が必要なのではないか。
つまり、現有資格者にも、改めて筆記試験や教育実習を求めるとしています。なぜ、このような大きな変更があったのでしょうか。
現有資格者がそのまま公認日本語教師に移行した場合の課題
「日本語教師の資格に関する調査研究協力者会議」では、現有資格者がそのまま公認日本語教師に移行した場合の課題として、次の5つを挙げています。
・資格は日本語教師の質の向上を図るための制度であり、資格の取得にあたっては、筆記試験及び教育実習により、共通の基準に基づき、要件を満たしている者であるかどうかの評価が必要である。
・近年の社会状況や日本語教育を行う機関を取り巻く状況の変化も踏まえ、日本語教師に求められる資質・能力は時代に応じて変わり得るものであり、現在必要とされる資質・能力を備えているかについて、客観的に確認することが必要である。
・これまで閣法(内閣提出法案)で成立した類似の名称独占国家資格では、資格取得にあたっては試験を課すこととしている。
・一方で、日常的に日本語を教えている現職日本語教師に対して教育実習を課す必要があるかは議論が必要。例えば、教育内容の質が担保されている日本語教育を行う機関で働く現職日本語教師には教育実習を免除する等、何らかの配慮が考えられるのではないか。
・資格は名称独占国家資格として検討しており、資格を有していない者であっても引き続き日本語教育を行う機関において勤務することが可能である。また、法務省告示校に配置されるべき、資格を取得している者の割合については、今後、日本語教育を行う機関を取り巻く状況を踏まえつつ慎重に検討が必要。
国家資格としての質の維持、他の名称独占の国家試験との整合性、過去ではなく現在において必要とされる能力を客観的に確認する必要性など、さまざまな課題を解決しなければならないとのことです。そのための共通の指標として、筆記試験(日本語教育能力を判定する試験)の合格は一律に求められるようですが、教育実習は免除の余地が残されているようです。現在の有資格者全員に教育実習を課すことは、現実的に考えてもなかなか難しいものがあるように思われます。
日本語教育能力検定試験の出題範囲の移行
もう一つ気になることがあります。公認日本語教師を認定するための「日本語教育能力を判定する試験」が行われた場合、現在の日本語教育能力検定試験はどうなるのでしょうか。
これについては明確なことは決まっていませんが、現在、公開されている令和3年度の日本語教育能力検定試験の出題範囲(http://www.jees.or.jp/jltct/range.htm)の中に以下の記述があります。
出題範囲
次の通りとする。主要項目のうち、「基礎項目」(太字)は優先的に出題される。 ただし、全範囲にわたって出題されるとは限らない。
※令和4年度の試験より文化審議会国語分科会が取りまとめた「日本語教育人材の養成・研修の在り方について(報告) 改定版」のp.43「日本語教師【養成】における教育内容」に準じた出題範囲へ移行する予定。
この「日本語教師【養成】における教育内容」は、今後実施されるであろう公認日本語教師を認定するための「日本語教育能力を判定する試験」の出題範囲でもあります。つまり、令和4年度(来年度)からの日本語教育能力検定試験の出題範囲は、公認日本語教師を認定するための「日本語教育能力を判定する試験」の出題範囲に準じたものになります。ここから、今後の「日本語教育能力検定試験」と「日本語教育能力を判定する試験」の関係がぼんやりと見えてきます。
「日本語教師の資格に関する調査研究協力者会議」を傍聴しよう!
現在のところで現職の先生方が気になることとしては、以下のようなものが挙げられるるのではないでしょうか。
・「日本語教育機関の告示基準」で公認日本語教師がどう位置づけられ、配置されることになるのか(公認日本語教師の割合、時期など)。
・公認日本語教師を目指す場合、公認日本語教師を認定するための「日本語教育能力を判定する試験」(筆記試験)を受験しなければならないのか。
・公認日本語教師を目指す場合、改めて教育実習を受けなければならないのか。
「日本語教師の資格に関する調査研究協力者会議」はオンライン会議で行われており、事前に申し込めば誰でも傍聴できます。2021年は1月から毎月会議が開催されていますので、5月も会議があるかもしれません。開催予定は文化庁の報道発表を注視してください。この大事な議論をぜひ多くの方に傍聴していただければと思います。
「日本語教師の資格に関する調査研究協力者会議」の過去の配布資料や議事録は、以下をご確認ください。
https://www.bunka.go.jp/seisaku/bunkashingikai/kondankaito/nihongo_kyoin/92369001.html
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