【Merry Christmas】子ども向け商品大特価セール実施中! 【Merry Christmas】子ども向け商品大特価セール実施中!

検索関連結果

全ての検索結果 (0)
これからの日本語教師の生き方を考える―withコロナの時代に②

2021年は日本語教育界にとってどんな年になっていくのでしょうか。まだ誰も見通すことはできません。入国する学生の減少から日本語学校や、留学生に頼っている専門学校、大学は今後厳しい状況に陥っていくでしょう。企業の業績が悪化すれば日本語研修費の削減ということも起こりかねません。しかし2020年に一気に進んだオンライン化によって、世界中の学習者とコンタクトできることが分かり新しい道が広がったとも言えます。こんな時代に日本語教師は何を指針としていけばよいのか、前回に続き座談会形式で4人の日本語教師の方に話していただきました。

参加者(本音で語っていただくため一部の方は匿名にさせていただきました。)

松浦みゆきさん:開校3年目の茨城県「日立さくら日本語学校」教務コーディネーター
小山暁子さん :日系・外資系ともに多くの企業レッスンを受託するフリーランス日本語教師
Hさん    :首都圏の複数の大学で日本語及び日本語学を教える非常勤講師
Yさん    :都内のファッション系専門学校及び日本語学校非常勤講師

学生からもらった胡椒の実

――現在のお仕事の状況を教えてください。

小山:私のクライアント先では、現在すべてのレッスンをオンラインで行っています。グループレッスンもプライベートレッスンもあります。今後の状況次第ですが、当面はオンラインが続くのではないかと思っています。

Y :専門学校の2020年度の授業は2月までですが、対面に戻ることはなくオンライン授業が継続されそうです。授業の最後のまとめとして、例年は教室で行っていた発表を今回はオンライン上で行う予定です。学生が自分の作品を見せながらプレゼンテーションする活動ですが、もしかしたらオンラインの方が手軽かもしれません。プロジェクター、コネクターの準備をしなくていいし。

2021年度については先日学校から連絡が来て、できる限りオンライン授業を行うとのことでした。今年度の経験、特に失敗した部分をもとにシラバスを作り直さないといけないなあと思っています。

H :大学はオンライン授業が継続されているところと対面に戻ったところがあります。2021年度は一部決まっているのですが、開講されるのかどうかわからない授業もあって、少し不安です。

松浦:日本語学校では2020年10月から新入生の入国が徐々に始まりました。入国してから2週間の隔離も行っています。公共交通機関が使えないので学校のスタッフが空港まで迎えに行きます。彼らが日本に入国できるのを待っている間は、オンラインで授業を行っていたんですが、何もせずにただ待っているというのは難しく、みんなアルバイトを始めてしまって、オンライン授業から一人去り二人去りという状況になっていました。そんな中、胡椒農園でアルバイトしている学生がいて、働きながらも毎回スマホで授業に参加していました。胡椒の実が木になっている様子をスマホで見せて「先生、この胡椒を日本に持って行きますね」と言ってくれました。そして彼がようやく来日することができて、本当に胡椒を持ってきてくれたんです。なんだか胸が熱くなりました。

小山:いい話。やっぱり教師の皆さんが待機中の学生を励ます等、オンラインで気持ちのケアをしていたからこそですね。

松浦:実は、私はICTが得意じゃないので、対面じゃない授業なんて楽しいんだろうかって疑問に思うところもあったんですが、こうやってちゃんと来日してくれた学生の顔をみると「あ、オンライン授業をやっていてよかった。」って逆に学生に励まされた気がしました。

松浦:個人的にオンライン化してよかった点をもう一つ挙げると、ICTが苦手だった私たちもここまでできるようになったということで、厚かましくも地域のボランティアの方達向けにZOOMの使い方セミナーを開いちゃったんです。できなかった私たちだからこそ、皆さんのできない部分が分かるということで。そうしたら自治体が助成金をつけてくれました。

Y:素晴らしい。

小山:私もチームで教えているフリーランスの皆さんにオンライン化に誘ってもらってよかったって感謝されました。私がなかば強引にお誘いした方々だったんですけど。

オンライン化の光と影

――オンライン化の波は今年も加速しそうでしょうか。

小山:そうですね。2020年はオンライン日本語教育に新たに参入したところも多かったですし、オンラインのセミナーなども毎週のように開かれました。国内外を問わず教師の勉強の機会が広がったことはよいことだと思っています。

H:たしかに。言葉は変ですが、「ハイになっている」と言えるような感じさえしました…。

松浦:日本語学校では授業が対面に戻っていますが、少しでもオンライン授業の経験をしたことで今後の選択肢は広がったと感じています。

Y:ただちょっと気になるのは、日本語教師の中でICTの部分で分断が生まれつつあるのではないかということです。皆さん、そんな感じしませんか?

松浦:例えば?

Y:ICTがすごく得意で、いろいろな新しい機能やアプリ等を使いこなせる人と、そうでない人というか。もちろんオンライン授業なんて一切しません!という頑なな態度は問題だと思うし、生き残っていけないと思うんですけど。でも少しずつでもオンライン化に対応していこう、亀の歩みでもいいからと思っている人もいるわけで。私はその亀の方なんですけど。

一方、新しいアプリだとかVRだとか、どんどん新しいものを取り入れていける言わば「うさぎ」の人たちがいます。ここで「のろまな亀は淘汰される」というような考えはやめてほしいなと思うんです。亀も頑張るので、できたらうさぎも亀も一緒に進化していけたらいいと思っているんですけど。

H:私も亀のほうです。

小山:私はね、大切なのはあくまで「学習者」だと思いますよ。ICTを利用していろいろなことができるようになったとしても、それが学習者にフィットするかどうかということにつきると思います。教師の方が、こんな機能を使ってみたいからという授業は、ちょっと違うと思うんですよね。

松浦:私も、同感です。学習者はきっとわかっていると思います。

H:ICT化が進むと、一つの有益なコンテンツがあれば、教師は必要なくなるんじゃないかという矛盾も生まれる気がするんですが。

小山:確かにそういう面もあるんだけど、もし、すごく文法が身につく動画があれば私が説明するよりいいかもしれないと思うんです。だから利用するのは賛成です。その代わり、一人一人の学習者に寄り添いサポートすることは生身の日本語教師じゃないとできないことなんじゃないかと思っています。私の生徒さんの中に同僚と一緒にレッスンを受けるのが嫌で、会社のクラスレッスンに出ずに自腹で個人レッスンを受けたいという人もいます。日本語教師とは利害関係がないので個人的なことを話しやすいという利点があるみたい。

今の私の気がかりは、オンラインレッスンを提供する機関や教師が急激に増えたことで、価格破壊が起きつつあることです。

Y:私も最近聞いたことがあります。

小山:私は長く日本語教師をやっているので、これまでにもバブル崩壊、リーマンショック、東日本大震災などの度にレッスンの価格破壊が起きるのを見てきました。なので、またかという気持ちです。競合に勝つためにレッスンの料金を下げることは自分自身の首を絞めてしまうことになるのに。フリーランスの皆さんには、今は大変な状況だと思うけれども、レッスン料金を下げないでと言いたいです。ここで下げてしまうと結局教師を続けられなくなってしまい、元も子もなくなってしまうからです。

人とのつながりは、より重要に

Y:ところで皆さん、ずっとオンラインのレッスンばかりだと寂しくないですか。学校に行くこともないので、教員室での他愛もない話みたいなこともなくなってしまって。

H:寂しいです。

松浦:だから、こういう形でも人と話すってすごく重要ですよね。でも本当は会って話したいんですけど。

Y:私も。今のクラスはずっと顔出しなしでやっているので、実際に学生に会うことができたらうれしくて抱きしめちゃうかも。

小山:最近こんなことがあって。10年以上前に同じ会社の新人研修で教えた生徒さんたちが、久しぶりにZOOMで話しませんかということになって誘われたんです。この間に結婚した人、子どもができた人、いろいろな人がいて先生に紹介したいと。それで、その生徒たちに「先生、ずっと教えていてくださいね。会社の部下を紹介しますから」と言われました。

Y:人と人の「つながり」大切ですね。オンライン上で日本語教師同士のつながりを作るような活動も2020年から数多く行われているように思います。

ぶれずに目の前のことをひとつずつ。そして人間力を上げること。

――こんな時代を日本語教師として生き抜いていくためのカギは何でしょうか。

H:情報に流されずに自分で判断すること。自分の芯がぶれないことですかね。そもそも「学生」が見えないICT化では意味がないと思っています。

Y:うまく変化に対応していくことかな。頑なになっても仕方がないので柔軟にいくこと。

松浦:私個人としてはあまり将来の展望とかを考えないタイプなんですが。とにかく日本に来てくれた学生たちの教育をきちんとすること。目の前のことをひとつずつ地道にやっていくことでしょうか。あと、手洗い、うがい(笑い)。

小山:「たんたんと」かな。だって明日のことってわからないじゃないですか。生徒の中にコロナ禍で少しパニックになっている人がいるんですが、そういう人たちの共通した特徴ってすごく明確な将来設計をすることだったんです。でもそれがコロナで崩れてしまった。私にはそういう部分がなくて、今回のような想定外の事態には、逆にそれが強みになるのかもと思いました。芯だけしっかりしていればどうにか舵取りして時流に乗っていくことができるんじゃないかと思います。

Y:オンラインであろうと対面であろうと、この人から教わりたいと思ってもらえるようになりたいですね。そのためには教える力だけじゃなくて人間力を上げないと。

座談会のまとめとして参加者から太宰治のこんな言葉が紹介されました。

「一日一日をたっぷりと生きていくより他は無い。明日のことを思い煩うな。明日は明日、みずから思い煩わん。きょう一日をよろこび、努め、人には優しくして暮したい。」

取材・執筆/仲山淳子

流通業界で働いた後、日本語教師となって約30年。5年前よりフリーランス教師として活動。

関連記事


「日本語教育の参照枠」から見直そう!ー文型中心と行動中心はどう違う?

「日本語教育の参照枠」から見直そう!ー文型中心と行動中心はどう違う?
皆さんはもう「日本語教育の参照枠」を見たり、聞いたりしたことがあると思います。でも、イマイチピンと来ないな…と思う方も多いのではないでしょうか。「で、何をどうすればいいの?」など、授業のイメージがつかめないといった声をよく耳にします。それもそのはず、「日本語教育の参照枠」は教育または学習についての考え方、そのあり方を述べたもので、カリキュラムや授業の方法を示したものではないのです。そこで、今回のコラムでは「日本語教育の参照枠」を教室での実践につなげてとらえてみようと思います。(亀田美保/大阪YMCA日本語教育センター センター長)

日本語学校へビジターセッションに伺いました!-『できる日本語』の「できる!」の活動例

日本語学校へビジターセッションに伺いました!-『できる日本語』の「できる!」の活動例
7月某日、『できる日本語』の著者陣が勤務する学校でもあるイーストウエスト日本語学校の授業で、日本語話者を招いてインタビューをするビジターセッションが行われました。今回、アルクのメンバーがビジターとして招かれて授業に参加することになったので、その様子を取材してきました。

募集中! 海外日本語教師派遣プログラム

募集中! 海外日本語教師派遣プログラム
コロナ禍も落ち着き、海外と日本の人の行き来が戻ってきました。日本国内の日本語学習者は順調に増加していますが、来日せずとも海外で日本語を学んでいる学習者は約379万人もいます。そのような海外の日本語教育の現場に入って、現地の日本語教育を支援する日本語教師の派遣プログラムをご紹介します。