インターンが夏休みの間に行うアクティビティでの様子
一般財団法人国際教育文化交流協会(ISECE)が行う日本語アシスタント教師インターンシッププログラムは、アメリカでの日本語教育を現場レベルで体験できるプログラムです。このプログラムでアメリカ、オレゴン州ポートランドの中学校でインターンシップを経験した辻万里江さんが、現地で経験した日本語教育についてレポートします。
プログラムについて
日本で英語教師をしたい、海外で日本語教師として働きたいという人に最適な通常1年間のプログラムです。国内研修と現地オリエンテーションを受けた後、日本語イマージョン教育*1に熱心に取り組む小学校・中学校・高校があるポートランドの公立学校制度の中でインターンとして働きます。
- お名前:辻万里江さん
- 在学校名:東京学芸大学 教育学部教育支援専攻 多文化共生教育コース
- 派遣先の国名、都市:アメリカ合衆国 オレゴン州 ポートランド
- 派遣先学校名:ポートランド近郊の公立中学校
日本語教師は「実際に使える知識」を提供できる
私は高校生の時に海外に興味を持ちはじめ、海外で自分ができる仕事は何があるかを考えました。大学では多文化共生教育コースを専攻し、生活面では留学生と一緒に寮に住みました。それらの経験から、母語である日本語を教えることが、一番相手に「実際に使える知識」を提供できるではという考えを芽生えさせ、日本語教育への興味をさらに引き立たせてくれました。
目標が決まってからは、日本語教師になるためにはどんな資格や勉強が必要なのかを調べました。大学のプログラムでタイの日本人学校見学をさせて頂く機会がありました。そこから、教える知識だけでなく、実際に日本語教師として働く際のメリット・デメリットについても考えるようになりました。また、私は留学生と一緒に大学の学生寮で生活する中で、寮の友達の勉強をもっと助けたいと思うようになりました。これらの経験から日本語教育能力試験を受けることを決め、それが現在のインターンシップにも繋がっています。
いろいろと調べていく中で、自分が興味がある教育現場について学べるこのプログラムへの参加を決めました。元々、世界の国々の文化について知ることが好きだったため、日本と海外の教育に興味を持ちました。大学で学んだ日本語教育や英語教育の知識を生かせること、実践的に海外の教育を学べるということを魅力に感じました。
生徒一人ひとりの特徴を見極めて、寄り添うことが大切
まずはじめに、ポートランドの学校で行われていたイマージョン教育についてご説明します。
生徒は幼稚園の年長から日本語を学び始めます。そのため、文法というものを意識せず、先生の真似をすることから始まります。小学生のうちは、先生やインターンが話す決まったフレーズを真似したり、他の単語を加えたりし、応用させることで使える単語や表現を増やしていきます。中学から、文法を学び始め、「決まったフレーズに対応できる」という状態から「どんな言葉にも対応できる」ようにしていきます。その練習として、自分で文章を考え、発表するというプロジェクトが始まります。
インターンシップでは、できるだけ生徒といる時間を増やすこと、またさまざまな形で教えること、生徒を一人の人間として受け入れ、向き合うことを心掛けています。
生徒と一緒にいる時間を増やすと、会話の中で彼らの好きなことが分かったり、教室内での態度や友人関係について観察できます。それぞれの生徒の特徴を見つけることで、よりよい指導ができるようになります。例えば、いつもは遊んでばかりでも、座らなければならないときにはすぐ座るというような生徒は、勉強が分からなくて遊んでいる場合でも隣で指導すれば頑張るように感じます。
いろいろな形で教えるというのは、特に漢字を教える際に心がけています。例えばすでに習った漢字を思い出して欲しい時は、生徒によってヒントの出し方を変えます。「日」やカタカナの「ヌ」のようによく知っているパーツを組み立てて覚えている生徒、漢字を図形に置き換えて覚えている生徒、書き順を音にして覚えている生徒など、覚え方はさまざまです。そのため、その生徒の覚え方によってこちらもヒントを出し、思い出させたり、またその生徒に合った覚えやすい方法で教えたりします。
アメリカの学校や家庭での教育を見ていると、子どもが一人の人間として尊重されていると感じます。また、こちらの子どもは日本の同年代と比べ、打たれ弱く、怒られるとしょげたりして立ち直るのに時間がかかるように思います。
私は中学校で教えているので、生徒たちは思春期真っ只中。「私はあなたの意見をしっかり聞きますよ」という姿勢で生徒に臨むことは、とても大切です。
他とは異なる、イマージョン教育を実施する学校の先生
こちらでは部活動は教師の管轄外ですし、一般的に先生たちの労働時間は日本よりも少ないです。しかし、日本語イマージョン教育をしている学校は多くはなく、私がいる中学校の先生方は他の公立中学校とは異なる面もあります。例えば、公立学校で必要な教育内容をクリアするために、英語の教科書を日本語で勉強できるように訳したり、ワークシートを自分で作ったりすることです。仕事内容は高度で、特に新任の先生にとっては大変だと思います。
私のメンターの先生は生徒に楽しく学んでもらうために、社会の時間にメモリーゲームやかるたで言葉を学ばせたり、宿題としてことばのクロスワードパズルを作ったりしていました。また、文法の応用の勉強として絵本や漫画を作ったりもされていました。勉強が苦手な生徒に対してのスキャフォールディング*2も多く取り入れています。具体的には、漢字練習のためのシートや言葉のリストを作成したり、パートナーやグループ内で助け合えるように席を工夫したりしています。 このように、生徒が少しでも勉強を楽しいと思ってもらえるような教育を目指されている姿は素晴らしいと思います。
いつもきれいに整理整頓されていた教室。6年生で習う文法の覚え方を壁に貼り、生徒はそれを見て思い出したり、動詞を活用させたりします。
自分のやりたいことを表現するアメリカの生徒たち
アメリカの生徒は、日本の中学生と雰囲気が違います。日本の生徒は、ルールに従うことや、先生の話を聞くときは静かにしていることを求められます。しかし日本の手法を多く取り入れた小学校に通い、中学に進級してきた生徒たちであっても、日本とは雰囲気や態度が違うと感じます。
先生が話している時でも、自分のしたいことが優先で、水を飲んだり、「お手洗いに行ってきてもいいですか」と聞いてきたりする生徒がいます。また、先生が「何か質問はありますか」と問いかける前から、生徒自身が質問があることを挙手などで示してきます。私はこの1年を通して、日本でいう小学校6年生、中学1年生、中学2年生を見てきましたが、アメリカの生徒たちの方が、より個人を尊重し、自分らしさを抑えずに表現しているように思いました。態度や雰囲気において積極性や自由さが日本とは違うと感じています。
些細なことでも褒めてやる気を伸ばす
私はこのインターンシップを通して、特にクラスマネジメントと生徒を褒めるということの2つを学びました。
私の担当の先生はクラスマネジメントが小中学校で教える中で一番大切だと考えていらっしゃいます。そのため、先生の指示がよく通るようにすること、先生と同じ言葉で生徒に伝え、浸透させることをいつも意識していました。 その結果、先生の指示に対する反応は見違えるようによくなりました。生徒は「前向きます」の声かけですぐに着席するようになり、クイズの時には「しーん」とした雰囲気がつくれます。個人主義のアメリカでずっと育ってきた生徒がそれをできるのは、すごいことだと思います。
あまり日本語が得意でない生徒に対応することが多かったのですが、学ぶモチベーションを維持・向上させるために、褒めてあげることを常に意識していました。例えば、いつもよりも少し多く宿題ができたこと・きれいな字で書けたこと・配布物をグループ内で一番に机に出したことなど、どんな小さなことでも見つけて褒めるようにしていました。それによって生徒は前向きに学ぶ姿勢になってくれたと思います。
将来の目標に変化をもたらせた今回の経験
私は「子どもの笑顔が見たい」という思いでインターンシップをしてきました。勉強を苦手と感じている生徒に対応する中で、私が理想とする教育について具体的に考えるようになりました。
それは「一人一人にあった教育」です。勉強が苦手な生徒も日本語が苦手な生徒も、本人に合わせて内容や伝え方を変えると、理解度が変わります。その結果、褒めることが増え、やる気が増し、自然と勉強する量が増えます。このように、一人一人の能力に合わせることが、子どものよりよい学びに繫がります。これが、将来の展望の部分でインターンシップを経験して得た大きな収穫だと感じています。この教育を実現する場として、日本語教育に関わっていけたらいいなと考えています。
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