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私たちの2020年を振り返る―withコロナの時代に①

2020年の日本語教育界は他の業界と同様にコロナの影響を大きく受けました。対面での授業が継続できなくなったり、学習者が入国できずクラス数が減少したりしました。また、好むと好まざるとにかかわらずオンライン化の波に飲み込まれた年だとも言えるでしょう。そこで今日はそれぞれ違う立場で日本語を教えている4人の日本語教師の方に座談会形式でこの1年を振り返っていただきました。(この座談会はZOOMを使用して行われました。)

参加者(本音で語っていただくため一部の方は匿名にさせていただきました。)

松浦みゆきさん:開校3年目の茨城県「日立さくら日本語学校」教務コーディネーター
小山暁子さん :日系・外資系ともに多くの企業レッスンを受託するフリーランス日本語教師
Hさん    :首都圏の複数の大学で日本語及び日本語学を教える非常勤講師
Yさん    :都内のファッション系専門学校及び日本語学校非常勤講師

混乱の3月、4月

――2020年はとにかく大変な年だったと思うのですが、まず全国の小中高校に一斉休校の指示が出された2月28日頃のことを振り返ってみたいと思います。それぞれの機関でどのような対応をしましたか。

松浦:茨城県はまだあまり感染者が多くなかったこともあって学校全体を休校にはしませんでした。クラスごとに登校日を分けて、登校してきた学生も教室を分けて、といった対策をしました。当初予定の会場が使えなくなりましたが、卒業式は何とか行えました。

Y:あの頃、都内の日本語学校も対応は学校によってさまざまでしたね。いち早くオンライン授業に切り替えたところもあれば、密になるラッシュアワーを避けるために授業時間を短縮したところもありました。私の日本語学校は後者でした。

H:大学では既に授業が終わっているところも多かったのであまり影響はありませんでしたが、卒業式が中止になったり、オンライン卒業式になったりしました。

Y:ええ、私も専門学校は卒業式が中止になって、日本語学校の方も例年のスタイルの式は中止、授業時間内に卒業証書のみを渡す簡易的な式になってしまいました。学生には申し訳ない気持ちで…。でも、ある学生が「いつもとは違うから逆に記憶に残りますよ」って言ってくれて、お礼のプレゼントまでくれて。学生って優しいなと思いました。同じような経験は東日本大震災の時にもありました。

小山:企業レッスンの場合、ある会社では外部からの人間が社内に入れなくなってしまいました。ですから社内会議室で行っていた対面でのレッスンはできません。また感染防止のため社外でのカフェレッスンなども禁止。それで当面は休みにするしか仕方のない状態になりました。

――そしていよいよ4月7日には東京以下7つの都道府県に、また4月16日には茨城県も含む全国に緊急事態宣言が発出されました。その時は?

Y:専門学校では緊急事態宣言中は開講されないことになったので、自宅待機という状態でしたね。スケジュールが二転三転して結局新学期のスタートは6月の初めからになり、一部の授業はオンラインで行われることが決まりました。

松浦:うちの日本語学校はちょっと特殊で初年度に入学した学生がほとんど卒業してしまい在校生が少なかったのですが、その学生たちに向けてオンライン授業を始めました。スマホしか持っていない学生もいたのでタブレットを貸し出し、授業の前日にZOOMの使い方を教えてとバタバタでしたが、人数が少なかったので何とか対応できた感じです。新入生に関しては入国ができないのでゼロに近い状態でした。

H:大学でも当初対面の授業を行うとしていたところもオンラインの授業に切り替わりましたね。

小山:先ほどお話ししたクライアントでは当面休講にする、対面レッスンの再開については追って連絡するとのことでした。でも、私はこれはオンラインになる!と確信しました。そのレッスンは複数のフリーランス教師がチームで請け負っていたものでしたが、半数はオンラインレッスンの経験がなく、できれば対面が再開されるまで待ちたいという考えでした。けれども、私は「対面が再開されるまで待ちます」とすると、オンライン対応ができる教育機関に流れて行ってしまうのではないかと危惧したんです。それで急遽、ZOOMの使い方やオンライン授業のサポートをしてくださっている大隅紀子さん*1にお願いして、このチームのためのカスタマイズレッスンを実施してもらいました。いろいろな機能はいいから、とにかくZOOMを使って授業ができるようにしてほしいと。その2、3日後に会社の担当者からZOOMでオンラインレッスンができるかと打診がありました。実はZOOMにしたのも、事前にその企業がZOOMを使っているらしいという情報をキャッチしていたからでした。それでこの企業レッスンを続けることができたのです。このオンラインレッスンが始まったのは緊急事態宣言よりも前、3月の上旬でした。

オンライン授業が動き出す

――所属の機関でオンライン授業についての研修はありましたか?

H:はい。大学はその点、手厚くてZOOMの講習会があり、アプリのインストールの仕方から使い方まで細かく教えてくれました。また科目ごとに集まって模擬授業をするというのもありました。丁寧に研修をしてくれた上司には本当に感謝しています。とにかく4月はミーティングばっかりやっていた印象ですね。

松浦:うちの日本語学校でも今、お名前が出た大隅さんにお願いして専任の先生たちのための研修を行いました。ZOOMを使うための研修をZOOMで行うっていうのも何だか変な感じですけど。うちは若い先生ばかりで、職員も出勤しない状態が続いて不安に思っている人も多かったところ、この研修のおかげで少し自信がついたようでした。

Y:専門学校では6月開講が決まって5月末にオンライン授業に関する研修が行われました。Google Meetというそれまでに使ったことのないシステムを使わなければならなくて、学生とのやり取りはGoogleクラスルーム、そして出席確認と課題はGoogle Form。ネット状況が悪かった場合の出欠をどうするかなど細かいこともいろいろ規定があって、ちょっと理解するのにキャパオーバーという感じでした。でも授業をサポートしてくれるアシスタントの方がいたので何とか始めることができました。

――皆さん、それまでにオンライン授業の経験はあったんですか?

松浦:いいえ、ありませんでした。

H:私も全く。

小山:私自身はプライベートレッスン、少人数のグループレッスン、それにグローバル企業内のビデオ会議システムでハイブリッドレッスン*2の経験がありました。

Y:私はスカイプやZOOM等で1対1や少人数の経験はありましたが、20人、30人のクラスレッスンは初めてでした。

松浦:大隅さんにお願いした研修だけじゃなくて、家族にも協力してもらいました。ZOOMで話しているところを娘にスクリーンショットを撮って送ってもらったりして。学生側の画面がどうなっているのか知りたかったんです。

小山:私もICTが得意な日本語教師仲間の呼びかけで休日にZOOMを使ってみる会等に参加しましたね。

――研修以外に個人でも努力をしたということですね。

それぞれのオンライン授業

――オンラインでの実際の授業はどんな感じですか?

小山:以前から使っているテキストがあるので、それを継続して使っています。簡単なPowerPointのスライドも使いますが、アニメーションを入れたり動画を入れたり等凝ったことはしていません。

H:私もPowerPointやPDFを事前に共有しておいて使いますね。あと100円ショップで買った小さなホワイトボードも愛用しています。指示を伝えたい時にはそのほうが速いので。

Y:私も基本はスライドを使っています。発表は学生に自分の撮った写真とか作品を画面共有しながら話してもらいます。でも専門学校生、全然顔出ししてくれなくて…。

H:大学生も同じですよ。

松浦:うちの学校では、入国できなくて国で待機している学生たちのためのオンライン授業を行ったのですが、日本語学習の部分は既存の日本語学習動画配信サービスを利用しました。それで教師たちが何をやったかと言うと、日立の町の風景や学校探検ツアー等の動画を作って見せました。学校に帰属意識を持ってもらうことと、入国できなくて不安に思っている学生たちの心のケアをするためです。ちゃんと日本で待っているよということを伝えたかったんです。教師が慣れないオンライン授業や教材づくりに追われず、学習面は既存のサービスに助けてもらいながら、学生たちとの関係作りに集中できたことは結果として良かったんじゃないかと思います。

――オンライン化で苦労していることはありますか。

Y:学校側から出席確認としても毎回授業後に課題を出してほしいと言われているので、以前より確実に課題が多くなりました。その作成、添削などに追われている感じもします。

H:大学も同じですね。24時間常に連絡が来るので公私の区別が付けにくい感もあります。コロナ禍になってからとにかく連絡メールの数がすごいです。それから評価ですね。従来のペーパーテストができないので、それに代わるものとして発表をしてもらうことにしました。

小山:その点、企業の福利厚生としてのレッスンでは成績を付ける必要がないので気は楽です。ただオンライン化に伴って対応しなければならないこともありました。ある企業ではそれまで出席簿や引継ぎが手書きファイルだったため、オンラインレッスンになってからは引継ぎ用にGoogleスプレッドシートを利用しました。出席簿は会社の担当者に作っていただき、教師や学習者だけでなく人事や経理の担当者等全員が共有できるシステムができました。これは社内業務効率化にもつながったようです。

この1年を振り返って

――コロナ禍で収入が減ったということはありましたか。

Y:私は4月5月の待機期間の分は収入がありませんでした。あ、日本語学校の方は休業補償のような形で少し出ましたね。ありがたい。ただ個人としては他の仕事も入れていたので今年度大幅に減るということはありませんでした。

H:私も大学では留学生が集まらなくて開講できなかったクラスもあるので本来は減るはずだったのですが、オンラインになったおかげで別の授業を入れることができて、全体としては減らずに済みました。

小山:私は実は増えたんです。オンライン化のおかげで移動の時間がなくなったので、そこに新たにレッスンを入れることができるようになったんですね。

――今回の「オンライン化」で得たものがあれば教えてください。

Y:出席率です(笑い)。昨年も同じ授業を担当していたのですが、自由選択の授業なので途中で出席しなくなる脱落者も結構いたんです。でも今年は毎回ほとんど全員出席で、ちょっと驚いています。それから対面授業だとどうしても積極的な学生がたくさん話して、静かな学生の発言量が少なくなることがあったのですが、オンラインの場合は一人一人に発言量が確保されているというところですかね。指名するとちゃんと話してくれますから。

松浦:やっぱり私自身がICTができるようになったことです。ゼロが1になったのは大きい。以前はアクティブラーニングについて書かれた本の中でICTの部分は全然わからなかったのですが、今読み返してみると「あ、わかる!わかる!」って。こうなれたのは大きいと思います。

小山:一歩踏み出せるかどうかが大切ってことですよね。

取材・執筆/仲山淳子

流通業界で働いた後、日本語教師となって約30年。5年前よりフリーランス教師として活動。

*1:大隅紀子さん:NPO法人「ゆるくてやさしい日本語のなかまたち」代表理事

*2:ハイブリッドレッスン:対面の授業にオンラインからも参加者のいる形態の授業。

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