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読んでわかったことを伝え合う楽しい授業-読解授業にペアによる再話活動を取り入れる試み-

みなさんは「再話」という活動を聞いたことがありますか。英語教育などでは以前から行われてきた教室活動の一つです。この「再話」を日本語の読解授業に取り入れることで、読解授業を、私たちが日々の生活の中で行っているような、読んでわかったことを他の人と伝え合う、生き生きとした場に変えることができるかもしれません。

先日、『「再話」を取り入れた日本語授業―初中級からの読解』(凡人社)を上梓された、小河原義朗さんと木谷直之さんのお二人にお話をうかがいました。

偶然がきっかけで始まった「再話」への取り組み

――もともとお二人が「再話」に取り組むようになったきっかけを教えてください。

小河原:10年ほど前に初級を終えたばかりの中級の読解クラスを受け持つことになりました。そこで半年ほど市販の読解教材を使って一般的な読解の授業をしたのですが、果たしてこれで学習者はちゃんと素材を読めているのだろうか、そもそも「読めた」とはどういうことなのかという疑問がわいてきました。

――一般的な読解の授業と言いますと?

小河原:まずプリタスクで背景知識を活性化→新出語彙の確認→一斉に素材を読ませる→内容理解問題を解かせる→答えさせる→質問が出れば答える、といった流れがごく一般的な読解の授業かと思います。でも、これは日常生活で行う読解活動とはまるで違います。学習者が日常生活で何かを読む際に、プリタスクをやったり、内容理解を確認する問題を解いたりはしないわけですから。それに、毎回、問題に答えるのが、積極的で「できる学習者」ばかりで、何も発言しない学習者が多いのも気になりました。

――言われてみれば確かにそうですね。そういうスタイルの読解の授業は、現在でも多くの教育機関で行われていると思います。

小河原:そんな時、たまたま英語教育卯城うしろ祐司先生の『英語リーディングの科学―「読めたつもり」の謎を解く』(研究社)を読む機会があり、「再話」の手法が日本語教育の読解指導にも応用できるのではないかと思ったんです。それで早速自分の授業にアレンジして、「ペアによる再話活動」として取り入れてみたら、それまでと違って、学習者がとても楽しそうに読んだ内容を話し合うようになったんです。普段、あまり話さない学生も楽しそうに、一生懸命に話していることが印象的でした。そこで、彼らはどんなことを話しているんだろうと思って、木谷さんと彼らの談話を分析してみようということになったんです。

木谷:もともと「再話」は、一人で読んだ素材の内容が正確に理解できているかどうかをチェックするために、評価の一つの方法として使われることが多かったのですが、それを「ペアによる再話活動」として取り入れたことで、「読んだことを誰かに伝える」という、日常生活でごく一般的に行われる言語活動に近い形にしたんです。誰かに伝えるために読むというように、読む目的を少し変えてみたんです。

――確かに読んで知ったことを誰かに伝えるというのは、誰でもごく日常的にしていることですね。現実活動に近いので学習者もやっていて楽しいし、(自分で)読めた・(誰かに)話せたという達成感もあるのでしょうね。

小河原:達成感を持つためには、学習者の日本語レベルと素材の難易度のマッチングが大切です。学習者がまったくの初級では再生するだけの日本語力が足りませんし、上級になって、長文読解のように素材が長すぎると、「再話」の素材としてはかなり難しくなってしまいます。初級を修了したぐらいで、内容的なまとまりをもった200字程度の素材から始めるのがちょうどいいように思います。

――たまたま受け持ったのが中級クラスだったのも幸いしたのですね。

現実の言語活動に近い統合型の活動

――改めてですが、今回提唱されている「ペアによる再話活動」の内容について教えてください。

小河原:私たちは「再話」を、「ストーリーを読んだ後に原稿を見ない状態でそのストーリーの内容を知らない人に語る活動」と定義しています。それをアレンジし、段階的にペアで行うことでハードルを下げ、学習者が無理なくできるようにしています。

――読むことだけではなく、話す能力の向上にもつながるのでしょうか。

木谷:学習者は素材を読んでいる時も、次に内容をパートナーに話さなければなりませんから、どう組み立てて話したらいいかを考えながら読むようになります。これは読むことにも、話すことにも相乗効果があることだと思います。また、「ペアによる再話活動」をすることで、パートナーが自分と違った読み方をしていることへの気づき、再生する際のペア間のやりとりや相手への働きかけの工夫など、さまざまな副次的なメリットが期待されます。

――読解というよりは技能統合型の活動に近いですか。

小河原:教育機関によっては、中級になると4技能が縦割りでカリキュラムに組まれることも多いのですが、学習者は実際の日常生活では4技能を統合した言語活動をしているわけです。読んだ情報を人に伝えるというのはごく一般的な言語活動です。「再話」の中で行われている学習者のペア間のやりとりを丁寧に見ていくと、実にいろいろなことがわかってきます。それが新しい教育実践や授業の改善につながっていくと思っています。

――「再話」はどんな教育機関でも取り入れられるものでしょうか。

小河原:レベルとしては初級を修了して中級に入るぐらいが最も効果的だと思います。その上で、3段階に分けて、少しずつ授業に取り入れていくといいのではないかと思います。第1段階は「再話の活動とルールに慣れる」、第2段階は「2人で協力して再話することに慣れる」、第3段階は「手助けを使わずに2人で再話を完成させる」です。また、読んだことを話すだけでなく、書いてもらうことを宿題として出してもいいと思います。

木谷:大学や日本語学校などで「再話」を取り入れる場合は、評価をどうするかはあらかじめ考えておいたほうがいいと思います。ペアのやりとりを評価する方法もあると思いますし、学習者一人ひとりに個別に「再話」してもらうという方法もあると思います。そのあたりは、今後、「再話」がいろいろな教育機関で取り入れられ、教育実践が積み重ねられていく中で、確立していくものと思われます。

「再話」の授業実践を蓄積していきたい

小河原:そのような情報共有や情報交換ができる場「「再話」を取り入れた日本語授業グループ」を作りました。ここでさまざまな「再話」を用いた教育実践についても共有していきたいと思っています。

木谷:そこでは学習者のレベルに合わせたいろいろな読解素材も共有したいと思っています。どういう素材を選べばいいのかは、自分の目の前にいる学習者の学習目的や関心、日本語能力によって違ってきます。ただ、それに合った読解素材をすべて一人の教師が作っていくのは大変なことです。そのため、研修会やセミナーなどを開いて、みんなで作ったものを共有したり、使い方を話し合ったりなどもしていきたいと思っています。

――今回出版された『「再話」を取り入れた日本語授業―初中級からの読解』にも、40もの自由に使用できる読解素材が付いていますね。購入者は凡人社のウェブサイトからダウンロードして自由に加工もできるようになっているのは、大変ありがたいです。

小河原:今回出版した本は、「再話」に関心を持った教師による教育実践のプロセスと捉えていただけるといいと思います。私たちの授業でこういう「再話」をやったら、学習者間でこんなやりとりがあった、こんな反応があった、こんな効果が出たなどということが細かく書いてあります。27のチャプターを順番に読んでいくと誰でも「再話」の活用について無理なく理解できるように書かれています。また、実際にそこで理解することを実践するために自由に使っていただける読解素材も付けました。

◆著者からサイトの紹介◆

「「再話」を取り入れた日本語授業」を実践してみた、実践してみたい、もっと知りたい・・・というみなさんと情報を共有する場として、Facebookグループ「「再話」を取り入れた日本語授業グループ」をつくりました。ご興味のある方は、ぜひ「参加する」を押してフォローしてください

https://www.facebook.com/groups/273082197431293

小河原義朗(おがわら・よしろう)

東北大学大学院文学研究科日本語教育学専攻教授。東北大学大学院文学研究科博士課程修了。国立国語研究所日本語教育センター研究員、北海道大学留学生センター助教授などを経て現職。専門は、日本語教育学。

木谷直之(きたに・なおゆき)

独立行政法人国際交流基金日本語国際センター専任講師。京都大学大学院文学研究科修士課程、ロンドン大学Birkbeck College M.A.(応用言語学)修了。国際交流基金日本語教育派遣専門家(エジプト国カイロ大学)、国際交流基金ロンドン日本語センター主任講師、国際交流基金ジャカルタ日本文化センター主任講師を経て現職。専門は、日本語教育、教師教育。

「再話」を取り入れた日本語授業 初中級からの読解

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