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オンライン教育は「対面授業の代替」から「ハイブリッド型への最適化」へ

新型コロナウィルスの拡大に伴い、教育機関の多くが対面授業からオンライン授業へ移行しました。日本語教育機関も例外ではありません。緊急事態宣言が解除になり、通学も少しずつ可能になる中で、オンライン授業は新しいフェーズに進みつつあるようです。日本語教育機関におけるオンライン授業の現状と今後について、YouTubefacebookなどを通してICTに関する情報を積極的に発信している藤本かおるさんにお話を聞きました。

1つの授業にさまざまな学習環境

――多くの日本語教育機関でオンライン授業がスタートして数カ月がたったわけですが、今の状況をどう捉えていますか。

藤本:オンライン授業の準備期間も十分にはなかった中で、日本語の先生方は、いろいろな工夫や努力をされて、対面授業からオンライン授業に切り替えられたように思います。今までのところ、小さな問題はあっても、オンライン授業は行えています。ただ、これからは、よりハイブリッド型の学習環境になってくると思いますので、新たな課題も出てくるのではないかと思います。

――用語の確認ですが、ハイブリッドとオンラインはどのように違うのですか?

藤本:ICT活用は、まずeラーニングのようにオンラインだけで学ぶことから始まり、次にブレンディッド(オンラインとオフラインの組み合わせ)に進み、そしてハイブリッド(オンラインとオフラインの混在)に進むと言われています。

――1つの授業の中に、オンラインとオフラインの学習者が混在しているということですか。

藤本:これまでも例えば企業の日本語研修では、東京にいる学習者が教室で授業に参加し、同じ授業に支店の学習者がオンラインで参加するというようなことがあったと思います。現在、日本語学校ではまだ多くの入学希望者が来日できていない状況ですから、教室に通い始めた学生、来日はしていても教室外からオンラインで参加している学生、母国から参加している学生と、場合によっては3種類の違う学習環境にいる学生が1つの授業の中に混在することになります。

――日本語の先生方からは授業のやりにくさを指摘する声も出始めています。

藤本:本来であれば、対面は対面、オンラインはオンラインと、それぞれに授業は分けたほうがいいのです。でも、学習環境ごとに授業を増やしていたのでは、人件費が増えてしまうので学校はよしとしないでしょう。となると、そのような学習環境にいる学習者に対応するための準備が教師側には必要になります。また、そうした中でオンライン学習そのものが、増強・変容していくのではないでしょうか。

オンライン学習を通して自律的な学習者を育てる

――藤本さんのところには、オンライン授業についての多くの相談や質問が来ていると思いますが、日本語教師から寄せられる相談・質問で、いちばん多いのはどのようなものですか。

藤本:「対面授業とオンライン授業を比較して、対面授業でやっていたことと同じことをオンラインでやるとうまくいかない」という相談が多いですね。そもそも対面とオンラインでは学習環境が全く違うので、対面授業と同じことをオンラインでやろうとすること自体に無理があるのですが、どうしても日本語教師は対面に慣れているので、オンライン授業を対面のほうに寄せようとしてしまうんです。

――なぜ、対面でうまくいっていたことが、オンラインではうまくいかないのでしょうか。

藤本:対面なら容易に伝わるようなことや確認できるようなこと、例えば、今教えた項目を学習者が分かっているのかいないのかや、学習者の心の動きなどを、これまで日本語教師は学習者のちょっとした態度やアイコンタクトで把握しながら授業を進めていたと思います。しかしそういった学習者の心理面は、まだ技術的な限界もあり、オンラインでは伝わりにくいんです。

――そういったことが伝わってこないと、不安になる日本語教師の気持ちはよく分かります。

藤本:ただ一方で、そういった不安を教師が持つのは、教師が授業や学習者の学習のすべてを把握しなければならない、学習者が分からないことがあればすべて教師が解決してあげたいという教師側の思いが強すぎるからでもあると思います。本来学習者は、「教師の言うことを聞いていればいい」「何でも教師がやってくれる」といった受け身な態度ではなく、もっと自律的に授業に参加し学ぶことが必要なのではないかと思います。

――教師が学習者の面倒を見過ぎているということでしょうか。

藤本:オンライン授業は学習者の自律性と大きく関わります。オンライン授業の形態は、同期型(オンライン対面授業など)と、非同期型(動画などを好きな時に視聴したりすること)に分かれますが、特に非同期型への参加は学習者の意欲に左右されますので、自律的な学習者でないとオンライン学習を継続していくこと自体が難しいのです。

――自律的学習というのは、ずいぶん前から日本語教育でも提唱されてきていますが、このオンライン化によって理解が進む可能性がありますね。

藤本:学習環境が違ってくればアプローチの仕方も違ってきます。日本語教師は、もちろんまだ十分に自己学習ができていない学習者がいれば必要な手を差し伸べることは大切ですが、同時にある程度自立できている学習者であれば、教師は学習者を信じて少しずつ手を放して、いろいろなことを自分で決定していけるように学習者に任せていくという視点も、これからは大切だと思います。

オンライン学習による学びの個別化・最適化

――同期型と非同期型を組み合わせるサンドイッチ方式という授業の進め方のアイデアを藤本さんはYouTubeなどで紹介されています。このサンドイッチ方式についてご説明いただけますか。

藤本:同期型のオンライン授業の間にオフライン授業を挟み込むというやり方です。ちょうど、同期型のパンの間に非同期型の具材を挟み込むようなやり方なので、サンドイッチ方式と呼んでいます。オンラインだけでは学習者も疲れてしまいますし、そもそも学習者が学ぶところはオフラインで各々がやればいいのです。

――具体的には、それぞれのところでどのようなことをするのですか。

藤本:まずオンラインで前回の課題のキャッチアップや新出事項の導入を行います。次にオフラインで導入した項目に関する課題を行います。そして最後にオンラインに戻って、課題のチェックやインタラクティブな内容、次回までの課題などを出します。これならオンライン部分が10~30分程度で済むので、無料版のzoomでも対応でき、非常勤の先生にとっても導入しやすいのではないかと思います。

――非常に実践的なアイデアだと思います。日本語教師が自分のこれまでの授業をオンライン化するにあたって、考えなければならないことは何でしょうか。

藤本:オンラインへ移行する際には、一度、自分の授業構成の棚卸しをするのがいいと思います。この活動は何のためにやっているのかを一つひとつ見つめ直し、その上でオンラインでも引き続き行うもの、オンラインに適した形に変えて行うもの、止めるもの、新しく取り入れるものなどに整理するといいでしょう。

――そういったことをせずに、これまで対面授業をオンラインにそのまま移そうとすると、無理が生じるわけですね。

藤本:もう一つ大事な視点は学習の個別化と最適化です。従来の対面授業以上にオンラインでは学習者個人に対応することが可能になります。例えば、特定の学習者の発話をチェックしたり、特定の学習者の手書きの様子を動画で送ってもらったり、既に多くの先生方が使っていらっしゃいますがGoogleなどの便利なツールを使えば、学習者一人ひとりの理解度をチェックしたり集計したりすることも容易にできるようになりました。

――オンライン学習のよさを生かすような授業、そのための基本的な知識が教師側にも求められているわけですね。教師の役割や守備範囲も変わっていくように思います。

藤本:オンラインになることは決して楽になることだけではありませんが、これまでできなかったことが授業で実現できたり、それによって学習者の学習効果をより高めたりできるようになることは、日本語教師にとっては魅力的ではないでしょうか。その際に、例えば非同期型コンテンツの準備などは、教師個人というよりは組織として対応できると、特に非常勤講師の負担が減っていくのではないかと思います。

――オンライン化にあたっては、無理をせずに持続可能な方法で教育活動を改善していくことが大切ということですね。本日はありがとうございました。

藤本かおる

(武蔵野大学グローバル学部日本語コミュニケーション学科准教授。NPO日本語教育研究所理事。専門は日本語教育、教育工学(特にeラーニング、遠隔教育)。モットーは「大掛かりな(お金がかかる)利用法ではなく、必要だと思うことをできる範囲でデジタル化!」

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