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世界の日本語教室から~俳句を授業に取り入れた台湾の教室活動

コロナの封じ込めに成功していることで話題に上る台湾ですが、親日的で日本語学習者が多いことでもよく知られています。今回はその台湾での、日本文化の一つである俳句を授業に取り入れた実践をご紹介します。お話を伺ったのは、中国文化大学社会人生涯学習センター、淡江大学兼任講師の虞安寿美先生です。

留学生が作った俳句の豊かさ、新鮮さ

――まず、授業に俳句を取り入れようと思ったきっかけを教えてください。

アクラス日本語教育研究所代表理事の嶋田和子先生と親しくさせていただいているのですが、その嶋田先生のフェイスブックで、東京・中野にあるイーストウエスト日本語学校で毎年行われている俳句コンテストのことを知ったのがきっかけです。2020年は11月末にコンテストが行われました。

――それは、どういうコンテストですか。

イーストウエスト日本語学校の留学生がそれぞれ俳句を詠み、それを地域のさまざまな方が選句して、コメントを寄せるというものです。ぜひ台湾からも投票したいと思い、私が受け持っている淡江大学3年生の作文クラスで俳句を紹介しました。

――俳句を見た大学生の反応はいかがでしたか。

まずは多くの大学生が、「日本にいる留学生はこんなにすごい俳句を詠むのか」と、そのレベルの高さに驚いていました。大学生が日頃接しているのは教科書の日本語です。それは非常に完成されている日本語です。一方、留学生が書いた日本語というものは、教科書の日本語とは全く違って個性的で、豊かな表現にあふれています。大学生にとっては、それが非常に新鮮だったようです。

――そもそも俳句というものは、皆さんご存じなんでしょうか。

クラスの中には俳句についてある程度の知識のある学生もいました。もちろんそうではない学生がほとんどですので、授業の最初には、私のほうから俳句の歴史、背景、テーマ、季語などについて一通り説明しました。また作文の授業ですので、俳句の特色を理解するとともに、それを味わった上で感想やコメントを書いてもらうことにしました。

故郷を思う気持ちはどの国も同じ

――どのような俳句が学生から人気がありましたか。

学生から多くコメントが寄せられた句をご紹介しましょう。イーストウエスト日本語学校の俳句コンテストで反響が大きかった句もありますが、必ずしもそればかりとは限りません。コメントに日本人と台湾人の感性の違いが出ていることが面白いと思いましたし、俳句を通した日本語教育の新しい可能性を感じました。

① 空仰ぎ 離れていても 同じ月

② 菊が咲き 誇る上海 太い蟹

③ 風立ちぬ 悩み飛んでけ 銀杏(いちょう)散る

④ 秋の夜 君の目と星 輝いた

⑤ 破蓮(やれはちす) 錆(さび)色深し 暮れを告げ

人気が高かったのは①の故郷を思う句でした。淡江大学は台湾北部にあるのですが、クラスの中には南の高雄から親元を離れて学んでいる学生、マカオから留学している留学生などもいて、共感するところが大きかったようです。

――②の句はなかなかユニークですね。

②も人気の高かった句です。日本人ならこの句の季語は菊で、季節は秋と判断すると思いますが、台湾の学生にとっては、秋の季語は菊よりも蟹なんですね。そして上海蟹の足が太くなる季節に、故郷の上海を離れて日本で学ぶ留学生の望郷の念に、自分自身の思いを重ねたようです。

――例えば③を使った実際の授業は、どのように進めるのですか。

まず季語を確認しました。次に作者の気持ちを想像するために「『悩み』ってどんな悩みだろう?」などと質問してみました。そうすると「悩みを銀杏の葉に例えているのだと思います」などの反応も返ってきました。また、学生からは「『風立ちぬ』の“ぬ”は“ない”ですか」という質問がきたりもしました。私から「“銀杏の葉が散る”って書いてあるね」とヒントを出すと、「あ!映画の『風立ちぬ』! 起風(風が吹いた)!」と自ら答えを見つけていました。台湾で宮崎駿監督の『風立ちぬ』が大ヒットしたこともあって、学生の理解は早かったです。

――④の句はとても若者らしい句ですね。

この句だったら、「(私と)君とはどういう間柄でしょうね」などと質問します。「恋人」「友達」「片思いの相手」などと、いろいろと意見が出てきますよ。

――⑤の句は、難しい漢字や語彙が含まれていますね。破蓮(やれはちす)という言葉は、恥ずかしながら初めて聞きました。

台湾にも蓮はありますが、蓮と聞いて一般的に思い浮かべる季節は夏でしょうし、思い浮かべるものは蓮の花もしくは蓮の実でしょう。蓮の実は漢方薬になりますからね。でも、ここで扱っているものは蓮の葉です。しかも破れている。学生には、この句の季節はいつで破蓮とは何かを考えさせました。そして最後に破蓮の写真を見せました。

――非常に内容の深い授業だと思います。ところで学生にとっては、俳句という「世界で一番短い詩」を作ったり読んだりするのは、なかなか大変なのではないでしょうか。

いえ、そんなことはないんですよ。俳句は短いので、季語を決めれば、後は文法が苦手な学生でも実は形になりやすいんです。長い作文を書くのが苦手な学生にとっても17文字というのはハードルが低くて、作りやすいんですよ。

――そうなんですか。知りませんでした。

それから俳句は日本語の音声、特に拍感覚を身につけるのにも最適ですね。文字数と季語というルールがあるゲームのような感覚で学生は取り組めるんだと思います。

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学習者同士が日本語でつながる活動を続けたい

――2021年になりましたが、台湾がコロナの抑え込みに成功していると言われている一方で、日本はまだコロナが収まっていません。こういう状況の中で、台湾で日本語を学ぶ学習者はどのような気持ちで日本語を学んでいるのでしょうか。

私が教えている淡江大学の日本語学科の学生の中には3年生の時に日本に短期留学する学生もいるのですが、学生にとって一番かわいそうだったのは、コロナによって日本へ行くチャンスがなくなってしまったことです。また、社会人もしばらくは日本へ旅行に行けなくなってしまいました。台湾では日本語との接触場面がもともととても少ないのですが、それがコロナによって更に減ってしまったのは残念です。

――本当にそうですね。早くコロナが収まって、また多くの台湾の人たちに日本へ来てもらえればと思います。

加えて今回の俳句を使った授業を通して思ったのは、学習者同士がもっともっとつながるといいなと思いました。もちろん日本人と交流するのはとても楽しいのですが、心理的なハードルがあることも事実です。これはどの国の人でも、その言葉でその言葉のネイティブと話すのは心理的に負担がありますよね。どうしてもパワーバランスがありますから。対等なパワーバランスの下で、日本語を共通語として多くの学習者同士がもっとコミュニケーションすることを、学習者の目標にしてみてはどうかと思うんです。

――それは日本人には思い付かない、重要なご指摘だと思います。

上手に日本語が話せなくても、「日本語でコミュニケーションすること」は目標になります。今回の授業でも、学生には「皆さんの書いたコメントは、そのままイーストウエスト日本語学校に送って、俳句を作った留学生にフィードバックします」と伝えました。そうすると、先生に提出する時よりもみんな真剣になって取り組むんですね。学生にはそういったリアルな目標が必要なんです。

――虞先生の2021年の目標は何ですか。

これまでの私自身を振り返ると、学生に日本語の行間を読み取らせたり、考えさせたりするような授業が十分にはできてこなかったのではないかという反省があります。それが2020年の俳句の授業で少し改善できました。今年は更に一歩進んで、学生に俳句にコメントするだけでなく、俳句を作らせる授業を行いたいと思います。そしてそれを、世界中の学習者に見てもらいたいと思っています。

――とても素敵な夢ですね。本日はありがとうございました。

虞 安寿美(ぐ・あずみ)

台北在住。日本では半導体設計エンジニアとして働いていたが、台湾移住後、日本語教材編集を経て日本語教師の道へ。現在の目標は「問いの達人」になること。

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